DeNA牧秀悟、新人王への道~開幕3カード全15安打を振り返る


横浜DeNAベイスターズの昨年ドラフト2位・牧秀悟(中央大学)が、開幕から素晴らしい活躍を見せている。
新型コロナウィルスの影響で、NPBの外国人選手の多くが入国で足止めを食う中、特にベイスターズは外国人選手全員がシーズン開幕に間に合わないという非常事態を迎えたが、そんなチームのピンチを自らのチャンスに変えたのが牧秀悟だといえよう。

DeNAの三浦大輔・新監督は開幕からなかなか勝ち星に恵まれなかったが、昨日4月4日、日曜日のデイゲームで、広島カープを3-1で下し、ようやく本拠地・横浜スタジアムのファンの前で初白星を掴んだ。試合途中から小雨が降りしきる中、指揮官としての初勝利を収めたのは雨男・三浦番長の面目躍如といったところであった(尚、三浦大輔の投手としてのプロ初勝利(初完投)も、プロ3年目の1993年9月4日、やはり広島戦(北九州市民球場)であった)

それまでチームの勝利にはつながらなかったが、三浦監督が抜擢して、開幕からスタメン3番を務める新人の牧が随所でいい仕事をしており、本拠地での初白星の後、今季初のお立ち台には、殊勲の先制ホームランを放ち、「人生初」のダイビングキャッチを見せた神里和毅(牧と同じ中央大学の5学年上の先輩)、プロ初勝利の阪口皓亮と共に、牧の姿があった。

牧は開幕3カード・9試合を終え、37打数15安打、打率.405、1本塁打、10打点、全試合で出塁という成績を挙げており、セ・リーグでは打点はトップ、打率はともに広島・菊池涼介(39打数19安打、打率.487)、巨人・ウィーラーに次いで堂々3位、安打数も、菊池に次いで2位タイ、OPS1.099、出塁率.450、長打率.649は共にリーグ4位の成績である。

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一方、阪神の昨年ドラフト1位でオープン戦で6本塁打を放った佐藤輝明は、開幕2試合目、5打席目にプロ初ホームランを放ち、しかも、開幕から2カード連続で本塁打は放ったものの、調子を落としており、早くもプロの壁にぶち当たった格好となっている。
開幕前は、セ・リーグの新人王は佐藤輝明で決まり、という声もあったが、それに待ったをかける存在、それが牧秀悟である。

しかも、牧のプロ初打席から全40打席を改めて、振り返ってみると、こんな特徴があると言えるのではないだろうか。
① ツーストライクからの粘りがある。
② 二死走者なしで廻ってきた打席で簡単にアウトにならない。
③ 第1打席でヒットが出ると必ず、マルチ安打になる(すでに5度)
④ チャンスメイクできる上に勝負強く、得点圏打率が.545(11打数6安打、1本塁打)
⑤ 最終打席での出塁が多い(9試合のうち、最終打席での凡打は3試合だけ)
⑥ 当初、三振が多く、最初の28打席で8三振であったが、ここ12打席は三振なし

牧が打席で非常に集中力のある打者だということがわかる上に、試合を追うごと、打席を経験するごとに成長を遂げていることが分かる。
なお、新人が開幕戦から連続した試合で出塁するのは直近、2016年の吉田正尚(オリックス)の10試合(3月25日から4月6日)という記録があり、牧は次の試合で出塁すれば吉田に並ぶ。

牧秀悟のここまでの活躍を振り返ってみよう。

プロ入り前(高校~大学)

牧秀悟は、ハマスタ自身初のお立ち台での「長野県から来ました牧秀悟でーす」という自己紹介通り、1999年4月21日、長野県中野市に生まれた。地元の松本第一高校に進み、遊撃手のレギュラーを掴むと、右の好打者として県下でも名の知れた存在となったが、夏の県大会では2年、3年と2年連続で初戦敗退。甲子園には遠く手が届かなかった。県下で同級生には、佐久長聖の元山飛優(ヤクルト、2020年ドラフト6位)という同じショートストップを守るライバルがいた。二人が3年生の時、夏の甲子園に進んだのは元山を擁する佐久長聖であった。

牧は東都大学野球リーグの雄、中央大学野球部のセレクションに合格し、入部した。同級生には、同じドラフトで日本ハムから2位指名されて入団する、「サニブラウンに勝った男」、俊足の五十幡亮汰がいる。牧は右の強打者として打撃が開花し、1年生からレギュラーを掴んだ。2年生の秋季には早くも、遊撃手としてベストナイン、3年の春季には二塁手として打率.400で首位打者、ベストナインに選出され、その夏、牧は「侍ジャパン」の大学日本代表のメンバーに選ばれた。このとき、選抜メンバーには、1学年上に明治大学の森下暢仁(広島)、慶応義塾大学の郡司裕也(中日)、柳町達(ソフトバンク)、同期に早稲田大学の早川隆久(楽天)、国学院大学の小川龍成(ロッテ)、そして、高校時代のライバルである、東北福祉大学に進んだ元山飛優もいた。牧は、活躍する同世代のライバルたちの刺激を受け、明確にプロを目指すようになっていた。牧は3年秋には打率.361でベストナインとMVPを手にした。牧は大学4年秋にも、打率.333、2本塁打で4季連続のベストナインに選出された(4年春はリーグ戦自体が中止)。

牧は東都大学リーグ通算81試合に出場して、288打数82安打、打率.285、5本塁打、50打点、11盗塁という成績であった。これは、同じ大学の5学年上の先輩である、神里和樹(2017年ドラフト2位)の試合数以外の記録を全て上回っている(尚、神里のリーグ通算記録は91試合に出場、307打数73安打、打率.238、2本塁打、28打点、10盗塁)

2020年ドラフト会議

三浦大輔・新監督の下、新たな船出を切ることになったベイスターズは、2020年のドラフト会議で、もはや近年の恒例ともいえる大卒投手の1位指名として、明治大学の右腕投手、入江大生(作新学院→明治大学)を選択したが、続く2位で牧を指名した。牧には、リーダーとして長らくチームを支えてきたホセ・ロペスが昨年まで着けていた背番号「2」を与えられた。

牧は新人ながら、オープン戦9試合に出場し、33打数9安打、3打点、チーム2位となる打率.273とまずまずの成績を残した。だが、話題をさらっていたのは、オープン戦で6本塁打を量産していた、同じドラフト同期の佐藤輝明(近畿大学、阪神・ドラフト1位)のほうだった。

2021年シーズン開幕後

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①3月26日 巨人戦 1回戦(東京ドーム) 開幕スタメン3番
三浦大輔・新監督による新体制で迎えた2021年のシーズン開幕、牧は3月26日の敵地・東京ドームでの読売ジャイアンツとの開幕戦、「3番・ファースト」で起用された。
ベイスターズの新人が開幕戦でクリーンアップに起用されるのは、前身の大洋ホエールズ時代、牧と同じ中央大学から入団した桑田武が、1959年の開幕戦で「4番・サード」で起用されて以来、チーム62年ぶりの大抜擢である。

牧はプロ初打席、いきなり巨人の開幕投手・菅野智之と対戦することになり、最初の打席はサードゴロ、続く第2打席は空振り三振、第3打席はサードゴロに倒れたが、7回に廻った4打席目では巨人二番手の高木京介から四球を選び、プロ初出塁し、続く田中俊太のタイムリー二塁打でホームを踏んだ。開幕戦は、先輩の桑田武同様、無安打に終わった。チームも新加入の田中俊太の6打点の活躍で9回に一度は追いついたが、9回に手痛いサヨナラ負けを許し、三浦大輔・新監督ともども、牧はプロ野球選手としての初陣を飾ることができなかった。

②3月27日 対巨人戦 1回戦 (東京ドーム)プロ初安打
翌日3月27日の開幕2戦目は、巨人先発の戸郷翔征の前に、3打席ノーヒットに倒れたが、前日から8打席ノーヒットで迎えた第4打席目、巨人の左の高梨雄平からしぶとく二塁への内野安打を放ち、これが記念すべきプロ初安打となった。しかし、試合は終盤に大きく離され、5-10で敗れ、連敗となった。
(同じ日、高校時代のライバル、元山飛優は神宮球場での阪神戦に途中出場し、第3打席目にプロ初ホームランを放った)

③3月28日 巨人戦 2回戦 (東京ドーム)プロ初打点、初の猛打賞
いきなりの2連敗。チームはなかなか勢いに乗れなかったが、牧は確かな感触を掴んでいた。その翌日3月28日の開幕3戦目、初回一死三塁で迎えた第1打席、巨人先発の左腕、今村信貴からフルカウントまで粘った挙句、三塁線を抜く、レフトへ先制となるタイムリー二塁打を放った。これがうれしいプロ初打点となった。試合は8回にリリーフ陣が追いつかれ、1-1の引き分けに終わり、牧の殊勲打は消えたが、その日は第3打席、第4打席もともにレフト前にヒットを放ち、出場3試合目にしてプロ初の猛打賞をマークした。

④3月30日 ヤクルト戦(横浜スタジアム)2試合連続マルチ安打
移動日を挟んで迎えた3月30日、本拠地・横浜スタジアムでの開幕戦となった開幕2カード目のヤクルト戦でも、牧の勢いは加速していった。牧は3打席目にセンター前ヒットを放つと、第5打席目もレフト前にヒットを放ち、2試合連続のマルチ安打。しかし、チームは7回まで4-1とリードしていたが、リリーフ陣が打たれ、逆転負けを許した。これでチームは引き分けを挟んで3連敗となった。(ヤクルトの元山も途中出場した)

⑤3月31日 ヤクルト戦(横浜スタジアム) プロ初ホームラン
3月31日、試合前のハマスタの電光掲示板には変わらず、「3番・ファースト・牧」と映し出されたが、一方のヤクルトの先発ラインナップにも「8番・ショート・元山」と映し出された。かつて長野の高校野球界を二分した二人の名前が、スコアボードの両側に並んである。そして、チーム同期のドラフト1位・入江大生がプロ初登板・初先発のマウンドに上がる、デビュー戦にもなった。しかし、入江はヤクルト打線に終始、リードを許し、6回まで0-5と劣勢に立たされた。ここでも反撃の口火を切ったのは新人同期の牧だった。牧は第3打席目、6回裏無死一、二塁から廻ったチャンスで、ヤクルト先発・高梨裕稔の初球を叩き、レフトスタンドへのホームラン。反撃ののろしを上げ、それまで無失点を続けていた高梨をマウンドから引きずり下ろした。これで3試合連続マルチ安打。しかし、そのまま試合は動かず、チームは3-5で敗れた。
なお、2020年ドラフト指名された新人野手の中でプロ初ホームランを放ったのは、佐藤輝明(5打席目)、元山飛優(3打席目)、タイシンガーブランドン大河(西武ドラフト6位、5打席目)に次いで4人目(21打席目)となった。

⑥4月1日 ヤクルト戦 3回戦(横浜スタジアム)あわやサイクル安打
4月1日、ヤクルトとの3回戦は思わぬ大乱打戦となったが、ここでも牧は存在感を発揮した。牧は、初回の初打席、同じドラフト同期の新人、ヤクルト先発の山野太一(2020年ドラフト2位)から二死走者無しの場面でセンターオーバーの三塁打を放ってチャンスをつくると、続く4番・佐野恵太の同点タイムリー二塁打、5番・宮崎敏郎の勝ち越しタイムリー安打を呼び込んだ。
山野との2度目の対戦となった第2打席目は、2点ビハンドで迎えた2回一死満塁のチャンスで2-2からファウルで4球粘った後、10球目を叩いてタイムリー二塁打を放ち、これが走者一掃の一打となって、一気に逆転した。ここで山野はマウンドを降りた。
牧は5回にも先頭打者として内野安打を放ち、この日早くも3安打・猛打賞となった。
この日の牧は、三塁打、二塁打、単打と、残り本塁打が飛び出せば、NPB史上初・新人によるサイクル安打の期待もかかったが、第4打席は見逃し三振。第5打席目は11-11の同点で迎えた9回一死一塁の場面で廻り、一発が出ればサヨナラ勝ち、かつサイクル安打達成という、願ってもないチャンスを迎えたが、2-2から空振り三振に倒れた。試合はそのまま11-11で引き分けた。

⑦4月2日 広島戦 1回戦(横浜スタジアム) 開幕から7試合連続出塁
4月2日、チームはいまだ勝利無しで開幕3カード目となった本拠地に、首位・広島カープを迎えた試合、この日の牧は、ファーストではなく、初めてセカンドの守備位置に入った。広島先発の大瀬良大地らに抑えられ、3打席無安打だったが、0-4と4点ビハインドで迎えた9回裏の先頭打者として、ドラフト同期、1位の栗林良吏から7球粘って四球を勝ち取り、後続に望みをつなげた。結局、カープ投手陣に零封されたが、この日の牧は無安打ながら開幕からの連続試合出塁を7に伸ばした。

⑧4月2日 広島戦 2回戦(横浜スタジアム)打点リーグトップタイ
開幕から7試合、勝ち星がない苦しいチーム状況で迎えた4月3日も、自軍の先発の京山将弥が5回までに大量6点を許し、一方、打線は広島先発の九里亜蓮の前に、5回まで1得点と抑えられる嫌な展開であった。だが、牧は6回、無死二、三塁で廻った第3打席目、2-2と追い込まれながら、レフトへタイムリー二塁打を放ち、走者二人を迎え入れ、3-6と追い上げムードをつくった。これで9打点となり、リーグトップタイ。
3-7と4点ビハインドで迎えた8回、二死走者なしとなったところで、牧に第4打席目が廻ると、ここもフルカウントまでしぶとく粘って四球を選び、四番・佐野につなぐ働きを見せた。しかし、そのままチームは3-7で敗れた。

⑨4月4日 広島戦 3回戦(横浜スタジアム)プロ初の本拠地お立ち台
4月4日、開幕から未勝利のまま迎えた9戦目、先発の阪口の粘りの投球と、中央大の先輩である神里の先制ホームラン、宮崎敏郎の同じく今季1号となるソロホームランで2-0とリードし、よい流れで迎えた5回、牧は二死三塁の場面で廻った第2打席、広島二番手のコルニエルからレフトへのタイムリー安打を放って中押し点となる貴重な3点目を奪い、チームのシーズン初勝利、阪口のプロ初勝利、そして、三浦監督の初勝利を大きくアシスト。
かくして、三浦大輔・新監督は開幕9戦目にしてようやく白星を、しかも本拠地で掴むことができたのである。
尚、牧は7回の2死走者なしの場面からも、三番手・中田廉に対しフルカウントまで粘ってライト前へのヒットを放ち、これで5度目のマルチ安打を記録した。

三浦大輔監督率いる新生ベイスターズの船出は、投打が噛み合わず、苦しいスタートダッシュを強いられた。だが、歴史を紐解けば、大洋ホエールズ時代の1960年、名将・三原脩新監督の下でも開幕6連敗という船出だった。その後、持ち直し、6月下旬から7月初旬にかけて8連勝をマークして、勝率5割を超えると、8月、9月に大きく貯金をつくって、球団創設初のリーグ優勝、そして、初の日本シリーズでも大毎オリオンズに対して、下馬評を覆し、すべて1点差ゲームをものにして4連勝で覇者となった。長いシーズンはまだ始まったばかりである。
「乗りに乗ったら止まらない、それがベイスターズだと思います」
―牧は初めてのお立ち台でこう言って締めたが、牧の著しい成長こそが、「乗りに乗ったら止まらなくなる」チームの躍進をもたらす起爆剤となりつつある。

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