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サブカル大蔵経486太田紫織『櫻子さんの足下には死体が埋まっている』(角川文庫)

ある時、「天寧寺が小説に載ってるよ」と先輩の僧侶に教えていただき、買って読んでみたら、冒頭から登場していました。

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街で最も古い神社と言われる、永山神社から大道寺、天寧寺、妙善寺と、数百メートルに渡ってカエデやハルニレ、ヤチダモといった古木が立ち並ぶ通りを抜けて、所々に残存している、開拓時代からの古い建物を横目に僕は先を急いだ。p.5

 まさか目の前の道路が活字になっているとは、と当時嬉しくてびっくりしました。ちなみにアニメ化された後も、永山神社、大道寺、天寧寺、妙善寺と並ぶこの通りを〈櫻子さん通り〉にする、という動きは、全くなかったですね。今はなき西武でセル画のパネル展までやってたけど、町内会で提案すれば良かったかなぁ。

古い通りを歩いていると、やがてこんもりとした緑が僕の目に入った。樹齢百五十年弱と言われるカエデの木だ。その横で同じぐらい長生きのハルニレと、春には見事な花を咲かせる桜の木が、風に揺れている。p.5

 天寧寺に林がありますが、一昨年、伸び放題だった樹木の剪定を行いました。それでもまだ樹々は残ってます。ただ桜は寿命で伐採しました。その後に植樹しました。

そういった巨木に包まれるようにして、やがて白いお屋敷が現れた。全体的な痛み具合から見て、ゆうに築100年以上は経っている、コロニアルスタイルを基調にした木造建築。白木の壁とコントラストを描く黒い枠組み、一目で手が込んでいるとわかる出窓が印象的だ。玄関を飾るのは、星七宝という円を重ねた和柄のステンドグラスで、おそらく建築当時は相当モダンだったんだろう。和と洋が混在した、情緒ある建物だ。年月と共にどこもかしこも痛んでいるのに、そのお屋敷には不思議な存在感がある。ともすれば庭の巨木たちに飲み込まれてしまいそうになっているのに、まずその白さは誰しも目を引かずにいられない。p.6

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 近所で白い建物は天寧寺くらいなので、やっぱりここがモデルじゃなのかなと思います。正面右手の庫裡の窓もステンドグラスです。写真は昨年2020年の7月です。

当たり前でしょ!私たちが住んでいる南光地区一帯は、もともと九条さんの土地をお借りしてたもんなのよ。戦後から少しずつ手放されたみたいだけど、それでもここらじゃ有名な地主さんじゃないの!p.30

 永山を〈南光〉に。東光と重ねて。

僕は櫻子さんの運転するルノーニューカングーで高速道路を走っていた。p.118

 櫻子さんのルノー・カングーも、寺の隣りのアパートにいつも置いてありました。

北海道で最初の紅茶専門店だと言う、老舗中の老舗ライフラプサンで買ったと言う紅茶はネパールさんの限定茶葉だそうで。p.207

 あと実名はライフラプサン。本巻の舞台は、旭川ばかりではありませんでした。

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本書は現在の旭川を述べてくれる貴重な作品でもあります。

僕は時間の死んだ街で生まれた。よくも悪くもマイペースで強情で変化を嫌うこの街では、澱んだ時の流れすら平穏だとか安寧と呼ばれる。変えられない、変われないのではなく、そもそも変えたいと思わないのだ。まるで大腿骨のように強靭なまでの真一文字さが、この街には絶えず横たわっていて、人々の心までせき止めている気がする。僕はこの街が好きだ。だけどこの閉塞感と停滞した時間に、時々息が詰まりそうだったー『あの女性』に会うまでは。p.5

 冒頭、旭川の説明から始まります。こういう旭川だから、櫻子さんブームに便乗できなかったのかも。でも市内の書店では、文庫本はいつも平積みで大人気ですよ!

僕らの住む旭川は、北日本でも仙台市に次ぐ3番目の人口の中核市で、戦前は軍都として発展した大きな街だ。話題の旭山動物園のお陰で、観光客数は全道2位。だけど蓋を開けてみれば、旭川は単なる通り道に過ぎない。p.10

 地元の人がよく言う台詞ですね。

この街には、いたる所に退廃や、停滞といった、鈍重な雰囲気が漂っている。それを打破しようと一生懸命な人達も少なくないし、様々な観光資源も見直されている。やっと市が重い腰を上げて、町中の再開発が進んでいるというのに、それでも一向にそういう空気が晴れないのは、根っこに太い旭川気質が、どーんと鎮座ましましているからだと僕は思う。旭川の人間は、生来変化と異端を嫌うのだ。p.11

 だからこそ、寺沢武一、佐々木倫子、藤田和日郎ら異能の漫画家を生んだのかも。

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