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幸せな夢

穏やかな世界

入口に、低い段差がある。
その段差をまたいでドアをくぐると、
そこには現実から切り取られたような
小さな世界があった。

暖かな照明と仄かな木の香り。
お客人と店員さんの優しい話し声。
遠くで鳴る穏やかなBGM。
食器を洗う音がすぐ側に聴こえる。
小さなメニュー表。
数は多くはないが、温かみがある。
どれも拘って作られているのだろう。
紙の擦れる音まで耳の奥に届く、
そんな穏やかな夢の中。

ちょっとの贅沢

頼んだのは、キーマカレーと水出しの珈琲。
それからお土産にスコーンを注文しておいた。
いち高校生には少しお高いランチだが、たまの贅沢には良いだろう。

届いたキーマカレーは、メニュー表に載っていた写真と同じように綺麗な丸を描いていた。
珈琲は、可愛らしいグラスとコースターに乗ってやってきた。
スパイスのいい香りがする。

「いただきます」

まずは、カレーを。ご飯の上にカレーが綺麗に重なっているので、とても食べやすい。辛くはないが、スパイスの香りが鼻の奥に抜ける。ちょっぴり癖のある香りだ。とても美味しい。

そして、珈琲。初めに何も入れずに、そのままの珈琲を味わう。ストローを差し込み、一口。口の中に苦味がふんわり広がる。酸味はあまりないタイプのようだ。飲み込んだ後に残るこの苦味、好きだ。

しばらくそのまま楽しんでから、ガムシロップを1つ入れてみる。なんせ、甘党なものだから。小さなパックから流れ出すシロップ、これまた美しい。ストローでくるくると混ぜる。この氷とグラスが戯れる音は、なんとも言えない心地好さがある。飲んでみたら、ちゃんと混ざっていなかったのか、すごく甘かった。1口目は、珈琲味のガムシロップと言った感じ。笑 しっかり混ぜてから、もう一度。やっぱり私は、このガムシロップ1つを入れた、少し甘い珈琲が好きだな。

銀のスプーンと白い皿がぶつかる音。
思ったより大きな音を鳴らしてしまった。
あ、、、少し焦る。
しかしそんなことは誰も気にしていない。
まるで、私という存在がここにあらぬような。
一人一人の世界が、隔離しているような。
夢の中のような空間、時間。

それから、他に余計なことは考えず、
カレーを食べて
珈琲を飲んで
カレーを食べて
珈琲を飲んで
カレーがなくなってから
ゆっくり残りの珈琲を飲んで。

最後に深呼吸をして、その夢は幕を閉じる。

「ご馳走様でした。」

素敵な出会い

入口の正面に、本棚に囲まれた一角がある。ここでは本も売っているのだ。少し覗いてみようと思いたち、席を立つ。色々な種類の本があった。CDなんかも置いてあるようだ。
そこで見つけたのは、つい最近読んだ本と同じ著者の作品である。最近読んだ本というのは、「よこまち余話」という作品だ。
今回出会ったのは、おなじ 木内昇 さんが書かれた、「茗荷谷の猫」という本。前回読んだ作品が、とても自分に刺さる表現が多かったため、気になって、衝動買い。うちへ帰って読むのが楽しみだ。

目覚め


「段差ありますので、お気をつけて」

お会計を済ませて、店の外へ。
一歩踏み出すと、そこは騒音の世界だった。
一気に現実世界に引き戻される。
帰りのバスまで歩かねばならない。
いつもなら億劫だが、なんだか体が軽かった。
素敵なお店だったなぁ
とか
少し奮発しすぎたかなぁ
とか
今度行ったらオムライスも食べたいなぁ
とか
そんなようなことを考えながらゆっくり歩いていたら、バスの時間がギリギリではないか。
いけない、いけない、少し急ぎ足になる。
ギリギリで、発車の1分前に乗車。
座席に座り、ほっと一息。
ここまでにも素敵な時間を過ごしてきて、もう帰り道だと言うのに、帰ってからもまだまだ楽しみは残っている。

なんて素敵な1日だろう。
なんて素敵な気持ちだろう。

きっとこれが、“幸せ”だ。

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