見出し画像

ぬいぐるみの椅子 |ZO

ZOが生まれたのはアルフレックス・ジャパンの社長からの依頼だった。当時、二つの椅子を提案している。一つはカモシカのように華奢でバネのあるデザインでもう一つがその逆にもったりとしたこのZOの椅子である。
当時、ミネルバの宮本さんが試作してくれて検討会をした記憶がある。両案ともアルフレックスの血を引いたイメージではないということでお蔵入りをしている。

何年かして見知らぬ人から電話が入る。ZOのプロトタイプを買いたいというのだ。プロトタイプを買い集めている人が居るらしいのだ。そんなことからミネルバの宮本さんに電話をしてもう一度検討してみることになった。そうはいってもアルフレックスとではない、丁度、ミネルバが自分自身のブランドを持つ企画を進めていて、僕と一緒に製品化しようということになった。

宮本さんはイタリアでいうとモデラーである。イタリアのモデラーは小さなスケッチだけでプロトタイプをつくってしまう特殊な腕をもっている。椅子は身体で感じるものだからデザインは形だけでは済まない。洋服を試着するように座ってみないと検討できないのだが、それをしながらプロトタイプをつくるのが彼らの仕事なのだ。その日本では唯一の能力をもっているのが宮本さんである。

いくつか、僕の思いを伝える。足の付根を膨らませてお尻に相当するところに張りをもたせたいとかこの位置はシャープな印象にしてほしいとか、ぬいぐるみの椅子だからある意味、宮本さんのお得意とするところではある。

この話が始まるときに彼が一番、気を使ったのが椅子の重さだった。ぬいぐるみだからどうしても重くなりすぎると彼はいう。どこかを空洞にするのがいいという。
初め、彼は紙管をつかって足をつくっている。その内、なにかに別の素材に変更したようなのだが、ごろっとした形のこの椅子は宮本さんのおかげで適度な重さの商品になっている。
ぬいぐるみの椅子は長年座っていると布が延びたりで安定しないのだが、そこは宮本さんの力でいつまでも美しい形を保っている。

ぬいぐるみの椅子とは言い方を変えれば「座布団」の立体版である。座布団が一生懸命椅子になろうと背伸びをしているのだ。座布団自体が足を形成して足のある座布団だからむっくりとして象のような形になる。

宮本さんと僕は同年である。僕たちはどこかで共感しながらまだこれからも椅子を一緒につくっていきたい。そろそろ、もう一つ、宮本さんが腕を発揮するアイディアを考えて製品化したいなと思っている。

P_ZOの小椅子-1 [31]清水昭

P_ZOの小椅子-8 [31]清水昭

ABOUT

「未来への遺言」
黒川雅之が語るデザインの背後にある物語。毎週金曜日 Youtube / Note / Instagramにて配信中。

●Youtube / 未来への遺言
思想と作品の裏にあるストーリーを毎週、映像でお届けします。
https://www.youtube.com/channel/UCEGZr5GrqzX9Q3prVrbaPlQ/

●Note / 黒川雅之
映像では語り切れない、より詳細なストーリーを毎週、記事でお届けします。
https://note.com/mkurokawa

●Instagram / 100 DESIGNS
プロダクトや建築の作品写真を中心に魅力的なビジュアルイメージをお届けします。
https://www.instagram.com/100designskk/

●Facebook / KK
黒川雅之が代表を務めるデザインカンパニーK&Kの公式Facebookページです。展示会や日々のデザイン業務などについての最新情報を更新しています。
https://www.facebook.com/kandkcompany/

《黒川 雅之》
愛知県名古屋市生まれの建築家・プロダクトデザイナー。
早稲田大学理工科大学院修士課程卒業、博士課程修了。
卒業後、黒川雅之建築設計事務所を設立。
建築設計から工業化建築、プロダクトデザイン、インテリアデザインと広い領域を総合的に考える立場を一貫してとり続け、現在は日本と中国を拠点に活動する。
日本のデザイン企業のリーダーが集う交流と研究の場 物学研究会 主宰。

〈主な受賞歴〉1976年インテリアデザイン協会賞。1979年GOMシリーズがニューヨーク近代美術館永久コレクションに選定。1986年毎日デザイン賞。他、グッドデザイン賞、IFFT賞など多数。

クレジット

タイトル写真:清水昭

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?