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桜を見て、早春の香りを思い起こした日

 高幡不動に、大好きなインドカレー屋がある。高幡不動尊に詣でた際は、必ず寄っているが、昨年からの流行りに乗ってか、ビリヤニがメニューに加わった。

 ビリヤニとは、ざっくり言うとインド風炊き込みご飯だが、惜しみなくスパイスが使われており、お米の甘い匂いと相まって、とても香り高いご馳走だ。香りが好きな人、特にスパイシーな香りに目がない人にはたまらないメニューではないか。

 さて、ビリヤニとカレーで至福の時を過ごして、店を出ると、早咲きの桜が咲き始めていた。寒い寒いと思っていたが、もう桜の季節がやってきつつあるんだなぁと、感慨深く花のかたまりを眺めていた。それから足を伸ばした高幡不動尊の山でも、満開に近い桜を見つけて、ああ、もうこんなに咲いているんだと焦る気持ちと、思いがけず桜の花と出会えた驚きとで、興奮していた。

 香り好きの人間としては、こんなふうに季節の変わり目を体感した時には、「今のこの季節、この空気感に合う香水を纏いたい」と思う。しかし、ここ1ヶ月程は、もうすぐ冬が終わるからこそ、冬の冷たく乾燥した空気や肌に合う(と自分が思っている)香りを集中して纏ってきているため、頭が切り替えられず、「早春の空気に合う香りなんて持っていないぞ」なんて思ってしまった。いやいや、沢山のボトルが家にはあるわけなので、香水を保管している棚の中をじっくり探せば、必ず何かしらあるはずだ。

 ここ数年、「早春の香り」と自分の中で定め、この時期に集中的に纏っているのは、Fueguia1833のManuela(マヌエラ)プーラエッセンシアだ。

 マヌエラのパルファンは、私の肌の上ではウォータリーな花といった香り立ちで、2・3時間で儚く消えてしまったが、プーラエッセンシアだと、水仙系のグリーン且つパウダリーな力強い早春の花の香りが半日以上続く。もう春はすぐそこまでやってきているぞ!と心が湧き立つ香りだ。この香りを、髪の毛先につける。

 そして、体には何か異なるベクトルで春に向かう香りを纏いたくなり、手に取ったのは、今年の2月に購入したGUERLAINのNEROLI PLEIN SUD(ネロリプランシュッド)だ。この香りは、ゲランと関係の深い探検家であり文筆家のサン=テグジュペリの小説『南方郵便機』をモチーフにしているそうだが、モロッコの土地を表現するためにスパイスが使われているとのことで、スパイスの香りが好きなら是非、とお勧めしてもらったものだ。ベースにはベチバーやサンダルウッド等のウッディな香りもあるとのことで、自分の場合、スパイスとウッディが合わさると、苦みが勝ち過ぎて雄々しい香りになりがちだが、ネロリプランシュッドは、モロッコ産のネロリの香りが主体となっているので、太陽の眩しい光のようにも感じる花の香りにより、雄々しいというよりは、全体的に颯爽とした雰囲気を醸し出している。

 スパイスが効いたビリヤニとカレーがとても美味しく、印象に残っていたので、ふと手に取ったネロリプランシュッドだったが、ざっくりした表現をすると、格好良い香りだ。

 早春は、もうすぐ春が来るという喜びと、様々な人との別れの季節であるという淋しさが同時にくる、私にとってはざわざわとした、情緒の波が大きくなる時期だ。思いがけず早咲きの桜に出会った時には、泣きそうになっていた。そんなやや情緒不安定な折には、せめて香りくらいは、格好つけさせてほしい。そんな願いを込めて選んだ香りなのかもしれない。

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