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カオスという腕時計 |CHAOS/CHAOS-2 1999

時計は正確じゃないとだめなのにカオス(渾沌)という名前は僕の持ち前の反逆児らしいネーミングである。

海外へ出かけることが多くなったときに「あいつ今どうしているかな?」と友達や恋人を想う、そんな時計である。大きい方のフェースを東京の時間にあわせておいたまま、もう一つを現地の時間にする。しかも12時間表示の時計では海外から8時は夜の8時か朝の8時か分からないからそのための窓を設けている。黄色ければ昼間だしグレーなら夜だと分る。生活をしながら「あいつどうしているかな?」と想う時計である。「人想う時計」なのだ。

この話はインターネットが無かったかまだ普及していないときの話である。今では旅先から簡単に東京の時間もわかるし連絡だってとれる。こうしてあの時代を想うとなんとロマンティックな構想だろうと思ったりする。便利になるとロマンも消えるのだ。

P_CHAOS-5 [P13]CITIZEN商事

CHAOS (Wrist Watch/1999/CITIZEN WATCH/Titanium Alloy)

この時計にはもう一つおまけの話がついている。何かの拍子に僕がダブルフェースの腕時計を開発していると知った喜多俊之くんからクレームの連絡が来た。自分のマネをしたというのだ。
どうやら同時に彼もダブルフェースの時計を設計していたらしい。どこかで発表したから僕が真似したのだという。しかもそれをデザイン雑誌に企画させてデザイン評論家のある女性に記事を書かせたりしたのである。記事では「まだ、商品になっていないのだから分からないのだといい、発売になってから分かるだろう」と書いてある。笑うというより呆れてしまった。

親しい友人なのだがそんなところが彼にはある。要するにライバル意識なのだろう。光栄としか言いようがない。僕にはまったくない感情なので理解は出来ないのだが恐ろしさを感じたりもしたものだ。それを書いたデザイン評論家の気持ちを思って何も連絡していない。困ったのだろうなと思う。
結果はダブルフェースということだけで全く異なったデザインだった。企画も思想も表現も素材もおよそ類似などしていない。怖ろしい男だなとも思ったものだ。

そんなエピソードをよそにそれなりによく売れた商品である。

このデザインは二つのフェースを一つにまとめきるところにデザインの難しさがある。僕は女性のパンティストッキングを買ってこさせて大小二つの丸いパイプ状の筒にそのパンティストッキングをかぶせて自然にできるカーブをつくり、それを図面化している。滑らかなカーブはパンティストッキングだよというと多くの人はびっくりするのが面白い。

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これはデンバーミュージアムのコレクションだったか・・・確かなことは忘れてしまったのだがそうだった気がする。あの時代は次々と新しいデザインをつくっていた。
それは自分で企業化する仕組みを作ったからである。どこかからの依頼を受けてデザインするのではないからつくりたいものを作れる幸せな状況である。いまでも、つくりたいものを作れる環境は整っている。

P_CHAOS-3 [P13]清水昭

P_CHAOS-4 [P13]清水昭

P_CHAOS-1 [P13]清水昭

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《黒川 雅之》
愛知県名古屋市生まれの建築家・プロダクトデザイナー。
早稲田大学理工科大学院修士課程卒業、博士課程修了。
卒業後、黒川雅之建築設計事務所を設立。
建築設計から工業化建築、プロダクトデザイン、インテリアデザインと広い領域を総合的に考える立場を一貫してとり続け、現在は日本と中国を拠点に活動する。
日本のデザイン企業のリーダーが集う交流と研究の場 物学研究会 主宰。

〈主な受賞歴〉1976年インテリアデザイン協会賞。1979年GOMシリーズがニューヨーク近代美術館永久コレクションに選定。1986年毎日デザイン賞。他、グッドデザイン賞、IFFT賞など多数。

クレジット

タイトル写真:清水 昭

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