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【エッセイ】⑥ひいきじゃないよ。実力だよ。


昇級により。ジャイアンとあきらくんよりも階級が上になった。

店長と、パートの主婦さん3人組で相談して決めた結果らしい。

でも、最初は喜びを感じられていたのに、どんどんと気が重くなっていった。

ジャイアンは仕事は雑だけど私の知らないことをいっぱい知ってるし、クレーム対応とか、イレギュラーなことの経験も私よりある。

あきらくんは容量はそこまで良くないものの、やっぱり私の知らない知識をもっているし、何よりも勤務態度が真面目で丁寧。だからこそ作業が遅かったり、周りが見えていなかったりするところはあるのだけれど。

要は、私の中でこの3人は割と対等な関係であるはずだった。それはきっとあきらくんもジャイアンもそう。なんなら2人は私のことを下に見ているところもある。

急に自分より下だと思っていた人が、上の立場に立つとなったら絶対に不満を持つ。想像は容易であった。

新しい階級のことを店長から聞いてすぐ自分の気持ちを伝えた。

「こんなに評価されているなんて思っていなくて、本当にありがたいんですけど、、

やっぱりジャイアンとあきらくんよりも上に立つってなると2人は私に不満を持ちます

どういう基準で判断していただいたのかわからないですけど、これだけは確信を持って言えます。

だから私を☆1にするか、せめてあきらくんだけでも☆2になりませんか。」

せっかくの判断を崩すようなことを言って、申し訳なかった。

普段すぐにふざけに走る店長は、この時ばかりは真剣な、少し同情したような顔で話を聞いていた。そしていつもより低めのトーンで答えた。

「俺もそう思う。俺はあの2人が入ってから人手不足だったこともあって、少し頼りすぎちゃったんだよね。

だから実力が追いつかないまま、どんどん2人は知識だけはある頭でっかちになっちゃったんだ。

特にジャイアンは身内だったこともあって、本来なら俺がやらなきゃいけないようなことも、任せちゃったりした。

あいつは少しガキだから、それで自分が周りよりできるって勘違いしちゃったんだよね。

当事者のもっさん達からしたら対等に見えるかもしれないけど、俺や主婦さん達からしたら差は歴然としているよ。

本当はもっさんにパートナーリーダーになってもらおうかとも思ったんだけど、ジャイアン達のことがあるから☆2に留めたんだ。ごめんね。

そう、これでも俺たちは妥協してるんだよ。
もっさんに対する正当な評価なんだよ。

全員が全員、納得のいく結果を求めるのは難しい。だから今回、ジャイアンたちが不満を持ったとしても、少し受け流してくれないかな。」

嬉しかった。高一から始めたこのバイト。
最初は全然仕事が出来なかった。周りの先輩たちは私と同じラインからのスタートだったはずなのに、気がついたらみんな私の手の届かないところまで進んでいた。

容量が悪いのかもしれない、こういう仕事に向いていないのかもしれない。何度も思った。

でも自分で始めたことを途中で投げ出すなんてしたくなかった。

楽しそうだなって思って手を出して、少し上手くいかなかったから、やっぱやーめた。なんて、そんなのかっこ悪い。

そう思って、人一倍の努力をしたわけでも、何よりも時間をかけて真剣に取り組んだわけでもないけれど、ただ逃げることだけはしなかった。

その結果が今、評価された。
最初の頃は、私がミスする度に怖い顔をしていた店長が、
「よくがんばったな、おめでとう。」
と手を出してくれている。

それを、ジャイアンとあきらくんが怖いから、なんて理由だけで捨てたくない。

目がピクピクするのを感じた。泣き虫な私にはわかる。あぁこれは、涙が出るサインだ。

「本当にありがたいお言葉です。
2人の不満なんてかき消す勢いで、またどんどん成長していきます!」

そう言って、泣く前に事務所をでた。


それから少し経つとやっぱり階級の変化の影響はすぐに出始めた。特にジャイアン。

最初はすごく小さなイジりだった。
私がミスをすると、

「あぁ、もっさん。☆2なのにそんなミスをしていいのかよ。」

なんだよ、誰だってミスするだろ。

なんて思いつつ、

「へへへ、やっちゃいました。すみません。」
と、こんなのは軽く受け流せる。


そしてある日、シフトに入ると、主婦さんのYちゃんが話しかけてきた。

「この前、ジャイアンと階級の話をしたんだよ。やっぱり少し不満そうだったから、お前はもう少しカウンター内の作業をがんばれ、って言ったのよ。

でも、もっさんが評価されたのは、オープニングスタッフだからでしょ?って、そう言ってきたの。自分のことには触れずに、ね。

だから、馬鹿か!って返した。

もちろん、オープニングからずっとやっていて、そこで積上げてきたものも評価のうちに入っているかもしれないけど、それを抜きにしてもこの評価は覆らないよ。決してひいき目で見ているわけじゃない。
これはもっさんの実力なんだよ。って。」

Yちゃんは、いつも欲しい時に力強い言葉をくれる。

実際最近、周りのバイトの子から、もっさんが主婦さんにひいきされてるって、ジャイアンが言っていたことを聞いたばかりだった。

流石にひいきされてるって言われたのはグサッときた。年上ウケは良い方だと自覚している。そうなのかもしれない、と思ってしまった。

それを真っ向から本人に違う、実力だ、と言ってくれるなんて、嬉しすぎる。

その信頼を裏切りたくない。
だから私は、誰から見ても☆2に相応しい人になる。ジャイアンに認めさせてやる。改めてそう決意した。

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