【2022年7月20日】オリックス新人・椋木蓮、9回2死からノーヒットノーランを逃す

オリックス・バファローズのドラフト1位ルーキー右腕、椋木蓮(22歳)が、37年ぶり2度目の快挙を逃したものの、新人離れした投球を見せた。


オリックスのドラフト1位新人・椋木蓮、プロ2戦目で快投

7月20日、京セラドーム大阪でのオリックス対日本ハムファイターズ戦、プロ2戦目のマウンドに登ったオリックスのドラフト1位ルーキー、椋木蓮(東北福祉大学)が、期待を超えるパフォーマンスを見せた。

椋木は日本ハム打線に対し、初回から圧巻の投球を披露した。
1回に1番・今川優馬、3番・近藤健介から2三振、2回は4番・野村佑希、5番・清宮幸太郎、6番・ヌニエスを三者三振、3回は先頭の7番・木村文紀から5者連続となる奪三振、二死から9番の石井一成を四球で歩かせ、続く1番の今川にも連続四球を与えたが、2番・中島卓也から三振を奪ってピンチを切り抜けた。
すると、オリックス打線は3回裏、1死一塁から4番の吉田正尚が今季10号2ランホームランを放ち、2-0と先制。
さらに、椋木は4回まで毎回奪三振となる8奪三振と、三振の山を築く。
5回、6回も三者凡退、7回も3番の近藤健介に四球を与えたが、4番の野村をダブルプレーで凌ぎ、得点を与えないばかりか、1本の安打も許さない投球。
8回も連続三振で二桁奪三振をマークすると、9回のマウンドへ。

椋木蓮、9回2死までノーヒットノーラン



椋木は先頭の9番・石井をライトフライ、続く代打・万波中正を三振に斬ってとり、11個目の奪三振。
2死にこぎつける。
椋木はここまで110球を投じていたが、快挙まであと一人。
日本ハムはさらに代打攻勢をかけ、2番の中島に代わり、佐藤龍世が右打席に入った。
佐藤はここまで一軍では12打席ノーヒット。
椋木は初球、真ん中高めに143キロのストレートを投じると、佐藤はフルスイング。膝をついて空振りした。
2球目は一転、131キロのフォーク。外角の落ちるボールに誘い出された佐藤のバットは止まらずハーフスイングの判定、たちまち2ストライクに追い込む。
3球目、130キロのフォーク。
ホームベース手前でバウンドするボールに佐藤もバットが出かかるが、掌は返さず、寸でのところで止まった。判定はボール。
4球目、椋木は148キロのストレートで決めに行った。
だが、真ん中高めに外れ、カウント2-2。

椋木の5球目は真ん中低めのフォーク。佐藤はなんとかバットに当ててファウル。
そして、6球目、キャッチャーの頓宮裕真はミットで地面を軽く叩いた後、外角低めに構えた。
この日、椋木が投じた116球目。
それまでキレに切れていたスライダーが真ん中高めに抜けた。

佐藤の必死さが乗り移ったかのように、振りぬいたバットはボールを捉え、乾いた音ともに打球は椋木の頭上へ。

椋木は反射的にグラブを頭上にかざしたが、時すでに遅し。
「うわっ」
椋木の唇は確かにそう動いた。
佐藤の打球は椋木のはるか頭上を越え、無情にもセカンドベース後方、センターの福田周平の前で何度もバウンドしてグラブに収まった。

NPB87人目、98度目となるノーヒットノーランが椋木の手から逃げて行った。

ここまでポーカーフェイスを貫いてきたルーキーもマウンド上で緊張の糸が切れたかのように、苦笑いを浮かべた。
一塁ベース上の佐藤は控えめに、こちらは安堵の笑みを浮かべた。

椋木を先発マウンドに送り出した指揮官・中嶋監督は試合中、めったに表情を変えることはないが、さすがの指揮官もその瞬間はベンチで小さく天を仰いで、壁にもたれた。

ここで椋木は交代を告げられた。
マウンドに来た投手コーチの高山郁夫に頭をポンポンと撫でられた後、万雷の拍手の中、マウンドを降りた。
ノーヒットノーランはおろか、プロ初の完投、完封も逃した椋木はベンチに座ると、その顔に後悔の念をにじませ、最後の投球を反芻するかのように半目を閉じ、表情を歪ませながら頭上で両手を組んだ。

椋木の後を継いだクローザーの平野佳寿は3番・近藤健介を迎え、一発が出れば同点という場面であったが、フルカウントからの9球目でレフトフライに打ち取り、ゲームセット。
オリックスが2-0で勝利した。
椋木は8回2/3、116球、被安打1、11奪三振、四球3、無失点で、プロ初登板から2連勝をマークし、今季24セーブ目を挙げた平野からウィニングボールとハグを受け取った。

9回2死からノーヒッターを逃した投手は24人目、26度目、途中降板は初

NPBで、「9回2死からノーヒッターを逃した投手」は椋木蓮が24人目、26度目である(うち、1962年の板東英二は9回2死まで無安打・1失点)。
しかもそこから逆転負けを喫し、敗戦投手になったのは1963年のジーン・バッキ―(阪神)、1966年の佐藤公博(中日)と2人いるが、いずれも最後まで投げ切っている。
椋木は勝利投手にはなったが、途中降板したのは史上初のケースとなった。

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NPB新人投手のノーヒットノーランは中尾輝三と近藤真一のみ

もしも、椋木がノーヒットノーランを達成していれば、NPBの新人投手としては1987年8月9日、中日ドラゴンズの前年ドラフト1位指名を受けた高卒ルーキー、近藤真一がプロ初登板・初先発となった、本拠地・ナゴヤ球場での対読売ジャイアンツ戦で達成して以来、35年ぶりの快挙であった。
なお、新人でノーヒットノーラン達成の第1号は、1939年11月3日、巨人・中尾輝三(のちの中尾碩志)が対東京セネタース戦(後楽園球場)で記録している。

またNPBの新人投手が9回以降にノーヒットノーランを逃したのは、2017年4月7日、広島カープの前年ドラフト1位で大卒新人の加藤拓也(現・矢崎拓也)がプロ初登板・初先発となった本拠地・マツダスタジアムでの対東京ヤクルトスワローズ戦、9回一死までノーヒットノーランを継続して以来である。

椋木蓮、プロ初登板・初先発・初勝利

椋本蓮は山口県山陽小野田市出身、2000年生まれの22歳。
地元・山口の高川学園高校では1年先輩にエース・山野太一(現ヤクルト)を擁し、2年生の時にセンバツで甲子園に出場にするも登板機会はなかった。
その後、東北福祉大学ではエースに成長、2021年のドラフト会議でオリックスから1位指名を受け入団した。
プロ入り後、初めて迎えた春季キャンプは故障で出遅れたものの、二軍で実戦を積んだ後、7月7日、本拠地・京セラドーム大阪での埼玉西武ライオンズ戦でプロ初登板、初先発を果たした。
椋木は6イニングを投げ、西武打線を被安打2、7奪三振、無失点に抑え、プロ初勝利を飾った。
そして迎えたプロ2度目の登板で、椋木はさらなる大器の片鱗を見せつけた。
椋木はノーヒットノーランの快挙は逃したが、これで一軍では14回2/3を投げて奪三振は18、被安打4で失点はゼロ。

今季、オリックスは山本由伸が高卒プロ6年目にして自身初ノーヒットノーランを達成している。
椋木は同じ右腕で1学年上の先輩・山本由伸を入団以来、「師」と仰いでいるが、早くもプロ2戦目にして、球界のエースである山本に「あと1球」で並びかけた。

ヒーローインタビューでは、打のヒーローである吉田正尚の隣に並んだ。
吉田からは
「ナイスピッチング・・・あと一人、惜しかったですけど、彼ならまたやってくれる」とたたえられた。
続いて、マイクを向けられた椋木は



「8回から1球ごとに皆さんが拍手してくれていたので、その気持ちに応えたい一心で投げたんですけど、最後にいちばんダメな球が行きました」
「三振を取ろうという欲が出て・・・まあ、ダメでした」

と、スタンドに残ったオリックスファンの笑いを誘った。

荒々しい投球スタイルと謙虚で繊細な受け答え。
早くも椋木蓮の次回登板が楽しみである。

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