内定式とマロンパイ。
とあるテレビ番組で、俳優の佐藤二朗さんが、
入社式の日にその会社を辞めたと話していた。
「俳優という夢を諦めることになるのか、と分かりきっていたことを実感して」
この佐藤二朗さんのお話を聞いて、
自分自身の経験をふと思い出した。
"内定のお祝いで、マロンパイを作ったよ。"
地元を離れた大学に通っていた私に、
母から届いたLINEのメッセージ。
と、手作りのマロンパイの写真。
離れたところにいるから、そのマロンパイを私は食べられない。それどころか、母の作ったマロンパイを食べたこともなかったので、味も想像できない。
それなのに、どうしようもなく泣けた。
母がそのLINEをくれた日は、私の内定式の日。
私がその後、働くことのなかった会社の内定式だ。
日々をそれなりに楽しんで大学生活を送っていた私は、これまで夢中で勉強することでなんとかなってきた私は、卒業後の将来を「なんとかなる」と思っていた。
文字通り「なんとかなる」と思えるほど自分に自信なんてなかったはずなのに、必死に準備をしなかった。必死に自分のやりたいことは何だろうと考えることをしなかった。
とにかく、内定という安心が欲しくなった。
そんなバカみたいな私を、心の底から寄り添って祝ってくれたのが、母だった。
「思い通りにいかなくて焦って、手放しに喜べない内定だとしても、それでも頑張ってたどり着いた場所なんでしょ。すごいことなんだよ。」と聞こえた気がした。
あのときの涙は、
「私が辿り着きたい場所はここじゃないのに」
「頑張ってきたはずなのに頑張れてなかった」
「でも、母の優しさが痛いほどに沁みる」
「私はこれからどうなるんだろう」
いろんな気持ちがぐちゃぐちゃになって溢れたものだった。
それからの私はがむしゃらだった。
そして、今の私の仕事は、そのときに内定を頂いた場所とはまったく違うものだ。
そんな私の仕事を決めるきっかけになった、
忘れたくない考え方は二つ。
自分自身の評価は、周りが決めるもの。
「私はこれができないから」
「苦手だから無理」
と世界を狭めていた。
でも、
自分から見えている自分が全てではないのだ。
人の評価に耳を向け、そんな知らなかった自分を受け入れたときに、できることが見つかることがある。
そして。 嘘でも、前に。
「これでいいのかな?」
「何が正解なんだろう」
不安になることもあるけど、
今この瞬間に、「これだ!」と思う道があれば
進んでみてもいい、ということ。
好きな嘘を選んで進むこと。
これからきっと、
何度でも思い出すマロンパイの日。
この仕事を選んだから、
そんな日もあってよかったのだと思える。