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おんてら未来ストーリー

#こんな学校あったらいいな委員会のみなさまへ
私たちは、コロナ期間に何かできることはないか?と考え、全国の学校の先生・大人を集めて『オンライン寺子屋』という活動を始めました。既存の枠組みに囚われることなく、“あったらいいな”で溢れる教育・学校があったら。その思いを書籍化したい!という願いで、おんてらの理想の未来ストーリーを応募します。

20XX年 6月のある日

カーテンを開けると、梅雨らしく雨が降っている。
伸ばしかけた手は制服を掴むことを辞め、みづきはパソコンを開いている。

今日は『オンライン学校』の日にしよう。

午後に晴れたら、仲のいい友達にはカフェで会えばいいし、人気授業の「バーチャル世界旅行」なら、3Dゴーグルをかけて世界を旅する中村先生と一緒に、世界中の人と実践的な英語のコミュニケーションをすることができる。今先生はオーストラリアにいるはずだから、天気もいいはずだし。

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PCの画面上に大きく映し出されたオンライン寺子屋のログイン画面。
数年前に流行ったコロナウイルスの期間に生まれたらしい。全国的に学校が休校になった渦中に、学びを止めないために始まった。

今とは違い、学校では一律のカリキュラムを教えていたから、もっと専門的な内容が学びたい生徒・教えたい先生がオンライン寺子屋に集まって授業が行われた。

それまで自分の住む地区で決まっていた「公立学校」の垣根を越えて、全国で好きな先生の授業を受けられるようになり、オンライン寺子屋と似た取り組みは全国・世界へと広がっていった。

学校の先生から始まり、音楽家や各業界のプロフェショナル・名の知らぬ地域のさまざまな大人すべてが、「先生」となる。やがて様々な企業・国籍・年代とネットワークは広がっていた。

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「定期発表まで、あと2週間か。」

みづきはカレンダーを横目に歯を食いしばった。

オンライン寺子屋では、期末試験や成績表はない代わりに、定期発表があって、発表中に体内にある”WILL”という物質を測定してくれる。

“WILL”は、コロナウイルスが流行ったころに、ある科学者が偶然発見した物質で、人間が何かに集中したときや、本当に好きなものに触れるとき、体内に放出される。

健康診断で身長を測るのと同じように、数値が高ければ良いとか悪いではないのたが、その数値が高いほどパフォーマンスが高くなる傾向があるため、最近集中されている。オンライン寺子屋では、いち早くその数値を測定基準として導入した。

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入学当時、みづきの”WILL”は、棒グラフでぱっと見わからないほどの、薄くて低い線のようだった。

昔から親の期待に応えようと、目の前に与えられたことを懸命にこなしていたが、いつしか身体が動かなくなり、学校に通えなくなった。そんなとき、両親が通わせてくれたのが、オンライン寺子屋だった。今では公立の学校にも通いながら、気持ちが乗らない日や、天気が悪い日などに利用している。

通学を始めて当初は、ベッドに潜りながら耳だけ授業を聞いていた。

あるとき、聴きながしていた落語の授業が不意に面白くて、クスッと笑ったとき、”WILL”の数値が少し上がった。少しずつ、笑えるようになった。

そこから、さまざまな種類の授業に興味をもち、中でも”WILL”が多く検出されたのは、みづきにとってはバイオリンの授業だった。

先生がバイオリンの音を奏でるたび、「どうやって指を動かしているのだろう?」と胸が高鳴り、そのたびに”WILL”の数値も平均に近づいていった。

「バイオリニストになるのってありかな、??」

みづきが赤らんだ笑顔で、父と母に打ち明けたとき、不登校になっていたころの娘の青ざめた表情を思い出して、母は嬉し涙を流した。

バイオリニストになりたい。それも、学校や会社に通えない人たちに届けるセラピーコンサートをしたい。

そんな夢を描き、みづきの夢は進み始めた。

活動を始めていくうちに、世界各国から多くの依頼がはいり、全世界で似たようなニーズがあることがわかった。世界中に自分の思いを届けるために、中村先生の授業で実践的な英会話も学んでいる。

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3Dゴーグルの中には、夏の日差しで鮮やかにかがやくオーストラリアの新緑がうつっている。学校の英語の授業も面白いけれど、「バーチャル世界旅行」の授業を受けるようになってから、英語を使う楽しさを知れるようになった。学校で習う文法もますます面白く思えた。
今日も、3Dのゴーグル越しに、会ったことのないオーストラリアの子どもたちが笑う。

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(2週間後の定期発表)***

「あのオーストラリアの子どもたちに、自分の足で会いにいきたいんです!」

パソコンの中のオンライン寺子屋の指導員に向けて、力強く話した。みづきが現地の子どもたちと英語で話すレコーディング動画が流れる。

「オンライン寺子屋で学んだのは、世界は広いなあということでした。目の前の環境で苦しくて部屋に閉じこもっていたとき、バイオリンの音一つで気持ちが穏やかになったり、それまで聞いたことのなかった落語で言葉の面白さを知ったり。自分の心の声を、フタをせず聞けるようになった気がします!」

バイオリンに手をかける。目をつぶって、弾き始める。
澄み渡った音と、世界の子どもが映るスライドショーがマッチして、画面越しに指導員が笑顔になる。

指導員の手元にある"WILL"の測定器は、力強い棒グラフを描いた。
グラフ上では無機質な数値だが、みづきの"WILL"が、演奏を聞く指導員にも伝染していくのがわかった。



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