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ライター必読本①野村進『調べる技術・書く技術』

「ライターになるならこれは読んでおかないと……」という本を挙げていくことにする。

取材・執筆の基本を知るために

一冊目は野村進著『調べる技術・書く技術』(講談社現代新書)一択。
手練れのノンフィクション・ライターが、長い文筆生活で培ってきた取材・執筆作法を開陳した一冊である。

仕事柄、この手の本はかなりの数を読んできたが、本書はこれまで読んだ類書のベスト5には入る名著であった。立花隆の『「知」のソフトウェア』と並んで、「ノンフィクション作家の知的生産術」のスタンダードになり得る。
取材・執筆の基本が微に入り細を穿って説かれた入門書だが、キャリアを積んだライターをも唸らせる深みがある。

人物もの・事件もの・体験エッセイのお手本集でもある

後半の6~8章は、著者自身のノンフィクション作品を3本(人物もの・事件もの・体験エッセイから一本ずつ選ばれている)全文掲載したうえで、その舞台裏を明かす形でノンフィクション執筆の要諦が説かれていく。
「過去の自作を全文掲載するのはページ数稼ぎではないか」と思う向きもあろうが、3本がそれぞれ読みごたえのある作品なので、気にならない。

圧巻は、女子中学生が集団自殺をはかった事件の真相に迫った「五人はなぜ飛び降りたか」をテキストにした章だ。
警察のような捜査権もなく、新聞記者のようなネットワークも持たない一ライターが、いかにして真相に迫っていったかのプロセスが明かされている。

事件取材をしてみるとわかるが、ほとんどの現地は、新聞・雑誌・テレビなどの既存メディアによって多かれ少なかれ荒らされている。ややもすれば手の施しようがない思いにとらわれるのだけれど、どこかに手つかずの“真空地帯”のようなところが必ずあるものだ。そこをいかに素早く、的確に探り当てるか。

野村進『調べる技術・書く技術』(P221)

テキストとなった作品自体が、事件ノンフィクションの手本のような出来映え。ラストの一行で鳥肌が立った。
『週刊新潮』なら間違いなく記事タイトルにするだろう衝撃の事実を、あえてさりげなく、音楽でいう「アウトロ(後奏)」に用いた構成がこころにくい。これから読む人は、くれぐれも最後の行を先に見てしまうことなく、鳥肌ものの衝撃を味わってほしい。

ノンフィクション作家志望者のみならず、ライターおよびその卵なら一読の価値あり。
また、小説の世界でも吉村昭のように綿密な取材を基に作品を書く作家がいるわけだから、小説家の卵にもオススメ。

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