【高校野球】ノーゲーム廃止、サスペンデッドゲーム導入を


夏の甲子園が2年ぶりに開催されている。

コロナ禍で開催される今大会、第103回大会は原則、無観客試合で、入場できるのは学校関係者、主催者が認めた関係者のみとなった。

大会開催によってもっとも懸念されていたのは、参加するチームの選手たちや関係者への感染の拡大だが、大会開会後、チームから感染者が複数、見つかった2校が出場を「辞退」している。

また、この第103回大会は天候にも祟られている。

西日本はこの時期としては、異例ともいえる長雨で、今大会は史上最多となる6度目の順延となり、大会日程にも深刻な影響が出ている。
しかも、天気予報では関西地方は当面、雨模様が続く見込みだ。

現時点で、決勝戦は8月28日に予定されている。
だが、これ以上、順延が起きれば、その後、甲子園で8月31日に予定されているプロ野球の阪神タイガース戦と、甲子園大会決勝戦の「変則ダブルヘッダー」も検討され始めているという(尚、1975年夏の第57回大会は、5度の順延となり、阪神は8月23日、24日に予定していたヤクルト戦を中止、グラウンドを甲子園の決勝戦に譲った)。

そんな中、甲子園大会における、試合中断による試合の成立・不成立のルールにも疑問が投げかけられている。

今大会、雨天で多発するノーゲームとコールドゲーム

今大会3日目の第1試合、1回戦のノースアジア大学明桜対帯広農業は、明桜の右腕・風間球打投手が帯広農を無安打に抑えて、4回裏終了時点まで明桜が5-0とリードしていたが、降雨ノーゲームとなった。
夏の甲子園で、ノーゲームが宣告されたのは2009年(第91回大会)以来である。
同カードは3日後の8月15日、ようやく再試合が行われ、明桜が4-2で帯広農に勝利した。

そして、8月17日、大会5日目の第1試合、1回戦の大阪桐蔭対東海大菅生は、午前8時のプレイボール。雨中の熱戦となった。

大阪桐蔭は1回、4番、花田旭の2ランホームランで先制すると、5回まで5-1と試合を優位に進める。

東海大菅生は5回から、エースナンバー「1」を背負った本田峻也がマウンドへ。
本田は投げ終わった後、ぬかるんだマウンドに足を取られ、転倒したり、制球もままならいが、大阪桐蔭に傾いた流れを必死で食い止める投球を見せる。

そして、試合が熱を帯びるほど、雨脚も強くなっていく。

大阪桐蔭のエース・松浦慶斗の前に、6回まで1点に抑えられてきた東海大菅生だが、7回、試合が動く。
東海大菅生は7回表の攻撃、無死二塁から、エース本田が自らタイムリー二塁打を放ち、2-5と3点差に迫る。
その後、2死満塁とし、堀町が2点タイムリー二塁打を放ち、4-5の1点差に。
さらに、2死二、三塁と追撃するが、小池がフルカウントから空振り三振。
松浦はこれ以上の失点はやらないとばかりに、反撃を断ち切る。

7回裏、大阪桐蔭の攻撃、1死から、宮下が打った当りは三塁線を鋭く襲うライナー。
抜けたかと思われた瞬間、サードの小池が飛びつき、ダイビングキャッチ、本田を盛り立てる。これで2死走者なし。
しかし、大阪桐蔭はここから本田を攻め立てる。
ヒットと四球でしぶとくチャンスをつくり、2死一、二塁。
ここで代打・田近の打球はライトの千田の頭上を襲い、グラブをかすめる当たりとなり、二者が還って7-4。再び、大阪桐蔭のリードは3点と広がった。

大阪桐蔭が7-4とリードして迎えた8回表、大阪桐蔭は2番手の竹中勇登をマウンドへ。
東海大菅生の攻撃は1死から主将の栄がレフトへヒットを放ち、1死一塁。ここで、左打席には3年生エースの本田が立った。
本田はフルスイングすると、雨で滑る手からバットがすり抜けた。
2-1からの4球目、本田が逆転を信じて打った打球はショートの定位置の前でぬかるみに嵌り、完全に打球の勢いは死んでいた。大阪桐蔭のショート藤原は苦笑いを浮かべ、ボールを拾った。
これで1死一、二塁。一発が出れば同点の場面、打席は8番の金谷。
しかし、皮肉にも、本田のこの一打が審判団に中断を決断させた。
甲子園はすでに、まさに水たまりの中にグラウンドがあるような状態であった。

試合を中断したものの、甲子園上空の天候は一向に回復の気配を見せない。
中断から30分が経過し、主審の山口智久・審判員がグラウンドに姿を見せた。
両校の主将を呼び、ベテラン審判員の山口さんはこう言った。

「申し訳ないけど、グラウンド状況が悪いから、ここで試合終了にさせてもらいます。
お互いによく戦い、いい試合をしてくれました。
大阪桐蔭と東海大菅生がまた甲子園で再戦できるように頑張ってください」

真剣な表情でその言葉に耳を傾けた主将二人は互いに礼、そしてマスク越しに何か言葉を交わすと、それぞれベンチに引き揚げた。
山口主審はそれを見届けると、ホームベースの後ろに立ち、バックネットに向かって、右手を上げ、「ゲーム(セット)」と、雨に煙るグラウンドに響き渡る声で宣告した。
脱帽して一礼、そして、グラウンドに向き直ってさらに一礼した。

勝利した大阪桐蔭の池田主将は試合後、
「こういう形で(9回まで戦えず)終わってしまった。(試合に負けているのが)自分たちだったらと思って、相手(東海大菅生)の気持ちも考えた上で、この後の試合も戦っていきたい」

一方、東海大菅生の栄主将は、試合終了後、チームメートたちに「泣くなよ」と声をかけて回った。
「ああいう結果で終わってしまって、すごく悔しいですけど、自分は絶対、泣かないと決めてました」
「自分たちは後半戦、強いので、そこは自信がありました。ただ、運も実力のうち。
仕方ありません。負けてしまって(メンバーに入れなかった選手たちに)申し訳ない気持ちがありますが、最後は笑顔で終わりたいと思います。」

栄主将は、大阪桐蔭・池田主将には「優勝を目指して、自分たちの分も頑張って」と伝えたという。

夏の甲子園大会における過去のコールドゲームは?

夏の甲子園大会でのコールドゲームは、1998年の第80回大会で、専大北上対如水館の試合で、7回裏2死一塁、6-6で試合成立、引き分け再試合となって以来、23年ぶり8度目となった。

また、コールドゲームで勝敗の決着がついたのは、1993年の第75回大会の2回戦、鹿児島商工対堀越の試合、8回表、堀越の攻撃で無死一塁の場面で、試合成立となり、鹿児島商工が3-0で堀越に勝利して以来、28年ぶりである。

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夏の甲子園大会における過去のノーゲームは?

さらに、今日(8月19日)、大会6日目の第1試合、1回戦最後となる日大東北対近江も、8時に試合開始されたものの、5回裏2死満塁の時点で、近江が1-0でリードしていたが、降雨で中断。2時間ほど待ってノーゲームが宣告された。
(第2試合の西日本短大付属対二松学舎大付属も中止となり、翌日に順延となった。
第3試合、第4試合は天候の回復を待って、開催された)

夏の甲子園でノーゲームが宣告されたのは、前述のノースアジア大学明桜対帯広農に続き、今大会2度目、通算で20度目である。

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高校野球のコールドゲームの成立条件は?

高校野球のルールでは、試合成立、すなわちコールドゲームの要件は7回である。
試合が成立しない場合は、ノーゲームとなり再試合となり、サスペンデッドゲームは適用されない。

高校野球特別規則(2021年版)

http://www.jhbf.or.jp/rule/specialrule/specialrule_2021.pdf
http://www.jhbf.or.jp/rule/specialrule/specialrule_2021.pdf
www.jhbf.or.jp

(抜粋)
20. 正式試合の成立
審 判 員 が 試 合 の 途 中 で 打 ち 切 り を 命 じ た と き に 正 式 試 合 と な る 回 数 の 規 則7.01(c)については、高校野球では5回とあるのを7回と読み替えて適用する。

23. サスペンデッドゲームの取り扱い
サスペンデッドゲームは、高校野球では適用しない。 (規則 7.02)

プロ野球のNPBでも2012年以降、サスペンデッドゲームは採用されていない
(それ以前も、パシフィック・リーグのみ採用)。

だが、高校野球でサスペンデッドゲームを認めないのはまったくもって不可解である。

タイブレークの導入

一方、甲子園大会では、延長戦による選手たちへの負担を考慮し、2018年のセンバツ大会からタイブレークが導入されたのは記憶に新しい。
それまで、9回終了時点で同点の場合、延長戦の規定は以下の通りであった。

・1915年~:無制限
・1958年~:18回(引き分けの場合は再試合)
・2000年~:15回(引き分けの場合は再試合)
・2018年~:無制限(ただし、13回からタイブレーク)

なお、2018年以降の甲子園大会では、決勝についてはタイブレークを実施せず延長15回まで行い、引き分けの場合は再試合とし、再試合で延長12回まで決着がつかない場合は、13回からタイブレークを実施するとしていた。
今年のセンバツ大会から、決勝戦でもタイブレークが導入されることになった。

(抜粋)
22. タイブレーク制度の採用
(1) 以下の大会でタイブレーク制度を採用する。
硬式…春季・秋季都道府県大会、春季・秋季地区大会
選抜高等学校野球大会、全国高等学校野球選手権大会(地方大会含む)
軟式…春季・秋季都道府県大会、春季・秋季地区大会
全国高等学校軟式野球選手権大会(地方大会含む)
(2) タイブレーク制度の運用は以下の通りとする。
▽ タイブレーク規定
① タイブレーク導入開始回については、12 回終了時に同点の場合 13 回から
タイブレークを開始する。
② 打順は、12 回終了時の打順を引き継ぐものとする。(次回以降も前イニング
終了後からの継続打順)
③ 走者は、無死、一・二塁の状態から行うものとする。
この場合の2人の走者は、前項の先頭打者の前の打順のものが一塁走者、
一塁走者の前の打順のものが二塁走者となる。
④ タイブレークを開始する各イニングの前に、審判委員と両チームは各塁上
の走者に誤りがないか十分に確認する。
その後、守備側の選手交代およびポジション変更、攻撃側の代打および代走
は認められる。
⑤ タイブレーク開始後、降雨等でやむなく試合続行が不可能になった場合は
引き分けとし、翌日以降に改めて再試合を行う。
⑥ タイブレーク開始後、15 回を終了し決着していない場合はそのまま試合を
続行する。ただし、1人の投手が登板できるイニング数については 15 イニ
ング以内を限度とする。

高校野球でサスペンデッドゲームが認められていない理由は?

高校野球はトーナメント大会の性質上、勝者を決めなければいけないのは当然だが、降雨などを理由にノーゲーム、コールドゲームが認められていて、サスペンデッドゲームが認められていない理由は何だろうか。あまり明確な理由は明らかになっていない。

ノーゲームのデメリット

ノーゲームの場合、それまでの試合のプレーの記録は無になってしまう。
リードしているチームは、再試合でまたゼロから試合を始めなければならない。
投手、打撃、守備の結果も公式記録からも除外されてしまう。
つまり、打者ならホームランを打っても、投手は三振を奪っても、公式記録には残らないのである。

その最たる例は、夏の甲子園、第91回大会(2009年)の1回戦、如水館対高知である。
https://vk.sportsbull.jp/koshien/articles/ASJD15WJ2JD1PTQP00C.html
2日連続降雨ノーゲーム 如水館・高知、選手らの思いは | バーチャル高校野球 | スポーツブル
 夏の甲子園といえば、青空と太陽の印象が強いが、時に雨がドラマを生むこともある。2009年の第91回大会1回戦。如水館(広島)―高知は、全国大会で唯一、2試合連続で降雨ノーゲームとなった。1、2試合目
vk.sportsbull.jp


同カードは大会2日目の8月9日、第1試合に行なわれたが、3回まで如水館が2-0でリードしていながら、台風9号の影響で雨天中止になった。
翌日の再試合も5回終了時点で如水館が6-5とリードしていながら、またもノーゲームとなり、高知の木下拓哉(中日ドラゴンズ)などが放ったホームランは「幻」となった。
また、高知のエース公文克彦(巨人→日本ハム→西武)と木下のバッテリーは、2試合で8失点したが、これも「幻」となった。
結局、3回目の顔合わせで、高知は公文が「3度目の正直」で160球、14奪三振で完投し、9-3で如水館に勝利している。高知は、公文が3日連続、3試合で305球を投げた末につかんだ、甲子園初勝利だった。

ノーゲームにして、プレイボールからやり直すくらいであれば、サスペンデッドゲームとして、翌日以降に、試合が中断された状況から再開するほうが、双方のチームに不公平感もなく、理にかなっている。
何より、選手たちのプレーが公式記録として残る。
日程の進行にもプラスに働く。

コールドゲームにも問題がある。
確かに、勝敗の決着はつくが、球児たちは9イニング、戦うことが保証されていない。
これは不公平と言わざるを得ない。

選手たちは試合終了後、ホームベースを挟んで整列、お互いに礼することもなければ、
応援してくれた観客にも、感謝を伝える挨拶することも許されない。
勝利したチームも、勝利の栄誉を称える校歌の斉唱もない。

高校野球のもっとも重要な部分を欠くことになるのではないだろうか。

高野連の今後の対応は?

これまでも甲子園大会の運営には、様々な問題が提起されてきた。

過密な試合日程の緩和、投手の球数制限の問題などが課題とされてきた。

過密とされる試合日程を見直し、2019年の夏の第102回大会から、準決勝と決勝の間に休養日ができた。
今大会は3日間の休養日が設けられる予定だったが、休養日はすでに2日減らされ、あと1日しかない。
投手の投球制限は、今年の第93回センバツ大会から、一人の投手につき1週間で500球までと決められている。
今大会は度重なる悪天候により、新たに「ノーゲーム」「コールドゲーム」の問題にも焦点が当たった。

日本高野連はこれを機に、ノーゲームの廃止、サスペンデッドゲームの導入を真剣に検討していただきたい。

P.S.
今日(8月19日)、日本高野連の小倉事務局長が、「継続試合」の導入の検討を行うことを明らかにした。
https://hochi.news/articles/20210819-OHT1T51139.html

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