見出し画像

【告知】 球面の皿が銀座松屋で展示販売開始です

僕の誕生日に中国の友人の友人のそのまた友人が東京にやってきた。突然ですがパーティーに参加したいというのである。僕の行きつけの鮨寛を買いきりで予約していて制限がある。やっと入ってもらったのがいま、大変お世話になっている事業家の王端宵だった。そんな風に中国はネットワーク社会である。僕の中国での人間関係はすべてこのような友達の友達である。

寿司を食べながら僕のとなりで建築の計画を話してくれる。面白いプロジェクトですね・・・と答えていたのだが何日かして彼の工場のある泉州に招待したいと言ってきた。そこから泉州芸術公園の設計の話が始まるのだが同時に、一緒に会社をつくりたいのだという。中国の文化人や事業家たちは信じたら一直線で繋がりができる。基本的に純真でいい人ばかりだからすぐに仲良くなる。政治の世界の中国とこうしてお付き合いしている中国人とは全く違っている。

こうしてHEREという会社ができた。僕がデザインの担当、僕のマネージャー劉海津も参加してマネージメントを担当してくれる。中国系アメリカ人でボストンに住むケビンさんが販売の担当である。名古屋で一緒に生産を担当してくれるのが宮島さんで中国語も英語も堪能だから助かる。当の王さんは工場は中国にあるのだがアメリカ人だ。フロリダのオランドに湖に面した豪邸をもっている。

昨年、デザインして日本企業で制作したのがここに展示するスフィアという食器である。その後の作品は今年の10月23日から始まるDESIGN ARTで発表するのだが、この作品ももう一つの作品もユークリッド幾何学を頼ってデザインしている。色々理由はあるのだが、一つは「できるだけデザインをしない」ためにどうしたらいいかということだったのだが、もう一つは「皿らしさをなくしたい」ということだった。勿論、幾何学は普遍的な美しさをもっている。宇宙の秩序のような人間臭のない美しさがある。
もう、世界には皿らしい皿はいっぱいある。デザイン意識で皿を探しても感動的なデザインは生まれないと思ったのである。そこで宇宙の摂理に任せようと考えてこれらのデザインが生まれることになった。

HEREという会社のマニフェストは複数のキーワードのコラージュとして表現しているのだが、その主なものは「幾何学」であり「植物主義」であり、「キュビズム」であり、「カタストロフィ」・・・と複数のイメージの重なりで出来ている。幾何学はそのなかの重要な一つのキーワードなのだ。もう一つ、ここで重要なのは会社名であるHEREである。
HEREとは「ここ」である。僕は空間という抽象的な概念より「ここ」が好きだ。NOWは「いま」であり、時間という概念より確実で信頼できる。その信頼できるところから創作していこうという思想を主張してもいる。日本から世界を考えよう、僕自身から人間を考えようというのである。

この皿は球体の一部を切り取った形をしている。楕円で切り取ってラビーニアという照明器具にしたり、イレギュラーな面で切り取って「漆の箱」をデザインしたことがあるのだが、今回は球体を円形で切り取っている。直径はちょうど365センチである。皿のエッジをソフトにしたり直接的に切断したりと球体の終わり方にいまは二種類つくっている。直径を変えたりするとまた異なったイメージが顕れる。

皿とは本当は板でいいのだ。ただ、板のままだと液状のものならこぼれてしまう。それを守るために配慮すると自然に球体の内面の形になる。できるだけデザインしない、をもっとうとしているからこうして幾何学的になっていく。幾何学的形態は文句なしに美しい。宇宙的感覚で人間臭がないのがいい。この上もないシンプルな曲面に、いろいろな料理が乗ることになる。美しい風景が生まれるに決まっている。

いま、幾何学による他の形態による食器をデザインしている。円錐形と角錐形と円筒形である。10月に発表する。

銀座目利き百貨街

「原像を探して「らしさ」を捨てる」

お皿らしいお皿をできる限り避けたいと思っている。住宅らしい住宅はほっとするかもしれないのだが心の中に新しい事件は起こらない。病院らしい病院は健康な人でさえ、そこに入ると病気になってしまう空間のことだ。 「らしさ」を避けるということは積極的には「違和感」を起こさせるためでもある。基本的に怠惰な人間という生きものには「刺激」が必要である。生命を鼓舞する挑発的なものがあって始めてデザインが人の心に届くことになる。 「らしさ」を避けることで既成概念から逃れることもできる。人間は弱虫だから僕の手も気づけば既成概念から逃れられないで過去をたどっていたりする。それを逃れるためにここでは幾何学をつかっている。

日 時: 2020年09月30日(水)ー10月27日(火)
場 所: 松屋銀座7Fデザインコレクション
サイト: https://www.matsuya.com/ginza/events/2011/0826/design-collection/


ABOUT

「未来への遺言」
黒川雅之が語るデザインの背後にある物語。毎週金曜日 Youtube / Note / Instagramにて配信中。

●Youtube / 未来への遺言
思想と作品の裏にあるストーリーを毎週、映像でお届けします。
https://www.youtube.com/channel/UCEGZr5GrqzX9Q3prVrbaPlQ/

●Note / 黒川雅之
映像では語り切れない、より詳細なストーリーを毎週、記事でお届けします。
https://note.com/mkurokawa

●Instagram / 100 DESIGNS
プロダクトや建築の作品写真を中心に魅力的なビジュアルイメージをお届けします。
https://www.instagram.com/100designskk/

●Facebook / KK
黒川雅之が代表を務めるデザインカンパニーK&Kの公式Facebookページです。展示会や日々のデザイン業務などについての最新情報を更新しています。
https://www.facebook.com/kandkcompany/

《黒川 雅之》
愛知県名古屋市生まれの建築家・プロダクトデザイナー。
早稲田大学理工科大学院修士課程卒業、博士課程修了。
卒業後、黒川雅之建築設計事務所を設立。
建築設計から工業化建築、プロダクトデザイン、インテリアデザインと広い領域を総合的に考える立場を一貫してとり続け、現在は日本と中国を拠点に活動する。
日本のデザイン企業のリーダーが集う交流と研究の場 物学研究会 主宰。

〈主な受賞歴〉1976年インテリアデザイン協会賞。1979年GOMシリーズがニューヨーク近代美術館永久コレクションに選定。1986年毎日デザイン賞。他、グッドデザイン賞、IFFT賞など多数。

クレジット
タイトル作品写真:SPHERE(撮影:尾鷲 陽介 / Owashi Yosuke)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?