Paisaje ciudad de dividi

画像1 Izquierda1/初対面の女を見送った後、繁華街を通ってカメラ屋へ。なにごとがあったか、にわかに人の波が押し寄せ、ゆったり動く後頭部のさざなみに飲まれる。視界がひらけた時、俺は昭和の歩行者天国に立っていた。色とりどりのゴム風船を配る男と、寄り添うようにしゃがみ込むカメラクルーたち。濃紺色のベストから肩にそびえ立つ櫓の中心には、奇妙な形のカメラが祀られている。撮影監督らしき中年の女が、櫓の下にうずくまる若者にささやいた。カメラが見上げた先には、レモン色の風船がゆったりと浮かび、夕暮れ前の陽光に染まる。
画像2 Derecho1/風船は黄金色の風に煽られ、ふっと高く舞い上がった。デパートのファサードをかすめてくるくる回ると、見物人の頭上へ吹き戻される。櫓を支える若者は、アトラスめいた顰め面で風船を追っていた。ふたたび中年女がなにごとかささやき、若者は櫓を水平にする。そこに祀られているカメラも動きを止め、見物人がゆっくりと動き始めた時、弾けるような音がビルの谷間へこだました。ゴムの破片をまとった空撮ドローンが静かに降下し、どこからともなく笑い声が響く。予定された出来事のごとく、わかたれた世界はひとつにもどった。
画像3 Izquierda2/俺はカメラ屋を諦め、作り物の昭和を後にする。堀を越えて城跡へ入ると、街はもうひとつの顔を見せた。目の前にそびえ立つ巨大な役所は、ついに来ることがなかった輝かしい世界を称えるスローガンと、短い流行すら生き延びることができなかった環境浄化植物に覆われ、暗く長い影を街へ投げかける。その暗がりを抜け公園に出た頃には、夕闇が迫っていた。ふと携帯が震え、メッセージの着信を告げる。鞄の底から引き出した携帯画面には、見送った女のアイコンとかわいらしい絵文字混じりの「ゴメンナサイ」が点滅していた。
画像4 Derecho2/どうせ次はないと思っていたが、こういうときはアカウントが消えてフェイドアウトと相場が決まっている。だから、メッセージはひどく意外だった。とりあえずベンチを探し、腰掛けて深い溜め息ひとつ。画面が暗くなるたびに指先が光を戻し、やがて「こちらこそゴメンナサイ。またネ」とお決まりの文字列を表示した。ここで「またネ」はないよなと削除したら、ふっと文字列が消える。まるごと消しちまったか、仕方ないと諦めて携帯を鞄へ放り込んだ。わかたれた世界の彼方へ消えた女と、送信前に失われた言葉の行方はわからない。

¡Muchas gracias por todo! みんな! ほんとにありがとう!