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サブカル大蔵経310『武田百合子対談集』(中央公論新社)

対談収録での灰皿に煙草を置く武田百合子と、やせてすっきりした感のある深沢七郎の写真がたまらない。

吉行淳之介もメロメロ。「面白いねえ、あなたの見方」

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入院してから私と娘でおちんちんを拭いてあげたの。こう、きゅっと首をちぢかめたようになっちゃって…可愛らしかった。おしっこさせながら、あたしが「オチンチンのうた」ってのを作詞作曲して歌ったら、笑ってね。でもその次に「おしっこ音頭」っての作ったら、これはあんまり喜ばなかった。変な顔してたわ。p.72


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お寺の奥さんの役、お大黒さんと言うのかな、それはあたしがやっていたの。/いろんなことをやるのよ。法事をやったり、人が死んで枕経を頼まれたり…。/お寺のお大黒さんの仕事ってちょうど料理屋の女将さんと同じなのね。/それからあたし塔婆なんかも書いちゃった。ほんとうは書いちゃいけないのよ、坊さんでもない女が。でもお金もない、遠くから来てほうぼうのお寺で断られて、なんて言う人が来ると、あたしはいいですよって書いちゃったの。/名前の上のところに雲が飛んでいるようなーそれ梵字でなんて言うのかよく知りませんけれどもーその書き方を一生懸命練習して、その通り写してね。キリスト教で死んだ人の時は雲が飛んでるのじゃなくて森永キャラメルの天使。森永キャラメルを女中さんに買ってきてもらって、天使のマークを写したの。p.76・78・79

武田泰淳は寺の息子だった。後は継がなかった。まさか武田百合子が坊守さんをしていたとは。真摯で素敵な坊守さんみたい。一瞬、桜木紫乃『ホテルローヤル』の坊守さんが浮かんだ。

深沢さんにも百合子さんみたいなところってあるんじゃないかな。何を言ったかより、顔が馬鹿な顔してるとか、そういうことの人でしょう。だから「文藝」の百合子さんとの対談って本当に気があってたわね。(金井美恵子)p.101

 内容より、顔つきを見る。それこそがその人をあらわす。そこから滲み出るもの。それを言葉で表すということ。正直な文学と言えるかも。

武田さんっていう人は、本物でもニセ物でもどっちでもいいって言う人だわね。むしろ、本物に悪意があったのかもしれないな。(金井美恵子)p.105

『ギャラリーフェイク』のフジタのような台詞。真如より方便。真より仮こそ。

私が1番ショックだったのは、ああいうところにいたからかもしれないけど、朝からトンカツ食べるって言うことね。(金井久美子)p.114

 文人悪食

一般的にいうと、紀行文なんて書くのは知識人だからね。ロシアとか中国とかヨーロッパとか行くわけだけだ。そういうところしか見えないわけよ。読む前から何が書いてあるのかわかっちゃう。読む必要がだからあまりないのよ。ところが百合子さんのは、何が書いてあるのか読まなきゃわかんない。それが面白いのね。(美恵子)。そうかねえ。(百合子)。だからね、ちょっと恥ずかしいけど言うとさ、ブリ・コラージュみたいなもんでしょう。レヴィ=ストロースの器用仕事と言うのは、文化人類学者の姿勢、あるいは方法としてああいうことをやったんだけど、百合子さんの紀行文と言うのは、自分が生きていると言う感覚そのものが、ブリコラージュだと言う面白さがあるのよ。(美恵子)p.116・117

 紀行文の面白さの極意を語る金井美恵子。まさかのレヴィ=ストロースまで。

うちの団子大きいでしよ。東京で売っているものの2倍はあるわね。これで1本60円だからね(笑)/武田先生は俺の『楢山節考』の審査員だったからね。/あの作品を本当に理解してくれた武田泰淳と言う人が僧籍にあった人だったと言うのが面白いんだな。/この裸の世界には仏教的なものがあると言った時は、ミュージックホールの連中驚いたもんだったね。p.128

 こんなに柔和な深沢七郎にさせる武田淳庵幻想高まる。

わたしはね、元気のあり余ってる主婦がきらいね。たいてい、三、四人かたまっていて。p.143

 この一言が古びない。


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