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拷問人の息子 El hijo del torturadorシリーズ 世界設定(随時更新)

願訴人

 願訴人とは奇跡術を行う際に必要不可欠とされる存在だが(奇跡術の項参照)、帝国においては政治的、社会的な栄達の手段ともなっている。そのひとつが願訴代理人制度であり、黄印の兄弟団が願訴代理人の選抜と認証、登録を独占している。そして、願訴代理人の管理が権威主義体制を維持するひとつの基礎ともなっている。

注記
 旧帝国と新帝国で、願訴代理人の扱いは全く異なる。

 願訴人は強い精神力を必要とされ、奇跡術後は成否にかかわらず消耗し尽くしてしまうことがが多い。くわえて、奇跡術後に願訴人が発狂することも多々ある。そのため、精神力が強くないものはもちろん、多少なりとも財産に余裕があるものは願訴代理人を立てたがる。

 特に精神力の強い人物が、他者の願いを代行する願訴代理人が存在する。
 新帝国時代に黄印の兄弟団が願訴代理人を制度化し、旧帝国時代の無認可代理を異端として弾圧した。

 願訴人は、往々にして生贄とされる。生贄として絶命することもあれば、四肢などを儀式に捧げるだけで命を失わないこともある。

 願訴人と司祭(奇跡術師)は得意不得意が異なるため、そう簡単には入れ替われない。例えば野球で投手と捕手を、サッカーでフォワードとキーパー入れ替えるより難しい。ただ、奇跡術の経験は願訴人にとっても有益であり、純潔を失った奇跡術師が願訴人になる事例は多い。

 極めて強力な願訴人が特定の司祭と結びつき、相棒(パレハ)関係を結んでいることもある。
 ペアは専属契約かつ固定的で、ひとりの願訴人は複数の司祭と相棒(パレハ)関係を結ばないし、反対に司祭も複数の願訴人とペアを組まない。
 奇跡術の根拠があるのか、制度的なものかは不明だが、かつてはなんらかのメリットが存在したものの、やがて形骸化したらしい。

重要
 非神子など、極めて強力な奇跡術師は、必ずしも願訴人を必要としない。とはいえ、願訴人が存在しないと効果は非常に限られる。

旧帝国における願訴人
■誰でも願訴代理人になれる。
■雑な儀式でちょくちょく死んだ。
■願訴人は騙されて生贄となることもあった。
■願訴人は奇跡術の盛り上がりで予定されざる生贄となることもあった。
■願訴人は乱交における中心人物として参加者全員と交わることもあった。

新帝国における願訴人
・黄印の兄弟団が認めた人物のみ願訴代理人になれる。
・願訴代理人の選抜と管理は黄印の兄弟団が独占しており、無認可願訴代理人は異端として弾圧された。
・無認可願訴代理人は辺境の聖女や聖なる処女信仰と結びついている。
・黄印の兄弟団による願訴代理人の選抜方法や基準はちょくちょく変わるが、いずれにしても中国の科挙のごとく厳しい。
・願訴代理人は奇跡術の才能がないもの、あるいは純潔を失ったものが社会的に這い上がる手段のひとつとなっている。

奇跡術

 奇跡術(ミラグロ)とは『他人の希望を叶える』秘術で、純潔を保ちつつ研さんを積んだ奇跡術師(ミラへレーロ)が治癒と移動、物体召喚などを可能にする術だ。具体的な効果としては、人や家畜の怪我、病気を治す、作物が実る、水や食べ物が沸いて出る、誰かに気持ちを伝える、イメージの投影、物質の転移や複製、自動筆記などで、基本的に黄衣の王を信仰する司祭が行う。
 奇跡術は願いを訴える人、つまり『願訴人』(ケレランテ)が多ければ多いほど成功しやすく、効果も大きい。そのため、奇跡術師の他に助訴人(アジュダンテ)という補助専門の人々も存在する。ただし、願訴人は全員が心をひとつにして奇跡術師へ精神を託さなければならず、雑多な人間の寄せ集めでは精神力がまとまらないので逆効果となる。このように、奇跡術では集中が極めて重要なため、雰囲気を盛り上げるため歌い踊る助訴人もいるほか、多くの願訴人が参加する大規模な奇跡術は入場式典や松明行列に始まり、巨大な旗が林立する中で合唱団が応援の歌をささげ奇跡達成祈願を唱和するなど、勇壮かつ壮大な祭りとなっている。
 つまり、奇跡術師とは人々の願いや精神力を集めて焦点を結び、増幅するレンズのような存在である。大半の奇跡術師は自分自身の願いを叶えられないが、極めて能力の高い術師は自らの精神を願訴人として分離し、単独でも奇跡術を行えるとも伝えられている。

黄印の兄弟団

 黄印の兄弟団(エルマノス=デル・シグノ・アマリージョ)とは、表向きは名づけざられしもの(黄衣の王)の教会における信徒団体で、主に権力や資産を持つ人々と聖職者が構成員である。信徒団体という建前もあり、聖職者はオブザーバー的な扱いだが、もちろん実権は聖職者が握っており、帝国における実質的な意思決定権は異端審問長官でもあるゴンサーロ・ヒメネス枢機卿が握っている(別項)。
 また、信徒は異端審問への告発や密告を積極的に行っており、なかば異端審問所の下部組織ともなっている。
 しかし、その実態は地下世界クンヤンから来た不死の人間たちが帝国を影で支配する組織で、その秘密を知るものは皇帝や名づけざられしもの(黄衣の王)の教会の最高幹部など、全国でも数十人に満たない(そのうち三割ほどは地下世界クンヤンから来た不死の人間たち)。
 地下世界クンヤンから来た不死の人間たちは、外見こそ北米の原住民に似ているものの(帝国のインディオとも区別がつかない)、テレパシーや体の物質化・不老不死など、特異な超能力を身に付けている。また、失われたアトランティスやレムリアなどに由来する高度な技術や知識、異界の芸術などを身につけている。
 地下世界クンヤンから来た不死の人間たちは、名づけざられしもの(黄衣の王)の眷属であるバイアキーを使役し、時にはそれに乗って異世界を行き来する。もちろん地球とも往還しており、様々な知識を備えている。
 帝国に地下世界クンヤンから来る不死の人間たちは、多くても同時に十数人程度とされており、それには名づけられざるものの妻を封印している黄色の印を護る者も含まれている。
 地下世界クンヤンから来た不死の人間たちは、黄色の印の兄弟団を通じて帝国を支配しつつ、高度な科学技術を持つ封建社会というキメラ世界を作り上げた。彼らが帝国で行った最大の陰謀は、私有財産権の確立などを通じて自由主義へ傾斜しつつあった旧帝国を崩壊させ、封建的な新帝国を打ち立てたことである。

帝国

 帝国(エル・サクロ・インペリオ=デル・アマリロ)。
 それは地球と異なる異世界。
 かつて、名づけられざるものの妻を神と崇める帝国が存在していた(旧帝国:エル・インペリオ=デル・アンティグォ)。しかし、いつの頃からかその帝国はユゴスよりの来訪者によって間接的に支配され、住民は来訪者のために鉱物資源を採掘する奴隷のような存在となっていた。ただし、採掘などの都合もあって来訪者は帝国の技術を急速に発展させ、同時に封建的な共有財産に基づく自力救済社会を解体、私有財産を認める自由主義社会への転換をもたらした(社会変革は意図せざるものだったが)また、旧帝国では名づけられざるものの妻の秘術や帝国独特の奇跡術に関する情報を体系化しており、来訪者はそれにも深い関心を寄せていた。
 ユゴスよりの来訪者が押し寄せる以前の帝国(旧帝国)は奇跡術者を頂点としたなかば神権社会で、想像を絶するほどの階層化や血縁主義(ほとんど優生思想)が支配しており、地域主義や縁故主義もまかり通っていた。人間性はちり紙ほどの重みもなく、能力を認められなかった無産階級を中心に無力感が蔓延していた。
 ニンゲンがいかに努力しようとも神にはかなわない。
 また、貴族階級以外は教会が幼少期に術者として修道院へ迎え入れないかぎり、地位を向上する道筋はほとんど存在しない。ただし、芸術への投資は盛んなので、演劇や音楽などで成功する者はいる(とはいえ識字率問題もあり、戯曲や小説は貴族階級の独壇場)。
 もちろん、革新的な精神は貴族階級のごく一部、高等遊民たちにしか存在せず、社会の停滞は激しい。また、妙に競争が激しい社会なので、徒弟制度と同じく「創意工夫は身内のみの秘伝」とされる傾向が強く、社会で共有されない。
 非常に悪い意味で公正社会神話が蔓延しており、ざっくり言うと「成功しない奴、社会階層が低い連中は努力が足りないから仕方ない」とされており、貧困層もそれを信じきっていた。
 ユゴスよりの来訪者はそのような社会の停滞に目をつけ、優れた能力を持ちながらも不遇をかこっている人々を取り込みつつ浸透していった。
 ところが、異世界から来訪した探索者のランプ団(ラス・ランパラス)や名づけられざるもの(黄衣の王)を崇拝する黄印の兄弟団(エルマノス=デル・シグノ・アマリージョ)が名づけられざるものの妻を封じ込めてユゴスよりの来訪者を追放したため、帝国は内戦状態に陥り、さらに国土そのものも物理的に分解した。しかし、ランプ団や反政府軍を討伐していたイトゥルビデ将軍が裏切って黄印の兄弟団と合流、謀略によってランプ団を壊滅させ、自らは新皇帝アグスティン1世(Agustín I)として即位し、新帝国を樹立した。
 とは言え、アグスティン1世は黄印の兄弟団と対立して退位を余儀なくされ、男児に恵まれなかったこともあって王朝は数代で途絶えた。その後、黄印の兄弟団が擁立したマクシミリアーノ1世(Maximiliano I)が即位し、物語世界へ至る。
 ただし、アグスティン王朝の子孫には行方不明者もおり、マクシミリアーノ朝が不人気なこともあって、男児後継者が何処かに生存しているとの噂が絶えない。
 また、新帝国成立後しばらくして、いつしか辺境の聖女なる超越者が貧困層の信仰対象となり、度重なる弾圧にもかかわらず、物語世界の段階では帝国を揺るがす存在となりつつある。

帝国の世界観
■社会の問題への没頭
■自分の経験する世界が唯一のもの、正しいものであるとみなす
■ひとりでいることが困難
■場の空気や雰囲気を重んじる
■率直なコミュニケーションが苦手
■論理を欠いても平気

帝国の国民性
・良く言えば臨機応変、悪く言えばいきあたりばったり
・とにかく場の雰囲気や状況に流され、行動の一貫性はほとんどない
・強者や権威におもねり、弱者や未知のものには傲慢
・客観的思考の欠如
・熱しやすく冷めやすい
・しかし、コツコツと努力を積み重ねることを称揚し、他者にそれを求める
・手よりも口
・大きな声で騒ぎ、目下の手柄を横取りする

非神子

 非神子とは名づけられざるものの妻が人間態の時に人間と交わって妊娠、出産した人間体の子供か、あるいはその子孫であり(孫まで、ひ孫は生まれない)、大半は女性である。たまに男性非神子が生まれるものの、成長過程でいわゆる黒い仔山羊もしくは、半人半獣の姿へと獣化する。
 その他、半人半獣や黒い仔山羊形態の非神子が、男女ともに存在する。

非神子の生殖
 半人半獣の男性非神子が人間に産ませた子供も非神子となるが、生殖不能。
 人間が半人半獣の女性非神子に産ませた子供も非神子となるが、生殖不能。
 人間態の名づけられざるものの妻と人間が交わった場合のみ、生殖可能な非神子が生まれる。
 人間態の名づけられざるものの妻が男子を生むことは稀なので、その子が生殖可能かどうかは不明。

注記
 旧帝国時代には生体を用いない木材や金属、粘土、陶器などを用いた人工非神子も作成されていたとされる。ただし、その技術は失われている。旧帝国の遺物としてそれらの非神子が発見されることもあるが、転生の受け皿となり得るかどうかは不明。兄弟団の禁忌により転生はもちろん、周辺技術も失われているため。

非神子の能力
 非神子は人間をはるかに超えた奇跡能力を持つ。ただし、純血を失うと奇跡能力もほぼ消滅する。
 非神子は不老不死だが、少年少女型の新型非神子は純血を失うと身体成熟が始まる。ただし、概ね成年の身体となった段階で成熟は止まり、以後は成長も老化もしない。
 非神子の奇跡能力は高いが、身体戦闘力は常人並み。ただし、睡眠と食事、排泄が不要で疲労もしないため、結果として人間離れした活動が可能となる。
 非神子は強い自己生成能力を持つため、外傷によって四肢を失っても再生するとされるが基本的に奇跡術による治療が施されるので、詳細は不明。ただし、旧帝国の記録には部分非神子と呼ばれる身体の一部や大半が欠損した非神子も存在している。

注記
転生前の非神子は自律行動できない。

非神子の育成
 名づけられざるものの妻は生みっぱなしで、非神子を育てない。
 魚や虫のような繁殖なので、非神子は信者が育成しないとまともに成長しない。
 少年少女の段階まで成長しても、転生前の非神子はほとんど言葉を発せず、動作も鈍い。
 非神子は摂食も排泄も睡眠も不要で、多少の怪我でも自然治癒するため、生みっぱなしで放置されても大抵は転生が可能な段階まで育つ。ただし、言葉を覚えずになにも食べず、眠らない子供は社会に受け入れられない。旧帝国時代には野良非神子を名づけられざるものの妻の司祭へ引き渡していたし、新帝国では黄色印の兄弟団が組織的に教会や救貧院、孤児院などを通じて野良非神子を探索しており、たいていは幼児段階で引き取られていく。
 とはいえ、非神子の多くは美少女であるため、遣り手婆などが確保し、成長した段階で娼館へ売り飛ばされた者がいるとの伝承もある。もちろん、純潔を失ったことで奇跡力も失っており、蘇生、転生対象としての価値も失っているが、娼館で不老不死の美女淫婦が価値を持たないわけもなく、永遠に帝国をさまよい続けていると噂される。
 いちおう、野良非神子を勝手に育てることは異端であり、審問官へ密告されたら処刑は免れない。
 転生前の非神子はほとんど言葉を発せず、動作も極めてとろいため、多くは仮死状態で保管される。保管方法は以下の三種。

1:納骨堂などで仮死状態保管(維持管理の難易度中)
 ごくまれに、カビなどへ侵されてしまい、廃棄せざるを得なくなる。廃棄非神子を使った闇転生が行われたとの噂はある。

2:培養ツボ保管(維持管理の難易度高)
 旧帝国時代はこれが主流だったが、液の温度や鮮度を保つことが難しく、失敗すると胴体などが腐敗してしまう。旧帝国時代には部分非神子となることもあったという。

3:ユゴスよりのものやバイアキーへ保管を依頼する。
 最高レベルの司祭はユゴスよりのものやバイアキーに保管させている。
 ユゴスよりのものは高度な生体保管技術を有しており、バイアキーは乾燥した無名都市に保管すると言う。

保管されない場合
 野人化した非神子が見つかり、教会や救貧院、孤児院などへ引き取られた事例もあると言われている。また、山羊非神子の多くは転生に使われることなく、野人として放置されているというが、土曜男爵として辺境の聖女と行動をともする目撃例が多々ある。

名称など表記一覧

奇跡術
ミラグロ
Milagro

奇跡術者
ミラへレーロ
Milagrero

願訴人
ケレランテ
Querelante

助訴人
アジュダンテ
ayudante

土曜男爵
バロン・サバド
Baron sabado

帝国
エル・サクロ・インペリオ=デル・アマリロ
El sacro imperio del signo amarillo

旧帝国
エル・インペリオ=デル・アンティグォ
El Imperio del antiguo

ランプ団
ラス・ランパラス
Las lámparas

黄印の兄弟団
エルマノス=デル・シグノ・アマリージョ
Hermanos del Signo Amarillo

相棒
パレハ
Pareja

¡Muchas gracias por todo! みんな! ほんとにありがとう!