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サブカル大蔵経673ルシアベルリン/岸本佐知子訳『掃除婦のための手引き書』(講談社)

匂いと音の流転の短編集。

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彼女が出会った場所と言葉。

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壊れたコークの自販機も水びたしの床もニューヨークみたいで懐かしかった。(「エンジェル・コインランドリー店」p.14

 ニューヨークの水びたしな床。私が訪れた時のバーガーキングの地下客席もそうだった。客と店員が喧嘩して、初めてリアルに「シット!」という言葉を聞いた。地下鉄の落書きも含め、地上と地下が違う街。

祖父のシャツは肌にはりついて、はがすとぺりぺり音をたてた。(「ドクターH.A.モイニハン」)p.30

 汗を除去する現代、汗は何を表すのか。

貧乏人は、とにかく並ぶ。生活保護や失業保険の列、コインランドリー、公衆電話、緊急救命室、刑務所の面会、何でも。(「掃除婦のための手引き書」)p.51

 ワクチン予約の時、思いました。

「この店であたしに解決できないことはない」が彼女の口癖だった。(「今を楽しめ」)p.92

 コインランドリーという舞台の本編に現代を感じました。その世界の神と住人。

バラの香りと、彼女のセーターのカビのにおい。(「いいと悪い」)p.100

 女教師の匂いと臭い。忌避と証し。

セックスそのものについては、なんだか怒ることと関係があるみたいだと思っていた。(「セックス・アピール」)p.129

 生殖の本質と怒りの関係。

でもあたしにはいま姉さんが必要なの。(「あとちょっとだけ」)p.263

 ここだけ直接的な〈台詞〉ゆえ鮮やか。言葉とはこういう時のためにあるのかと。

昔わたしが教えていた囚人たちは、"本物の時間"という言い方をした。塀の外で流れる時間のことを、彼らはそんなふうに感じるのだ。(「あとちょっとだけ」)p.268

 自分はどの〈時間〉を生きているのか。

ルシアは言った。物語こそがすべてなのだからと。(リディアデイヴィス解説)p.297

 真相や事実よりも物語。経典的。

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