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サブカル大蔵経304村岡俊也『新橋パラダイス 駅前名物ビル残日録』(文藝春秋)

少しずつ新橋が近づいてきた。p.14

 一昨年、私も、新橋駅前ビルとニュー新橋ビルをようやく訪れることができました。本橋信宏さんの『新橋アンダーグラウンド』を読んで、あらためて新橋に行きたくなったのと、パリッコさんらが、駅ビルの呑み屋ルポを書いてくれていて、次、東京行ったら、行こうと思っていました。

 五十歳を前にして、新橋ビルが近づいて来てくれたのかもしれません。著者もある日から突然通うようになったとのこと。

 そこで働く方々の歴史と人間模様。再開発計画による解体も予想される中、ビルが丸ごとこの本に移ってきたかのような貴重な文献だと思いました。

「新橋しか知らないから」と語られる新橋という街の不思議な魅力も浮かび上がる。

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いや、むしろ平成の味なのだ。p.32

 私も到着して最初に並んだ〈むさしや〉は、様々な転職を重ねた上での洋食店でした。懐かしい味わいを求めて行列ができる名店は、実は平成の味。この流転としぶとさこそ、このビルを、新橋を象徴するものかもしれない。

〈ゲームインリド〉女性や子供の姿はなく、誰も喋っていない。p.38

 ここのゲーセンは落ち着くというか、あの世感ありました。

〈二階のマッサージ店〉マッサージ嬢に背中を踏みつけられていると、なんだかバカバカしくなってきて、私はいつも笑いそうになってしまう。世情が遠くなり、仕事もどうでもよくなって眠ってしまう。p.49

 魔窟に浄土があるのでしょうか。

〈たこ助の店主〉駅事務所の中にいたら、券売機にコインがガンガン落ちてくるんですね。それでちょっと興奮しちゃって(笑)小銭と言ったって、あんなにガンガン落ちてきたら結構なことかなって。やっぱり日銭って面白い。p.61

 小銭の魔力。説得力。カード時代には得られない商いの真っ当さ。

共用トイレに行くからと、ついでにエレベーターまで送ってくれたが、その立ち姿は、ビルの空気に完璧に同化しているように見えた。p.106

 ニュー新橋ビル4階に事務所を構える政治家、仙谷由人。このしばらく後逝去。

〈スナックバラードの店主〉(ビルを)早く壊してほしい。p.141

 そうしないと、ここから出られないからだという。

当時の電通の社長が来て、うちの女房の肩を揉みながら《頑張れ、もう少しの辛抱だから』って励ましてくれたよ。p.152

 〈ビーフン東〉店主。あの店の位置とたたずまいの遺跡感と、中に入って感じた臨場感のギャップがすごかったです。

そうでございます。デーンと壁でございましたのよ。地下の一番奥でございますからチンドン屋さんにお願いして、ドンドコドンドコ、チンチコチンチコ、地上で宣伝していただいたんですね。p.182

 〈パーラーキムラヤ〉の女将さん。丁寧な口調でお下品な感じが最高です。

そういう風に騙されても、私の見る目がなかったんだなと。/服部さんがその目に映してきた風景の多様さに痺れてしまう。〈陽だまり〉p.191.197

 唯一のスナック。その歴史と物語。ストリートワイズならぬ、お店ワイズ。

マッサージ店のベッドを仕切るカーテンレールにかけられた洗濯物、ゲームセンター〈ウイング〉の灰皿に置かれたサービスの飴玉、〈ラズベリードール〉のピンクのボタンのついた白いサーキュレーター、〈秩父〉で席に着くと渡されるひざ掛け、チケットショップで売られている七十円の缶コーヒー、〈ペちか〉に積まれたエアロスミスのカセット、昼から開いている立ち呑み屋の具の入っていない二百円の焼きそば、〈たこ助〉の暖簾の「あした天気になあれ」という刺繍、アダルトショップの店頭ポスターで乳首に貼られた☆マーク、〈陽だまり〉の応敷に置かれたちゃぶ台……。
挙げ始めたらキリのない 断片の数々が、私の中に蓄積され、その日常が記憶となっていく。p.209

 物語のモノたち。ありがとう。

ああ、生き返ったと言うと、その言葉のために我々はやってます。ありがとうございます。〈ニュー新橋バーバー〉p.217

 床屋さんの鑑。

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新橋駅前なのに、すぐ近くなのに、入れそうで入れないんですよね。

ここで買ったベルトとネクタイヲ愛用しています。微妙にダサくて使いづらいところが気に入ってます。

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