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各国金融政策と社債への影響

1. 米国金融政策
中央銀行が行う政策金利引き上げ(利上げ)は、加熱した市場を抑制し、インフレを抑えるために実施される金融政策。利上げの影響は住宅ローンを含め各種借り入れを始め、幅広い経済活動に及ぶ。
投資家は高い利回りを得るため、より金利の高い国へ資金を差し向け、その国債を購入する傾向があるため、利上げにより二国間の金利差が広がると、金利が高い国の資金需要が高まり、利上げした国の通貨高に繋がる。また、企業にとっては、利上げにより借入の支払利息が増え減収に繋がると共に、新規借入を控えるため、結果として業績が悪化し、株価は下落することが多い。さらに、利上げにより個人も借入を控え、購買意欲が低くなるため、株価と共に物価も下落し、結果としてインフレが抑制される。
米国の利上げはFRB(連邦準備理事会、日本の日銀に該当)が開く連邦公開市場委員会(FOMC、FRBの理事・地区の連邦準備銀行総裁等で構成され、年8回開催される)で決定される。
FRBは2008年のリーマンショック以降、政策金利をほぼ0にするゼロ金利政策を実施し、同時に国債を大量に買い入れる量的緩和を行い、資金供給量を増やし続けてきたが、コロナからの経済回復、及び記録的なインフレを受け金融緩和を見直し、2022年3月に政策金利を0.25%引き上げた。米消費者物価指数(CPI)が6月に前年比9.1%と、1980年代初頭以来40年振りの高率を記録していた中での利上げとなった。
他方で、日銀は金融引き締めを行わないとしたこと等から円安が進行し、2022年3月当初の円相場は1ドル115円台で推移していたが、FRBによる利上げにより円を売りドルを買う動きが増え、円安が進んだ。2022年前期は米国の利上げと日本の金利維持により日米の金利差が拡大した結果、円を売ってドルを買われた。
FRBは2022年に4回連続0.75%利上げを含む7度の利上げを行ったものの、インフレ制御のため今後さらに利上げが必要になるとし、向こう1年で5%を超える可能性があるとしている。
 
2. EU金融政策
ECB(欧州中央銀行)もインフレ率が依然として高い水準にあり、目標の2%を長期的に上回る予測であるとし、2022年にFRBと同様、4会合連続の利上げを実施した。12月には政策金利(主要リファイナンス・オペ金利)は2.00%から2.50%、限界貸付ファシリティー金利(オーバーナイト貸し出し、翌日返済)は2.25%から2.75%、預金ファシリティー金利は1.50%から2.00%とした。7月には量的緩和政策の終了を発表しており、米国同様日銀との政策差異が鮮明となっている。
 
3. 日本の金融政策
日本は長年続いたデフレを脱却し、企業や個人の借り入れや消費を促すため、日銀は利下げにより市場金利を下落させる政策を取っている。
具体的には、日銀は2010年から実質ゼロ金利政策及び資産買い入れ基金(国債・社債・ETFを買い取るための基金)創設を行い、政策金利は0.1%から実質ゼロ金利(0~0.1%)へ引き下げられ、基金創設によって資金が大量に市場へ供給された。
2013年に金融政策の操作対象を政策金利からマネタリーベース(資金供給量)へシフトさせ、市場への資金供給量を増やすことにより、2013年以降の2年程度を目途に2%の物価上昇を目指した。日銀の長期国債・ETF保有額は2年で2倍に拡大した。
2016年には、物価安定目標を早期に達成するため、日銀の当座預金のうち超過準備預金に-0.1%のマイナス金利を導入した。金融機関は日銀に資金を預けると金利を支払わなければならなくなるため、日銀への預金を控え、企業への貸し出しに資金が回るよう促した。また、政策金利である短期金利だけでなく長期金利の操作を図るため、長期金利について10年物国債の金利を低く推移することを目標として、長期国債の買い入れが実行された。
米国・EUはコロナからの経済回復を受け徐々に金融緩和を見直し、インフレ対策のため利上げを続けている一方、日本でも物価が上昇しているものの賃金上昇を伴っていないことから、経済回復は不十分として金融緩和を続けていた。もっとも、日銀は12月に決定したイールドカーブ・コントロール(YCC、日銀が導入した量的質的金融緩和政策の一つで、長期金利の誘導水準を定め、その水準になるよう国債買入れを実施すること。金利に目標を設定する点で単なる量的緩和と異なる。日本では2016年から日銀がYCCを導入し、10年債の利回りにゼロ%の目標を設定していた)の長期国債利回りの変動幅を拡大し、これにより10年国債利回りが新たな変動幅上限である0.5%近辺に張り付いたため、事実上利上げに舵を切ったとも評価できる。
 
4. 社債への影響
一般に、市場金利が低下すると既発行債券の価値が上がり、反対に、市場金利が上昇すると市場で売り出される利率の高い新債券と比べて利率の低い既発行債券は価値が下がり、ディスカウントして取引される。
社債と国債との利回り格差である社債スプレッドは発行企業の信用力・格付けの高さに応じて上下する(発行企業の信用力が高いとプレミアム=社債スプレッドは小さく、信用力が低いと社債スプレッドは大きい)。例えば商社業界の最近の発行事例を見ると、2021年9月に5億ドル発行した丸紅5年ドル債(グリーンボンド)は表面利率1.577%、ローンチ・スプレッドは米国債+75bp、格付けBaa2(ムーディーズ)/BBB(S&P)、2022年11月発行の三井物産5年ユーロドル債のローンチ・スプレッドは米国債+68bp、格付けA3(ムーディーズ)/A(S&P)、2021年7月発行の三菱商事5年ドル債のローンチ・スプレッドは米国債+50bp、格付けA2(ムーディーズ)/A(S&P)、2022年5月発行の住友商事10年グリーンボンドのローンチ・スプレッドは国債+33bp、格付けはA+(R&I)/Baa1(ムーディーズ)だった。
商社以外では、2022年11月に楽天グループが2年ドル債を表面利率10.250%、ローンチ・スプレッド米国債+748bp、格付けBB+(S&P)の高利回りで発行決定、2023年1月に個人投資家向け社債を年限2年、発行利率3.3%で2500億円発行(昨年6月は3年債を利率0.72%で発行)することが話題となった。

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