超訳:ラジオ・フリー・アジア(RFA)の取材を受ける蔡霞氏【前編】(その3) 「中国において平和的な政治的転換をどのように実現するか」

※以下、【前編】(その2)からの続き

記者:中国共産党の体制はびくともしない、なぜならこの体制はこれまでずっと国民の大部分の支持を得てきているから、という意見があります。また、習氏が反腐敗を利用して反対派を抑えていると指摘されましたが、習氏のこのやり方は功を奏している、なぜなら中国の大衆は汚職や腐敗を憎んでいる一方で国の中枢の権力闘争なんか気にしていないから、という意見もあります。こうした意見ついては?

蔡霞:確かに筋の通った意見です。でも、肝心なところを見逃していると思います。反腐敗はいいことですか? もちろんいいことです。では、どうして汚職が繰り返されるのでしょうか? 制度が悪いからです。制度を替えてこそ、庶民の安心した暮らしは保障されるのです。このことが見落とされています。これが一つ目のポイントです。制度の転換においては、社会のエリートが大衆以上に責任を果たさなければいけません。二つ目のポイントは、中国の皇帝政治の伝統からくる、御上を畏れてあがめるメンタリティーです。これが、権力が制約を受けない原因になっています。大衆は、あのリーダーはいい、あのリーダーはよくない、というように考えますが、これはストックホルム症候群に似ています。御上にずっと抑圧・虐待されている人たちは、ちょっと優しくされただけで御上に感謝してしまうんです。中国社会にはこうしたメンタリティーがずっとあります。こうしたメンタリティーのない欧米社会では、権力は庶民によって監督され、制約を受けています。

記者:改革開放が40年以上続くなか、多くの既得権益層や中産階級が生まれています。この人たちをどうやって説得したらいいのでしょう? 政府や党や体制を替えても損はしませんよ、むしろ今よりよくなりますよと。

蔡霞:これについては、以前こういうことがありました。薄熙来が重慶でやった法を無視した強引な取り締まりで、重慶の有名な実業家が命を奪われました。のちに、私たちは、その実業家の娘さんを内モンゴルの実業家の集まりに招いて、討論しました。政治権力の横暴のもとで、実業家はどうしたらいいのか? 政治改革を促すべきか? おとなしく従っているべきか? 彼らは何と言ったと思いますか? 勇ましいこと? いいえ。こう言いました。われわれの力ではかなわない、自分の身を守るよりほか仕方がない。ですから、社会の意識はまだまだ育っていないのです。まだ時間が必要です。豊かになって中産階級が増えたから社会の意識面の準備もできただろう、と考えるのは拙速です。

記者:習氏を批判し、習氏の下での中共を政治的ゾンビだと批判していらっしゃいますが、こういう意見もあります。中共政権はそもそも誕生したときからずっと政治的ゾンビだ、蔡霞は習氏を批判しているが習氏以前の指導者はどうなんだ、蔡霞の習氏批判は党内の抑圧されている政治勢力のためにやっているだけなんだろう。これについては?

蔡霞:中共が最初から政治的ゾンビだったとは思いません。党内で民主が語られているときには、党は誤った行動を抑え、状況を改善することも可能でしょう。ですが、党内で統制が厳しく異論が徹底的に封じられいるときには、誤りを改めることが全くできません。これこそが政治的ゾンビです。今の党は、習氏を止められませんから、政治的ゾンビです。私や、私と同じ考えの人たちは、この状況を変えたいと思っていますが、それは党を救うためではありません。国のためです。国がこの状況を抜け出して前に進めるようにするためです。これはとても重要な点です。私と同じ考えだとか、みんなそう思ってますとか言ってもらえることはいいのですが、蔡霞はみんなの代表だと言われると荷が重いです。自分の考えを述べることしかできませんから。

記者:外見からはすごく温和な印象を受けるのですが、強い反骨心をお持ちなんですね。そうしたご性格はどのように養われたのでしょう? 大きな影響を受けた人などはいますか?

蔡霞:両親ですかね。私の両親は1930年代に入党しました。もちろん祖父はもっと前にですが。父母は国の未来ためにほんとに誠心誠意がんばっていたと思います。そういう両親に育てられ、影響を受けました。そのあと社会に出てからはずっと体制内で日々「すばらしきこと」ばかり聞かされ、それを真に受けました。若い頃に身についた基本的な価値観などは変わりません。もう一つあげれば、父母があんなに長いことがんばったのに中国が民主に向かわなかったことですかね。両親にふさわしい子たらんとするなら、両親の志を受け継いで前に進むべきです。現状に満足していてはいけません。


・・・【後編】(その1)に続く



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