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ニキの映画、最初のメッセージから

                                                                                                    

ニキの映画を創りたい!      2018年3月記

「ナナ・シリーズなど、カラフルでエスプリあふれる女性像で知られる造形作家ニキ・ド・サンファル(1930-2002)。私がニキと初めて会ったのは1981年、パリ郊外の彼女の自宅を訪ねた時だった。かつて宿屋だったという石造りの家の扉が開くと、にこやかに微笑む女主人が立っていた。ダイナミックな作品とは対照的に、繊細な感じの神秘的な雰囲気さえ漂わせた人だ。

 当初は1枚の肖像を撮影する予定だったが、その自由な発想と遊び心にすっかり魅せられ、10数年に渡りニキや作品をヨーロッパ各地で撮影し続けた。

 ナナは「陽気で解放された女性像」とされるが、最初からナナたちが登場してきたわけではなかった。こうした像が誕生するまでには怒りや苦渋に満ちた時代の作品が存在している。回顧展で作品群を辿ると、ひとりの女性の自叙伝を一気に読み終えたかのような思いに捕らわれた。

 ある時から女たちの体は突然膨らみ始め、形も色も軽やかになっていった。さらにニキは次々と巨大なナナを創り、パリのストラヴィンスキー広場の噴水を初めとする動く彫刻群、彫刻による公園、子どものためのプレイハウスなど、建造物を手掛け始めた。

 その集大成が、イタリア、トスカーナに建つ「タロット・ガーデン」。オリーブの森に巨大な作品が点在し、その中のひとつ女神の半身を持つスフィンクスの像が彼女の棲家だった。大きな乳房の寝室で眠り、胴体内の居間兼アトリエで制作。自らの作品の中に暮らす、これこそ究極のアートの創造ではないだろうか。

 近年ヨーロッパ各地の美術館がニキの回顧展を次々に開催、2014年のパリ、グラン・パレでの個展では50万人の入場者を数えた。わが国でも2015年の国立新美術館での展示は記憶に新しい。

 2002年の彼女の没後、その人なりを知るにつれ、何度となく重ねたフォト・セッションが奇跡のように思えた。

 さらにニキの宇宙的世界をまだまだ紹介しきれていないという思いにも至り、いつしか動きのある野外彫刻を中心にした動画を撮影したいと願い始めた。そこに撮影済みのニキのポートレイトや制作中の姿、ヨーロッパ各地に点在する作品のスチール写真を挿入。また撮影の過程で知り合ったニキの娘、ギャラリー・オーナー、美術館のキューレター、代表的コレクター、制作アシスタント、日本での支持者、孫娘(ニキ財団の理事長)など、ゆかりの人々にインタヴューし、それぞれが描くニキ像を語ってもらう予定だ。

 ニキの解き放たれた創造の魂に触れたい。そしてたくさんの人に映画つくりに関わっていただき、その宇宙的世界に共に遊ぶことができたら、と心から願っている。」                           

監督・撮影松本路子(まつもとみちこ)プロフィール

1980年代より、世界各地の現代を代表すると思われるアーティストやダンサーなどの肖像を撮影。主な写真集に『肖像 ニューヨークの女たち』(冬樹社)『Portraits 女性アーティストの肖像』(河出書房新社)『DANCERSエロスの肖像』(講談社)など。写真集、エッセイ集を出版のほか、個展多数。作品は東京国立近代美術館、東京都写真美術館、など国内外の美術館に収蔵されている。http://www.matsumotomichiko.com

ニキ・ド・サンファルに関しては、写真集『ニキ・ド・サンファール』(パルコ出版、1986年)出版のほか、4回の個展開催。また雑誌にエッセイや特集記事などを掲載している。発表当時ニキはあまり知られていなかったが、世界的に評価が高まる現在、映画でさらに多くの人にその魅力を伝えたいと願っている。

*雑誌掲載『CONFORT』NO164. 2018. October
「ニキ・ド・サンファルのタロット・ガーデン」松本路子写真・文による、14頁にわたるイタリア取材記事。

                                         (C)Photograph and text by Michiko Matsumoto


ニキ・ド・サンファルの映画は「ニキの映画を創る会」メンバーで製作しています。編集作業、完成に向けて、サポートしていただけたら嬉しいです。