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彼女とあの娘と女友達(あいつ)と俺とシリーズ

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男女の奇妙で複雑な性愛と、料理や食事を絡めた連作短編です。
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#連作短編小説

猫と祠とペットレスの女

 手のひらからあふれる大きさと重さ、そしてまだまだ失われていないハリを楽しみながら、俺は女友達の乳房を後ろから抱きしめ、うなじに唇をはわせる。 「だめよ……ふぅ……きょうは帰らなきゃ」  いつもの甘やかな吐息とは裏腹に、俺の手を振りほどく力の強さは、かたちだけの拒否ではない。わざわざ時計を見るまでもなく、俺もわかっている。女友達が身支度を整え、帰宅するまでの時間を考えると、もうすでに遅いかもしれないくらいの、そんなころあいだ。  俺は女友達の名前を知らない。  知っているのは

1979年の渡し船 Ferry del año 1979

 年末も押し詰まって金融機関の営業日を確認すると、せわしない気分を超えた諦めが漂い始めた。あれほど騒がしかったクリスマスさえ、すっかり正月が上書きしている。さっき銀行の窓口が閉まったばかりだと思っていたのに、外をみるとすっかり暗くなっていた。暖房の設定を少し強めながら、夕食の算段を組み立てる。  ソーシャルメディアにさみしい心を抱えた娘たちが現れるまで、まだしばらく余裕がある。いや、しばらくなんてもんじゃないな。料理して食事して風呂に入って、それからでも少し早いくらいか?  

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圧力鍋とシスターフッド:La Olla de presión y la sororidad

 彼女が部屋へ入ったとき、俺は豆を茹でていた。  しゅぅしゅぅと湯気を吹きながら楽しげにからから小躍りしている鍋のオモリへ、実質無料をうたう携帯キャリアの呼び込みに投げかけるような、ショットグラスいっぱいほどの冷え切った不審へぬるいいらだち数滴をふくませた眼差しを送りつつ、彼女は台所から奥の寝室へ進む。なにか気の利いた言葉でもと思わなくはなかったが、とっさにそんなセリフが出てくるような俺ではなかったし、ジャケットを脱ぐ彼女の背中にも『そういうのはいいから』と書いてあった。  

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寒々しい朝を温めることも出来ないチーズだけのホットサンド

 そぼ降る雨の中、黙々と歩いていた。既に立春から半月以上は経っているのだが、みぞれ混じりの雨が靴下まで染みて、足を踏み出すことさえおっくうになりつつある。そういえば、むしろ立春ごろのほうが暖かかった。  とはいえ、急がねばなるまい。トークライブの会場には腐れ縁の女と猫っぽい娘が待っているはずだ。いちおう、イベント開始時刻には間に合わないので、あとから合流という手はずにしていたが、ここまで遅くなったのは想定外もいいところ。  そろそろイベント終了の頃合いだが、この期に及んでは時

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韓国産キムチラーメンとスパイスドラムのライム抜きキューバ・リブレ

 気がついたのは確か、金曜の午後だった。    少し前の週末、俺はいつものように猫っぽい娘へメッセ飛ばそうとソーシャルアプリを立ち上げたら、知らん間にブロック食ってたというわけ。  いつかはこんな形で切れる関係だろうとの思いが、ずっとどこかで佇んでいたにも関わらず、猫っぽい娘の喪失感は自分でも受け入れられないほど強い。そればかりか、それに動揺している自分を直視すると、自分の不安定さに呆れてまた動揺するという、ほとんどパニックに近い連鎖まで発生している。結局、その週末はなにも手

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高純度カカオチョコを使ったビターなダークチキンモレのバレンタインディナー

 なんとなくフォローしていたコスカメコが新作をアップしていたから観に行くと、速報扱いでソシャゲのバレンタインイベントを再現したコス写も入っていた。フットワークの軽さに舌を巻きつつも、つい「まだ引っ張るのか、バレンタイン……」などと毒づいてしまう。これがクソダサ写真ならファボ乞食で片付けられた。ところが、受け取る男キャラを長身の女性レイヤーが男装していたり、定番のポッキーゲームもベタに横から撮らず見返り姿を主観構図でうまくまとめるなど、センスの良さや完成度の高さが見事なだけに、

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鶏もも肉のソテーとクリスマスのステキなお知らせ

#Xmas2014 #短編小説  ミルクティーを片手にメッシュのデスクチェアに座ると、生尻が少し冷たい。パンツぐらい履けば良かったかなと思った時には、既にマシンをブートしてパスを打ち込み、マウスを軽く握りつつブラウザまで立ち上げていた。オークションの終了時間が迫ってるといえ、ついさっき精を放ったばかりの男根にティッシュを巻き付けただけの暗黒舞踏姿で液晶モニタと向き合うのは、あまり他人には見せたくない姿だろう。殺風景にカスタマイズしたポータルサイトからにぎやかなオークション画

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