超訳:ラジオ・フリー・アジア(RFA)の取材を受ける蔡霞氏【前編】(その2) 「中国において平和的な政治的転換をどのように実現するか」
※以下、【前編】(その1)からの続き
記者:中国において平和的な政治的転換をどのように実現するか、という問題について、「改革」ではなく「変革」が必要だと指摘されていますが、「変革」とはどういうことですか?
蔡霞:政治的転換というのが、実際には体制や根本的制度の変革であるべきだと考えました。党が過去に「改革」に取り組んできたのはなぜか? 新中国建国後の毛沢東の時代に築かれた党の指導体制、計画経済のもとで築かれた体制が、文革期に破綻したからです。四人組などを排除して、毛沢東の考え方とは違う考え方を打ち出し、政権党としての地位を保てるようにしました。1978年から1989年にかけては、全体主義から権威主義へと徐々に移行しました。ただし、先ほど言ったように、鄧小平には大きな限界がありました。彼は、党を救うため、政権を維持するために改革したのです。ですから、1989年のあのとき、民主政治や選挙をやるべきだったのに、できなかったのです。あのあと江沢民が総書記になりましたが、最初の3年は反「平和的移行」をやりました。極左の考え方に基づいて、国全体に生じていた民主の流れに抵抗しました。世界の民主の大きなうねりに抵抗しました。ですが、鄧小平はもっと先を見ていました。この考え方でやっていっても政権は維持できないと見抜いていました。そこであの南巡講話をやって、市場経済を発展させようと唱えたのです。江沢民の反「平和的移行」のせいで、それまでの鄧小平の改革開放の成果が台無しになっていましたから。90年代は、全体主義2.0の時代と言われることがありますが、実際は全体主義2.0と権威主義の要素が混在していました。ですから、まだ改革が可能でした。江沢民が「三つの代表」を打ち出したとき、ねらいは中国を民主社会主義の方向にもっていくことでした。それなら、私がいま「変革」を唱えるのはなぜか? それは、習近平氏が2012年の総書記就任以降、党の方針をころころ変え、もともと改革が可能だったのに、完全に方向転換して全体主義に戻してしまったからです。習近平氏の全体主義には、90年代の全体主義や毛沢東の時代の全体主義とは大きく異なる点があります。それは、科学技術の進歩です。ビッグデータなど情報技術を利用した監視が可能なのです。一人ひとりを四六時中徹底的に監視できるんです。
記者:習近平氏のは、全体主義3.0ですよね。
蔡霞:そうです。
記者:これは、人類の歴史において初めてですよね。
蔡霞:そうです。中国で数年前、気の合う学者仲間たちと、このことについて話したんですが、意見が割れました。一部の人たちの意見はこうでした。今はもうポスト全体主義時代だ、改革開放を経たのだからかつてのように閉鎖的にはなりえない、市民社会も昔とは違う。これに対して、私を含む別の人たちの意見はこうでした。これはポスト全体主義時代ではない、権威主義の時代から緻密な全体主義の時代に逆戻りしたのだ、この新しい緻密な全体主義の時代は毛沢東の時代よりもたちが悪い、ヒトラー並みかそれ以上だ。私は、この新しい緻密な全体主義の時代の特徴をいくつか考えてみました。
一つ目は、科学技術の進歩に基づく徹底した全体の監視です。
二つ目は、党内の異論を強力に抑え込む習氏のやり方です。50年代の全体主義体制から80年代の権威主義体制へと締め付けは徐々に緩くなりました。90年代の市場経済は、党の幹部が汚職によって私腹を肥やす大きなチャンスとなりました。幹部はみんな汚職に手を染めました。そして、清廉潔白な幹部は一人もいなくなりました。ですから、誰かが習氏に反対した場合には、とにかく汚職の罪でつかまえてしまえばいいのです。習氏はこのやり方で、党内の異論を完全に封じました。あと、党内の規則も持ち出しますね。習氏が規則違反だと判断すれば、その人は大犯罪者です。制度的に許されないことをした人でも、習氏が規則にかなっていると判断すれば、功臣あつかいです。このように、反腐敗と規則を利用して、習氏はあらゆる人を抑え込めます。こんな状態ですから、党内の誰も習氏を止めることができません。
三つ目は、市民社会を黙らせる手口です。習氏は、18期4中全会で法に基づく国家統治に着手しました。法律を整備することはいいことですが、これは人民を抑え込むためのものでした。しかも、この党は国の資源を独占している党ですから、習氏はあらゆる人の胃袋をつかんでいるわけです。どういうことかというと、例えば元大学教授の許章潤氏の場合、大学を免職になったあとどこも雇ってくれるところがない。定年退職者も同じです。もし習氏への異論を口にすれば、年金の支給を止められてしまいます。私もやられました。最近問題になっている内モンゴルの授業の言語のことでも同じです。子どもが授業をボイコットしたら、親が公務員の場合、仕事を失います。公務員じゃなければ、党員じゃなければ大丈夫か? とんでもない。習氏は階級闘争の用語を持ち出して、あの手この手で押さえつけてきます。
記者:緻密な全体主義について教えていただきましたが、今の社会制度に、おっしゃるところの「変革」をどうやって行うのですか?
蔡霞:今の制度では、内からの改革は望めません。変革が必要です。制度をまるごと撤廃するのです。「解放」という言葉を用いるなら、9千万の党員を解放するため、14億の人民を党の束縛から解放するために、現制度を撤廃しなくてはいけません。
記者:党が主体の憲法制定ではダメだとおっしゃいましたが、共産党以外にどんな主体が考えられますか? どうやったらできますか?
蔡霞:憲法を制定する主体は、14億の中国人民であるべきです。人民による憲法制定を実現するのはたいへんなことです。とくに、私たちに染みついた考え方を改めるのが難しいと思います。体制内の改革勢力は、体制によって、習氏によって抑え込まれていますから、体制外の改革勢力や、中国の前進を期待している人たちの理解を得ることができません。習氏は、体制内の者なら共産党員だから、必ず汚職していると考えています。このロジックで、右も左も関係なく、中国を前進させたいと考えている人たちが抑え込まれているなら、このロジックを改める必要があります。中共のロジックで中共に反対してはいけません。このロジックから抜け出して、あらゆる勢力を結集できらたいいのですが。
記者:9千万の党員は解放されるべきだ、体制外の民主勢力は体制内の改革勢力のことを理解していない、とおっしゃいました。これでは、おっしゃるところの「変革」は、ソ連のゴルバチョフの道をたどるのではないですか? 無血の体制転換をはかっても、結局、中共が姿を変えて残るのではないでしょうか?
蔡霞:そうは思いません。ソ連はどうだったでしょうか? ゴルバチョフは党内の改革をやりました。その結果、ソ連共産党は、人々に唾棄されながら、クレムリンを出たのです。その残党はどうでしょうか? 年寄りがわずかにいるだけです。まだソ連共産党に未練がある人たちですが、もう力はありません。中国共産党が、変革後に、再び今のような指導政党になることはありえません。社会のエリートと党内のエリートが結束して新たな政治勢力をつくり、国を前に進めていくこと、これは可能だと思います。
・・・【前編】(その3)に続く
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