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ロールスロイスの似合う家|高原邸 1977

次男の僕は兄弟三人が建築家だから色々自由なのだが不遇でもある。いや、不遇はない、いいところが取れないという意味だ。兄は先に建築家になったのだから、そして長男なのだから故郷の仕事は父の後は兄が取る。中学も高等学校の関係もやはり兄がチャンスを持っていく。兄弟や親戚さえも、次男には回ってこない。これは不遇である。三男の弟は兄も僕も父の建築事務所を継がないので、幸か不幸か跡を継いでくれている。そんな意味では次男は孤立無縁なのだ。自由でもある。

家族が全部建築家というのは問題が多い。そんな僕が事務所を開設して人生をこの仕事に賭けたのだが、この年齢になって何の後悔もない。ないどころか実に見事に人生設計をしたな、と悦にいっている。10人以内のスタッフで、それ以上増やさないと言う方針も良かったし、建築の概念を拡大して都市からプロダクトまでに広げてきたのも大成功だった。おかげで中国でも多面的に活躍できているし、今でもスケッチをして現役でいる。

何も助けがない次男と言ったのだが、そのために周りの人たちがたくさん助けてくれている。この家はスタッフだった横河健が持ってきた仕事である。学生時代からの長い関係なのだが、今は見事に自分の設計事務所を持って活動している。その彼が持ち込んでくれた住宅の仕事だったのである。

クライアントは著名なレースドライバーとファッションモデルの夫妻である。年間チャンピオンだったことがあるのだから相当な実力者なのだ。その彼が「ロールスロイスの似合う家」を作ってくれと言う。性格が夫妻で異なっていて、好みも違う。これはよくあることである。その調整役も果たしながら設計するのが普通の住宅設計の状況である。建築家は調整しながら、それでも自分に都合のいい方の意見を支持して進めることになる。どんなに意見を聞いても、僕が聞くのだから僕的な理解になる。自分の思想や美意識を大切にしないと無茶苦茶な家になるからがんがんと進めることになる。

建築と塀が一つに連続した家である。庭が取り込まれて青天井の部屋のようになる。芝がその部屋の真ん中にあるのだが、芝のラグのつもりでいる。ロールスロイスとポルシェの2台の車はこの二段になった青天井の部屋の高い方の床の下にあって、この部屋から階段で繋がっている。当時、僕もポルシェを乗っていたから、お揃いで黄色いポルシェ探そうと彼が言い出して、残念ながらそれは実現していない。

何年か前、横河健君から内装を少し修正したよ、と報告があった。自慢の弟子の一人である。

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《黒川 雅之》
愛知県名古屋市生まれの建築家・プロダクトデザイナー。
早稲田大学理工科大学院修士課程卒業、博士課程修了。
卒業後、黒川雅之建築設計事務所を設立。
建築設計から工業化建築、プロダクトデザイン、インテリアデザインと広い領域を総合的に考える立場を一貫してとり続け、現在は日本と中国を拠点に活動する。
日本のデザイン企業のリーダーが集う交流と研究の場 物学研究会 主宰。

〈主な受賞歴〉1976年インテリアデザイン協会賞。1979年GOMシリーズがニューヨーク近代美術館永久コレクションに選定。1986年毎日デザイン賞。他、グッドデザイン賞、IFFT賞など多数。

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