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サブカル大蔵経781柳沢きみお『妻をめとらば』全15巻(小学館、ゴマブックス)

六月初旬に、鈴木ダイスケさんのnoteに触発されてから、『妻をめとらば』をKindle Unlimitedで、毎晩三冊読んでいました。

9巻まで読み終えてから、やはりメモをとりながら読もうと、もう一度頭から読み返して、全15巻を読み終えました。

まさか人生の中で、『妻をめとらば』をメモを取りながら読む日が来るとは思いませんでした。さまざまな風景が去来しています。赤プリとか、赤プリとか。

それから〈柳沢きみおマラソン〉が始まりました。Kindle Unlimitedで読める柳沢作品を毎日2カ月間読み続けて、大市民と只野仁両シリーズ以外は読み終わりました。

8月初旬から只野ファイナルに入り、まだ先が見えませんが、37巻で動きがあり、読み続けて良かったと思っています。

「妻をめとらば」連載の頃のスピリッツは立ち読みで読んでいたので、覚えているコマも多かったです。上司の細川が印象的でした。いつの間にか出演が増えてくる『漂流教室』の林くんみたいなキャラ。

本作には、友人や義兄、上司や店主たちが結婚の苦悩を語るパートを担当しますが、終盤は細川がその役を担っていました。最後の方で村雨と並んだコマは読み続けてきた人へのご褒美のようでした。

「オガーヂャン、三十になっちまっただよオ!」と叫び、歴代女性の名前を一人ずつ呼びかけていく圧巻のシーンは最終巻ではなく、14巻所収の「誕生日」でした。

あっ、小糸さん、あっ、香代さァん。あら、広木田さん。うっ、高村さん。おーっ、麻衣子ーっ。広美ーっ。あー、めぐみーっ。富ちゃん。みんなーっ、俺を置いていかないでくれよーっ‼︎14巻p.123・124

作者の作品への鎮魂歌のよう。小糸は過去の人。「さァん」香代へ甘え。広木田「あら」に奇跡的な距離感を感じ、高林「うっ」忘れかけた奥底からの記憶、名前も高村と間違えてるし。一番都合良く現れる麻衣子。叫びしか出てこない広美。めぐみへの絶叫は後悔の塊。富子は富ちゃん、親戚感。…あれ、大島さん出てこない。

八一が肉体関係を持ったのは、保奈子、香代、大島、麻衣子、めぐみ、富子、田中、アッコ。

していないのは、美空、小糸、高林、広木田、皆子、広美、脇田。

八一はやりまくっているようで、半数は成就できなかった。しかも富子以降は終盤だし、保奈子は学生からだから、メインの相手は、香代と麻衣子とめぐみ。前者は人妻とホステスでゆきずりの流れ。やはり常識的な本命はめぐみになる。となると大島が唯一やり捨てられた感じか。

高林、大島、富子、小糸、めぐみのしっかり型。

保奈子、広美、田中、アッコの爛漫型。

香代、麻衣子の大人型。

広木田、脇田のキャリア型。

保奈子、広美との共同生活は『めぞん一刻』を感じました。保奈子=朱美、広美=こずえ、小糸=響子。安竹=四谷、村雨=二階堂…みたいな。記憶よりも小糸さんがめんどうくさい性格なのと、最初に声をかけたのは八一ではなく小糸さんからで、デートもすぐOKしていた。

歴代の女性たちで一番いい女性は実は保奈子だったと思います。3巻から顔の描写も可愛くなってきていて、パートナーになった安竹にも逃した魚は大きいと言わせています。保奈子は小糸、美空らと八一との仲を結果的に裂きましたがあれも八一や相手を護るための守護神としての役割だったような。中学生の広美との一線も能動的に防ぎ、母のような役割もしてます。本作で唯一母としての姿も描かれます。一番最初に現れた女性が正解だったという推理小説の犯人のような展開。しかし女神とは結婚できなかった。最終巻で八一の部屋で「(結婚は)あなたはできません」という神の声が一度だけ出てきたの、あれ、保奈子だったのでしょうか。

一番可愛い子は、やはり素顔・麻衣子か。「髪型もブスに合わせて変えてみました」のコマは、作者が一番力の入ったコマだと思いました。あそこはこの作品で八一と作者と読者が同化した瞬間でした。何度もゾンビのように甦る麻衣子。八一の救世主のような都合の良い存在であり、破滅の使者のようであり、水商売のステレオタイプとして描かれましたが、輝いていた存在でした。素顔を褒められたのも嬉しかったのでは。お店もてたかな。

広木田の存在も気になります。何故ああいうフラットな存在を置いたのか。他の登場人物と関わらない稀有な存在。最後に脇田ではなく広木田が電話してくるかと思いました。骨を拾うのは広木田さんだったかもしれません。

小糸さんは、音無響子のイメージ。朗らかそうで、嫉妬強く、プライド高く、身が固そうで、年上好きで、流されていく弱さ。細い赤い糸のイメージが投影された名前。小糸とは電車の中で突然何故会えたのか。あの偶然の出会い回が一番つらい〈現実〉を感じさせました。会社という八一の狭い枠から出た人間が送る人が如来した瞬間。

神崎めぐみは、ヒロインだったのか。メインとしては深みがなく説得力ないような。小糸や脇田の方が内面描かれています。容貌も可愛い描かれ方だったのに、大学生広美が登場するや、比較対象として下扱いされ、太いとか色白でないとか評され、作者にも神崎がんばれ!と応援される始末。もともと小悪魔的な存在として現れ、八一の大人の試しとして交際が成立するや否や、すぐに現実的なことを言い始め、結婚に至るまでの大変さ、倦怠感のアイコンとしての存在として表現されていたような気がしました。別れてからの方がコマ登場多かったのも異色で、その時の方が綺麗に見えました。無言電話のシーンがめぐみのクライマックスでした。

広美は、中学生の時から大人としての再登場が確証されていた存在であり、おそらく男性にとって結婚が決まってからの最大の難所として降臨させられたのでしょう。婚約者がいて、準備も進んでいる段階で、自分を昔から慕う存在が最高に魅力的な容貌で現れたらどうなるかという悪魔として。ある意味現実から一番遠いバーチャルなアイコン。だから八一がベッドで立たなかったのは、自慰行為に見えました。広美は本当は実在してなかったのでは?と思いました。マリッジブルー時期に等しく全員に現れる幻影としての存在だったのでは。青山の「広美さま」という言い方に何か人間を超えた偶像としてのアイドル感が感じられます。しかし、広美の相手の橘は、最初朴訥な好青年の顔してたのに、すぐ豹変しておっかなかったです。

香代は、安竹が八一に「人妻はやめておけ」と言い続けるのが印象的でした。そして「妻とはセックス付きの家政婦ではない」という非常に現代的なことを、当時女性の立場から初めて公言したのも彼女で、考えたら本作の唯一の既婚者女性だったんだなと。彼女の立場はガチな感じでした。

高林さんみたいな人を忘れないように、読みながらメモをとり始めたのですが、やはり忘れてしまいました。何故、忘れられるのか。綺麗で清楚でできる人なのに。面白くない存在として、脇役の皆子にも負けてしまう存在。どういう別れ方でしたっけ?

さらに悲哀の女性、大島さん。清楚で綺麗な外見で、涙のベッドインまでしたけれども、八一の心ここに在らずを見抜き、お得意様の娘という立場が八一を縛っていると感じたのか、最後の「同情しないでください!」につながったのかもしれません。「カップに口紅が…」という古典的な探偵ばりの名台詞も印象的。新しい彼氏ができたことをわざわざ八一に告げるために待ち伏せした行動力に、哀しみを感じました。

川田富子。控えめでぽっちゃりという作者のあこがれを具現化した存在。めぐみとのことを知った上で八一を狙っていたふしがあり、部屋にもすぐ入るなど、意外と大胆な人なのかも。性交のシーンはあまり描かれず、布団の中で八一と横並びばかりなのは作者が富ちゃんをひいきにしていた証拠でしょうか。笑顔は最初だけで常に心配顔か泣顔でした。兄と母への相依存という描写は現代的か。安竹に、めぐみ<富子と言わせた存在。マクロスなら早瀬美沙か。

最終盤の若手枠2人、田中文恵とアッコ。田中文恵は再登場後、急に頻繁に出てきましたが、八一を疲弊させるエネルギーとしてのみ描かれていたように思えます。作者お得意の短髪にされてから、めぐみもどきから、死神になったのでしょうか。

最後に突然出てきたアッコは本作でも異質なホラー。素顔麻衣子と中学広美を足した〈もどき〉の造形で、物語を終わらせるためだけの来訪者か。打ち切りのせいか最後も唐突で、家庭環境も含めてかわいそうなキャラではありました。なんとなく、将来は保奈子みたいになるのかなとも思った。

そして、最後、もう一人の主役とも言える脇田さん。知的な奥行きとたたずまいと天然キャラのギャップ。メガネ美人キャラは『翔んだカップル』からの伝統。八一にとっては謎の女性でありながら、唯一女性側からの日常や男性との経緯が描かれる。この物語とっておきの存在であり、八一の救世主だったかもしれない。浮気の現場に遭遇しながらも、唯一人八一を許した覚悟。第一発見者だったのだろうか。

1巻 結婚への第一歩

八一、昭和60年大学四年p.6
咥えタバコの保奈子、結婚打診p.10
妻をめとらば…は金田が寮歌を引用p.17
初合コンたぬき顔赤岩さんp.44
隣ビルの野村敬子デート食い逃げp.80
酔った美空をベッドに介抱p.107
安竹登場p.114
安竹インポ吐露p.129
青山、公園に登場p.147
古都と村雨くっつけるp.181
小糸道代登場。居眠り八一に声掛けp.186
いきなり居酒屋デート赤い糸p.194
海岸弁当デート・キスp.213

2巻
保奈子再登場、ぶち壊しp.19
山根広美登場。夜中の公園ブランコp.27
広美・保奈子と共同生活p.38
安竹、結婚は人生の地獄p.79
広美、私を抱いてもいいんですp.85
小糸、中年男性島野と出会うp.97
八木先輩、八一にブライダルマンp.109
小糸、八一にビンタp.168
八一、広美を抱きかけるp.211
3巻
小糸、島野にメロメロp.35
おでん屋計屋登場p.45
ブライダル紹介で広木田登場p.117
アパート引っ越し。広美達と別れp.128
平沼香代、バーで登場p.157
村雨、古都と別れ皆子に会うp.186
4巻
香代とセックス三昧p.50
俺との結婚考えてくださいよp.64
香代「妻とはSEX付き家政婦か」p.68
安竹、しなやかな男論p.74
広木田と海岸デートp.90
八一の義兄登場、結婚退屈論p.99
八一、ウエイトレスナンパ失敗p.115
金田結婚式の受付、高林登場p.130
村雨と皆子、安竹と美空p.150
金田グチこづかい五百円p.170
八一・高林と村雨・皆子Wデートp.184

5巻
安竹、小糸を清楚美人と表現。p.13
皆子・古都・村雨社内パニックp.20
安竹・小糸・島野鉢合わせp.30
八一、隣人の山城姉にビンタされるp.42
八一、山城妹と海岸デートp.53
金田と山城姉やりまくりp.59
安竹、小糸をあきらめるp.82
安竹36歳、小糸に再申し込みp.93
安竹、小糸の重さを感じるp.102
八一、神尾麻衣子とスナック出会うp.137
安竹、小糸破断p.141
金田、八一にビール券渡すp.158
八一、麻衣子の素顔に惚れるp.201

6巻 見えない明日
麻衣子にパトロン現れる
寿司屋の吉造、破談と株買い
株大暴落p.49
八一、小糸と再交際。敬語。p.51
小糸の部屋で避けられるp.77
皆子と荒木婚約p.83
八一の義兄、結婚年金説p.101
村雨・皆子退社、荒木転勤p.115
八一、2年目、後輩二人p.116
八一、小糸に、つめたい女…p.138
八一、小糸に、なんかつまんねーなp.143
麻衣子再登場p.152
小糸、八一に休もうか、お付き合いp.163
八一、麻衣子にふられるp.174
保奈子再登場、安竹と出会うp.184
小糸送別会、帰郷p.193
安竹・保奈子結婚。八一25歳p.201
八一、株に手を出す奴らの方が悪いp.208
神崎めぐみ登場p.209
7巻 大島と別れ神崎と結婚へ
取引先の娘、大島沙織登場p.18
神崎「私を誘いはしないのですか?」p.19
大人の八一、神崎にアタックp.28
八一、生まれて初めて結婚の文字p.41
安竹、自分愛し人間増加説p.48
安竹、八一は大漁の肴を逃したなp.70
安竹、男が泣く時代説p.72
安竹、転勤p.74
大島「カップに口紅が!!」p.93
田中先輩、泥酔p.105
神崎と合体「お嫁さんになりたい」p.113
大島、新しい彼と婚約p.131
神崎のウエストの太さと色黒p.136
ミス保奈子回想編p.162

8巻 愛の大迷走 結婚式までのあれこれ
広美再登場p.5
広美のプロポーションp.10
八一の両親登場p.20
青山に広美の電話教えるp.55
神崎がんばれキミだって可愛いぞp.84
八一、神崎と婚約p.115
八一、町田支店転勤、安竹と再会p.135
安竹、死と愛人を説くp.138
神崎来訪、広美の電話、麻衣子登場p.165
麻衣子再訪p.177
横山田くん登場p.203

9巻大三角関係倦怠期と赤プリ

坂本登場p.63
作者表紙でビール語りp.68
麻衣子三度登場p.92
結局俺はみんな裏切ってることにp.108
安竹、浮気バレるp.133
八一やせてくるp.140
麻衣子にサヨナラp.178

10巻大逆転の巻
病室で、八一、村雨、青山、広美。p.8
八一、めぐみが終着駅なんだろうなp.11
広美再登場、再付き合い宣言p.28
八一、胸騒ぎが…p.73
細川、世評を語るp.80
八一、小糸と電車で遭遇p.83
八一、広美とホテル。残された誠意p.109
広美、合コンで橘と出会うp.126
めぐみ、坂本に口説かれるp.139
広美、橘とデートp.144
めぐみ、八一に別れを告げるp.147
八一、広美に電話何だこれは⁈連発p.153
結婚するならめぐみだったんだp.188

11巻 終わりの後 めぐみ回想編
橘の顔変化。p.30
めぐみ、坂本をたしなめる。p.56
八一、めぐみをストーカーp.81
細川の登場増えるp.103
八一、散髪p.141
めぐみもどきサ店の田中文恵登場p.149
細川合コン、来週またやるかp.158
メガネ崎田登場p.160
八一、文恵の情夫と飲むp.194
「崎田さんって思ってる以上の人」p.210
細川結婚p.211
12巻 マンネリズム
八一、一番目のいない二番目かなp.19
横山田、見合い結婚p.43
文恵、短髪p.75
崎田、主人公回p.69
八一、小糸さん。麻衣子オ。p.105
細川、宇野首相ネタp.144
めぐみからの無言電話p.147
細川、めぐみ、八一p.167
八一、めぐみ、再合体p.195
「いまそんな話してていいの…」p.211

13巻 八一、常に二股

八一の顔変わったp.8
八一、めぐみをストーカーp.30
八一、安竹、細川、横山田の送別会p.34
川田富子登場p.48
富子とベッドインp.83
細川、八一に転職をすすめるp.90
富子の兄登場p.99
めぐみ、離婚。結婚は懲り懲りp.131
富子の兄と喧嘩p.198
田中文恵とベッドインp.208

14巻 三十歳 寂しさの極地
文恵と付き合うのが楽しくなくなったp.17
富子泣くp.24
結婚には向いていない男なんだp.62
富子と文恵遭遇、二人とも出て行くp.67
細川退職p.107
「オガーヂャン、三十になっちまっただよォ」p.115
「あっ、小糸さん、あっ、香代さァん。あら、広木田さん。うっ、高村さん。おーっ、麻衣子ーっ。広美ーっ。あー、めぐみーっ。富ちゃん。みんなーっ、俺を置いていかないでくれよーっ!!」p.123・124
富子、実家に帰るp.131
細川、人間微生物説p.142
細川、村雨、青山、ヒゲだらけp.144
村雨、司法試験一次合格p.150
真田死神課長登場p.161
安竹、めぐみより富ちゃんを推すp.186

15巻人生
八一、富子をストーカーp.21
安竹、苦苦八一に盛り上がるp.34
隣室にジゴロのジョー登場p.57
部屋に神の声「どこにもいません!」p.81
兄と腕組む富子p.98
女子高生泉原(アッコ)登場p.95
八一、崎田を「本当の美人だなぁ」p.117
八一、富子に道端でサヨナラ…p.139
ここは淫行マンションじゃp.165
これが日本のサラリーマンの実体だー!p.207

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