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【研究のススメかた】今日のモチベーションに(あまり)左右されずに、論文を書き進める「自動起動」ライフハック

1. 記事の狙いと想定読者層

研究を進めるうえでのTIPSをまとめていくシリーズです。筆者が指導教官を務めるゼミや授業での活用を念頭においています。

読者層としては「大学の学部または大学院で、卒業論文/修士論文研究に取り組む」人たちを想定しています(すでに研究者として独り立ちしている同輩の皆さまや、そのタマゴとしてすでに修士論文研究等は経験済みの博士課程大学院生の方々にも、ご参考になるかもしれません)。

今回は、その日の気分や体調にできるだけ影響を受けずに論文を書き進めるために僕がやっている仕組み化、ライフハック術をご紹介します。

2. 一歩でもいいから、毎日前に進む

当たり前ですが、プロの研究者は研究をしないと仕事になりません。

なりません、というとやや語弊があるのですが、こと「研究者」として身を立てていくには論文を書いて発表しなければ話にならない。

しかし、研究活動も論文の執筆も、一日で終わるような短距離走的なプロセスではありません。毎日毎日、先行研究に目を通したり、書きかけの論考を修正したり、データをこれまでとは違ったアプローチで分析してみたり…あれこれいろんな細かい作業を積み重ねて、ある日一つの論文として結実します(それを世に問える形にする=学術誌で発表するまでには「査読」という、これまた長い道のりが待っています。そちらについては、また後日別noteをまとめます)。

特に重要なのが、「毎日何かしら書き足していく」というプロセス。

論文執筆はZero to One、まっさらなWORDファイルを最終的に数万字の文章と図表、脚注、参考文献リストなどで埋めていく創造活動です。研究者はクリエイターであり、アントレプレナー。作家や芸術家など、無から有を創り出す他のクリエイターと同じく、論文を書くという行為は非常に大きなプレッシャーとストレスがかかるものです。そのため、心理的には「書く」という行為を後回しにしたくなる構造がたいていの人には働きます。

たとえば典型的なのは、論文を書き進める代わりに、先行研究漁りに没頭してしまうこと。

論文のテーマに関係する先行研究をGoogle ScholarCiNiiで検索し、そこで見つめためぼしい論文を読んだり、要点をメモにまとめたりしていると、自分の研究が進んでいるかのように感じられるものです。事実、論文では数多くの先行研究を参照・引用しますから、先行研究を調べることはまったく無意味というわけではない。ネットサーフィンをしたり、飼い猫を愛でたりといった論文とは無関係な活動に比べれば、むしろはるかに有意義なことであると言えます。

しかし、いくら先行研究を調べ上げて詳細なメモを作成しても、それがそのまま論文になるわけではありません。執筆を止めるな。これは論文を書き上げるためには決してはずしてはならないキーポイントになります。

論文を書き上げるには、毎日ちょっとずつでも論文を書き進めなければなりません。前述の通り、論文執筆は短距離走ではなくマラソン、というか数ヶ月がかりのプロジェクト。そのためには、少しずつでいいから、コツコツ書き進めることがこのうえなく大事になります。腕組みをしてひたすら構想を練り、あるときカッと目を見開いたかと思うとおもむろに目にも止まらぬスピードでキーボードを叩きだして、深夜あるいは明け方書斎から「できたぁ!」と叫ぶ、なんていうのはドラマの中だけの話。

でも、研究者といえどもヒトですから、日々体調は変化するし、どうもモチベーションが上がらないな…という日も当然あります。

そんな中で、それでも毎日論文を書き進めるために、僕が実践しているちょっとしたライフハック、それが「PCを起動したら、書きかけの論文のWORDファイルが自動的に開く」というものです。

3. ファイルをわざわざ開かなくていい環境をつくる

設定の仕方は後述します。

大事なのは、たとえネットサーフィンをするためであろうが、スケジュールを確認するためであろうが、PCを起動すればそれで自動的に書きかけの論文WORDファイルが開く、という環境をセットアップすること。

それによって、そのファイルを探して開く、という意思決定を省略できます。

ヒトのメンタルエネルギーは有限で、一日に行うことのできる意思決定の回数はだいたい決まっています。これは『予想どおりに不合理』など、行動心理学で繰り返し実証されている特に頑健な知見の一つ。

このことを知っている経営者の多くが、少しでも自分のメンタルエネルギーを節約して、重要な意思決定に集中できるようにと自分が着る服を一様に決めてしまっているのも有名な話ですね。黒タートルとデニムしか着なかった晩年のスティーブ・ジョブズとか、グレーのTシャツしか着ないマーク・ザッカーバーグとか。

PCが立ち上がったら論文のWORDファイルが自動で開くようにするのも、同じ仕組みです。

さあ論文を書くぞと決意して、デスクトップ上からファイルを探し、みつけたら「よし」と意気込んでファイルを開く…と、もうなんだかちょっとしたミッションをクリアしたような気分になった、という経験はありませんか?

実際、そのとおりなんです。

行動経済学的に考えると、この「これから論文を書くと決める」「デスクトップ上からファイルを探す」「みつけたファイルを開く」というのは、複数の意思決定をじつは含んでおり、結構なメンタルエネルギーを消耗します。でも、そのエネルギーが論文の完成に向けてはなんら建設的に使われていません。あくまで、その前準備に費やされているだけ。

逆に、書きかけのWORDファイルが自動で開くようにしておくと、それを閉じることのほうが意思決定を要する一つのプロセスになります。言い換えると、パッと開いたものに、そのまま続きを書き出していくほうが心理的にはラクなものになる。ちょっとしたトリックですが、毎日これが積み重なっていくとバカにできない差を生み出していくようになります。

そこで、設定の方法です。

僕はこの記事執筆時点でWindows 10マシンを使っているので、その点ご承知おきください(たぶんMacでも調べれば同じことはできるはず)。

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① まず、PC起動時に自動で開きたいファイル(書きかけの論文のWORDファイルなど)のショートカットをつくります。

② 次に、デスクトップ画面左下にあるWindowsの「スタート」メニューアイコンを右クリック。表示されるメニューの中から「ファイルを指定して実行」を選択します。

③ 「ファイルを指定して実行」ダイアログボックスが開くので、枠内に「Shell:startup」と入力し、「OK」をクリック。

④ すると今度は「スタートアップ」というフォルダが開きます。こちらに①で作成したショートカットを格納。これで完了です。
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以上。この①~④のステップを完了させると、以降はPCを起動するたびに、自動的に当該のファイルが開くようになります。 いつの日か、無事論文を脱稿したら、②~③のステップを再度行い、「スタートアップ」フォルダからショートカットを削除すれば、自動的にファイルが開くことはなくなります。その瞬間は、けっこう感慨深いものがありますよ(笑)。


今回は、その日の体調や気分に左右されずに毎日論文を書き進めるための仕組みとして「PCを起動時に自動的に書きかけの論文WORDファイルが開くようにする」というライフハック術をご紹介しました。少なくとも数ヶ月にわたる皆さんの論文執筆の道のりを少しでもスムーズなものにするために、この記事がお役に立つようであれば幸いです。

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