超訳:ラジオ・フリー・アジア(RFA)の取材を受ける蔡霞氏【前編】(その1) 「中国において平和的な政治的転換をどのように実現するか」

記者:紅二代(中国共産党の元有力者の子)であるあなたが「共産党のトップは替えるが、共産党の体制は替えない」という主張をしている、と取り沙汰されていますが、何かおっしゃりたいことは?

蔡霞:別に。ただ、確かに、ネットで出回っている録音の中で、私は、トップを替えることが急務だ、と言っています。まずトップを替えないと、トップ以外がゾンビのようになってしまっている現状を変えられないからです。体制を替えるのはそのあとです。私は、あの録音の続きで、現行制度の廃止を主張しています。

記者:中央党校の元教授として、中国共産党内の政治勢力の分布をどう見ていますか?

蔡霞:改革開放から現在まで、党内には大きく分けて三つのグループが存在します。一つは改革派です。胡耀邦や趙紫陽のように、人民の側に立つ人たちです。党を救うための改革ではなく、中国を現代的な文明国にするための改革を目指します。鄧小平も改革を推し進めましたが、あれは、そうしないと党による統治が維持できないと考えたからです。鄧小平の改革の大きな限界が露呈した出来事が二つありました。まず、1980年の四千人大会で毛沢東に対する評価にケリをつけてしまったことです。そのせいで、党がこの問題をさらにつきつめることができなくなりました。その結果、もう一つ、1989年の天安門のデモ隊への武力行使となります。改革で功績をあげた鄧小平ですが、武力行使という罪を犯してしまったわけです。

記者:改革派のほかに、あと二つグループが存在するんですよね?

蔡霞:無力派と腰巾着派です。党内の大多数は無力派です。改革派はよく知られていますよね。現在でも任志強などがいますし。無力派はこれまであまり知られていませんでした。党内の物言わぬ多数派のことです。無力派は「官」と「僚」に大別できます。「官」は上級の役人です。地方のトップとか省庁のトップとか。「僚」は党や政府の機関で働いている人たちのことです。無力派は大勢に従っています。

記者:腰巾着派とは?

蔡霞:腰巾着派も二つに大別できます。一つは、「習家軍」とか「之江新軍」と呼ばれているグループです。つまり、習近平氏が浙江省のトップだったときの部下です。これには、福建省時代や上海時代の部下も含まれますし、精華大学の「同窓グループ」も含まれます。もう一つは、天津市のトップの李鴻忠とか、新疆ウイグル自治区のトップの陳全国みたいな人たちです。かつての部下ではないのに、うまく習近平氏のグループに入った人たちです。根っからの腰巾着派が全体の一割もいると、もうどうにもなりません。

記者:先ほど、改革派は現在でも任志強などがいるとおっしゃいましたが、大方の意見は、胡耀邦や趙紫陽のあと党内の改革派は消滅した、というものです。これについては?

蔡霞:私の見方は違います。胡耀邦や趙紫陽のあとも改革に努めてきた人はたくさんいます。とくに地方に。

記者:党の中枢ではどうですか? 中枢にもいるなら、習氏の独裁にストップをかけられたはずですが。

蔡霞:それは、改革派がいないからではありません。党内の体制のせいです。毛沢東を誰も止められなかったのは、党内にそのための制度がなかったからです。のちに鄧小平が制度の整備に取り組みました。ですが、極めて集権的な組織で、ちょこちょこ枝葉の制度を改革しても、何にもなりません。民主的になるように権力を分立させなければ、何も解決されません。習氏一人に権力が集中していますから、誰にも止められません。

記者:以前のご発言で、習氏を替えることが党内の共通認識になっていると指摘されていますが、習氏を誰と替えるのがベストだとお考えですか?

蔡霞:これはちょっとやっかいな問題です。習氏を替えるべきだという共通認識はあると思います。とくに中・上層部では、「習家軍」以外の人たちは、今のままではダメだとわかっています。ですが、誰と替えるべきかという共通認識はないと思います。もしはっきりした共通認識があったら、習氏のターゲットになってしまいます。

記者:誰も習氏を止められないとおっしゃいましたが、今の体制で習氏を替えることはできますか? できないなら、どうすべきですか?

蔡霞:今の体制で正式の手続きを踏んで替えることはできません。ですから、前回の発言で述べたように、過去と現在の政治局委員や常務委員が集まって会議を開き、多数決で習氏に引退を迫るべきです。正式の手続きを踏んで替えることはできないと言いましたが、中国は現在、国際環境といい国内状況といい、目まぐるしく変化していますから、突発的にどんなことが起こりうるか、誰にも予測できません。偶発的に局面が打開されて習氏が引退することだってないとは言えません。

記者:体制の内外のエリートが協力して新たに別の党をつくってもいいとおっしゃいましたが、転換の過程で共産党の殻を破らなければいけないとも指摘されました。この「殻」とは何ですか?

蔡霞:政党という概念が神聖不可侵のものになってしまっています。中国共産党は偉大な、栄光ある、正しい存在であり、それを疑うことは許されない。これが「殻」です。この「殻」のせいで、中国の政治問題をつきつめて考えることができなくなっています。だから、殻を破る必要があるのです。

記者:党に疑いをもつことが許されない環境で、別の党をつくるにはどうしたらいいのでしょう?

蔡霞:別の党をつくるというのはこういうことです。社会に大きな政治的転換が起こり、中国共産党という神聖な「殻」が破られれば、国の明るい未来を望んでいる改革志向の無力派が動き出します。彼らが実際に活躍し出すということです。

・・・【前編】(その2)に続く


(下は、このnote記事をもとにした私のYoutube動画です)


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