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サブカル大蔵経613加藤典洋『9条入門』(創元社)

発売直後に読んだ時は、その内容や展開が「焦っている」印象を持ちました。

「9条」という存在は、これだけの高名な評論家も、珍しく狂わせてしまうのかと。

その後、本書は加藤典洋さんの絶筆となりました。

再読してみると、遺された少ない時間を賭けて犯人を追い詰める推理小説であり、告発書であるような迫力が感じられました。

〈犯人〉は誰なのか。

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憲法9条に負けたまま、と言うのは、ただ憲法9条をありがたがっているだけでは、と言う意味です。かつて私は、そうかそうか、平和憲法がなかったら戦争に反対しないのか、と書いてしまい、護憲派の人の心をひどく逆なでしてしまいました。p.9

 護憲派こそ思考停止ではいけないと。

憲法9条は、理念を残したまま、その理念とではなく、アメリカと結合する。つまり日米安保条約とセットで存在することで「国をどのように守るのか」という問いに答えるという新たなあり方を持つようになったのです。p.34

 〈9条と安保〉の表裏一体。

8月16日スターリンからトルーマンに書簡が届いた。日本が先にシベリア出兵をしてソ連の極東地域を占領したことを理由に、ソ連の国民感情を納得させるために、ソ連軍による日本領土の1部、具体的には北海道の北半分の管理が必要だと言う控えめな提案を寄せてきます。p.42

 旭川は、対日本国の国境都市になっていたのかな。『国境のエミーリャ』はガチ。

天皇の全責任発言はあったのか。豊下楢彦の推測によれば、マッカーサーは天皇の口から東条への責任転嫁の言葉を聞かされたが、回想録ではそれを隠して代わりに天皇の事実無根の全責任発言を加えたことになります。p.111

 この辺りが未だに謎。それぞれの立場。天皇を護るのか、日本を護るのか。

条文が徹底した戦争放棄となったのには、それが徹底した誰をも納得させるものでなければ、天皇制の存続が日本の軍国主義の再現につながるのではないか、と言う周辺諸国の不安をなだめられないと言う事情がありました。p.163

 世界にケンカを売った狂気の国が信用されるための、唯一の手段としての9条。

天皇はなぜマッカーサーに命を助けられたのか。マッカーサーが彼を自分の占領統治の要として利用しようとしたからに他なりません。ですからマッカーサーが天皇の退位を受け入れない事は誰の目にも明らかです。p.197

 常に〈天皇〉は将軍や志士に利用されるための存在であり、それが外国・地球規模にまで適用されただけか。

国連軍と言うキーワードを加えてみると、9条の持つ光輝も非現実性も姿を消し、ただ現実的な国際的安全保障の理想型が浮かび上がってきます。p.279

 9条という善悪を超えた装置。

日本が完全に軍備を撤廃する以上、その安全保障は国連に期待しなければならないが、国連が極東委員会の如きものである事は困ると思いますと、マッカーサーに意見を求めます。p.320

 天皇外交の国際情勢探知。

天皇がダレスに加担し、今や落ち目のマッカーサーから身を遠ざけ、吉田の動きをコントロールしたことが、ダレスにとってどれほど大きなメリットになったか想像に難くありません。振り返って驚かされるのは当時の天皇の憲法9条講話観、日米安保条約観が、この時ほとんどダレスと同じであることです。つまり、日本国民を全く信頼せず、日本の独立にも大した関心がなく、憲法9条の平和条項にも国際連合にも何の幻想を持たない一方、共産主義の浸透に警戒すると言う点で共通していました。p.323

 マッカーサーとダレスを天秤にかけた昭和天皇の二重外交。ニヒリスト天皇。

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