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『四月になれば彼女は』ブックレビュー


恋愛って美しい部分ももちろんあるけど、人間関係である以上、美しいだけなはずはないんですよね。

恋が始まりその形が変わっていく様がすべて、濁流のように目まぐるしいかというと、そうでもないし。虚無、ってことさえあり得る。

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「昔は恋愛なんていつでもできると思ってたんだけどな。いまとなれば、それが物語のなかにしかなかったということに気づいたわけで」
(本編より)

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と、いうか、好きな人への熱量って、そんなに高いものじゃないのかもしれないなと思った。気持ちが通じあってふわふわにこにこ楽しく過ごせる時間に酔うだけ酔って、楽しい時間が終われば、それまではあたり前にあった優しさも思いやりも、手間のかかる“めんどくさいこと”になっていく。

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ストーリーは、
精神科医の藤代は、恋人の弥生との結婚式の準備を進めていた。そんなおり、世界を旅するかつての恋人・ハルから手紙が届く。
という感じで始まる。

ぶっちゃけ藤代が弥生のことを大事にしているとはとうてい思えないんだけど、じゃあ藤代が薄情なサイテー男かというと、そうじゃなくて、彼のような感覚でいる人、まあまあいるような気がする。

実際のところ、惰性のような流れ作業で結婚を進めていくカップルってどんだけいるんだろ…とか考えてしまった。

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『「みんな、自分より大切なものを見つけたいんだと思うけど」

藤代はグラスに少しだけ残ったワインを飲み干す。ウユニの天空の鏡にひとりで立つ、ハルの姿が頭をよぎった。彼女はどうしてそこにいるのか。なぜ突然手紙を書いてきたのか。

「きっとあのブライダルサロンにいた人たちは、そういう希少な出会いをものにしたんだよね」
追いかけるように弥生もグラスを空けた。
なんだか他人事みたいな言い方だな、と藤代が指摘すると、もちろん私もそのひとりよ、と彼女はささやくように言った。』

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『誰かを愛しているという感情は一瞬だということが、いまならわかります。
あのときのわたしは、それが永遠に続くものだと信じていた。あまりに幼稚で無防備。
でもあの頃のわたしの方が、いまのわたしよりも何倍も力強く生きていた気がするのです。

あの頃の清冽な想いに、わたしはいまだに圧倒されているような気がします。』

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『「ねえフジさん、どうしてみんな結婚するんですかね?」
「さあ、どうだろ。しない理由が特にないからじゃない?」
「なんすか、その消去法みたいなの」
「ある程度年齢がいったらしたくなるんだよ、きっと。家族とか子供とか欲しくなったりさ」

本当に結婚したいのか?他人事のようにそれを語りながら、藤代は自問した。けれども、それは無意味な問いに思えた。
(本編より)

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帯の推薦文に「究極の恋愛小説」なんて書いてるもんだから、どれだけ胸がはち切れることになるんだ…!!と期待したけど、ちょっと違った。
いやだいぶ違った。

最後に、藤代がカニャークマリに行ったこと、あれは愛ゆえなのか。
どうなんだろう。
うーん、そうじゃないな。きっと始まりなんだろうな。

1回読むだけじゃ、味わいきれない本でした。

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『避けがたく今日の愛から、明日の愛へと変わっていく。けれども、その一瞬を共有できたふたりだけが、愛が変わっていく事に寄り添っていけるのだと思う。』(本編より)

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