【プロ野球】混セ、1982年の巨人と中日の首位争い(前編)
前回のnoteでは、今年のセントラル・リーグの混戦ぶりについて取り上げた。
では、NPBのレギュラーシーズンで過去にこのような、ゲーム差がマイナスになるような首位争いはあったのだろうか?
1982年の中日ドラゴンズと読売ジャイアンツの優勝争いである。
1982年、セントラル・リーグの首位争い
セントラル・リーグの首位争いは、8月を終えて、巨人と中日の一騎打ちとなっていた。
藤田元司監督が率いる巨人は先発4本柱に、江川卓、西本聖、新浦壽夫、加藤初を擁し、開幕3連勝とスタートダッシュに成功、4月は貯金7をつくったが、5月は5連勝の後、3連敗を喫するなど、貯金を殖やせずにいた。
一方、近藤貞雄監督が率いる中日は、4月は8勝7敗4引き分けと貯金はわずか1。5月下旬に5連勝と波に乗り、5月終了時点で巨人と1ゲーム差の2位につけた。
6月終了時点では、首位が広島、2位・巨人(首位から1ゲーム差)、3位・中日(同3ゲーム差)となったが、7月に広島が後退し、再び、巨人と中日の三つ巴の首位争いとなった。
7月終了時点で、3チームが3ゲーム差以内にひしめき合う展開となった。
8月に入り、広島が5勝15敗(4引き分け)と大きく負け越し、優勝戦線から脱落した(8月終了時点で、首位・巨人から11ゲーム差)。
一方、中日は巨人をかわして、首位に立ち、8月下旬、首位・巨人と2位・中日の直接対決3連戦を迎えた。
巨人と中日、8月の天王山
巨人が中日を3タテ
結果は、2-1、3-2、3-2といずれも巨人が1点差で勝利した。これによって、また首位が入れ替わった。
その後、中日はヤクルト3連戦で1勝2敗と負け越し、100試合を消化した時点え、48勝36敗16分けとなった。
一方の巨人は中日3連勝の後、大洋3連戦を2勝1敗、ヤクルトにも勝利した。
8月末終了時点で、110試合を消化して、60勝40敗、10分けとなり、貯金20。
巨人の残りは20試合で、2位・中日と直接対決5試合を残していたものの、4ゲーム差をつけ、リーグ優勝は盤石かと思われた。
巨人と中日、引き分け数の「差」と残り試合の「差」
しかし、8月終了時点で、考えなければならない要素が二つあった。
①中日の残り試合数が、巨人よりも9試合も多い
②中日の引き分け数が、巨人よりも7試合も多い
①によって、
巨人から見れば、「残り20試合で、2位・中日と4ゲーム差ある。」
中日から見れば、「残り29試合で、首位・巨人と4ゲーム差ある。」
同じ「4ゲーム差」という事実に変わりはないが、両チームから見る景色はまるで違うのである。
また、②は巨人は引き分けが少ないので、残り20試合で、1敗するたびに、中日より勝率の下がり幅が大きくなるのである。
つまり、同じ1勝・1敗でも、巨人と中日ではその重みが違ってくる。
つまり、直接対決で、1勝1敗でも、両チームの勝率に差が生まれるのである。
このことが、巨人を狂わせることになる。
巨人と中日、9月の天王山、その1(9月13日・14日/後楽園球場)
9月13日の試合を終えた時点で、両チームは以下の勝敗となり、巨人は後楽園球場に中日を迎えて、2連戦を行った。
初戦は巨人・江川卓、中日・都裕次郎の先発となったが、中日が1-2で迎えた6回、江川を捕え、3-2と勝ち越し、そのまま逃げ切った。
2戦目は巨人が中日先発・郭源治から初回に守りのミスもあり、5点を奪ってノックアウトしたが、中盤に先発・新浦壽夫がリードを守れず、逆転を許した。
巨人は6-7で迎えた8回、中日のリリーフエースの小松辰雄から1点を奪い、再び同点。そのまま7-7でドローとなった。
中日は1勝1引き分けでゲーム差は1つしか縮まらなかったが、実はそれでも負けなかったことが大きく、逆に巨人は1敗したことが大きくのしかかってくる。
そして、9月下旬、巨人と中日は最後の3連戦をナゴヤ球場で戦う。
巨人と中日、最後の天王山(9月28日、29日、30日/ナゴヤ球場)
初戦、巨人が5点リードで9回へ、完投を目指す江川卓が・・・
9月28日の初戦、巨人の先発は江川卓、中日の先発は三沢淳。
巨人は初回、三沢を捕え、5番・原辰徳の29号3ランで3点を先制すると、7回表を終えて、6-1と大きくリードを奪った。
8回まで2失点の江川は完投を目指し、そのまま9回もマウンドへ。
ところが、ここで奇跡が起きる。
江川は中日の猛攻に遭い、4点リードを守れず、6-6に追いつかれてしまう。延長10回表、中日のマウンドには、小松辰雄が立ち、巨人打線を無得点に抑える。
試合時間はすでに3時間20分を超えており、10回裏の中日の攻撃を終わって同点で終了しても、新しいイニングには入らないため、中日に負けはなく、巨人には勝利のチャンスはない。
にもかかわらず、江川はマウンドに上がった。
結局、江川は中日の勢いを止められず、最後は代わった角三男が、大島康徳にサヨナラ打を浴びて、万事休した。
そして、中日の勝利と同時に、2位の中日に「逆マジック12」が点灯した。
2戦目、巨人が原の同点弾で追いつくも・・・
カード2戦目は、巨人先発の西本聖は初回、自らのエラーで中日に先制されるも、6回表、3番・原辰徳が中日先発の都裕次郎から、2試合連続となる30号2ラン本塁打を放って同点に追いついた。
だが、その裏、巨人のセットアッパー、浅野啓司が中尾孝義に犠牲フライを浴びると、7回裏には谷沢健一がダメ押しの17号本塁打を放って、中日が6-2と逃げ切った。
中日はこれで首位に立ち、マジックは「10」となった。
3戦目、前日先発の西本聖がリリーフで連投
3戦目、巨人は5回に淡口憲治のタイムリーで勝ち越すと、藤田元司監督は、6回から前日先発して5回を投げている西本聖に連投を命じた。西本は4回を投げ切り、無失点に抑え、巨人が5-2で一矢を報いた。再び首位が入れ替わり、巨人が首位を奪い返した。
巨人と中日、10月の戦い
激闘の9月を終え、2チームの成績は以下の通りとなった。
巨人、残り4試合はすべて5位の大洋戦
中日が逆マジック10が点灯しているものの、巨人は残り4試合、対戦はすべて5位の大洋ホエールズであった。
巨人はここまで大洋に13勝7敗2分けと大きく勝ち越していた。
江川卓、西本聖、定岡正二と、すでにシーズン15勝を挙げている3本柱が控えており、そのうち、エースの江川は2試合に先発が可能だった。
特に、ここまで18勝を挙げている江川は当然、2年連続のシーズン20勝に向け、必勝を期してくる。
藤田元司監督も、前年就任1年目から2年連続のリーグ優勝に向け、エース江川の力は不可欠であった。
中日は残り13試合、5連戦、4連戦、4連戦
一方、中日は残り13試合、5連戦、休養日2日、4連戦、休養日1日、4連戦と続く日程になっていた。
都裕次郎、藤沢公也、鈴木孝政、三沢淳の4本柱で乗り切るしかなかった。
もし仮に、巨人が4連勝してしまえば、中日は残り13試合を10勝3敗で乗り切らなければならない。
その場合、中日が4敗目を喫した時点で、巨人の優勝が決まってしまうのである。
中日の近藤貞雄監督は就任2年目、前年5位から初のリーグ優勝に向けて、正念場を迎えた。
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