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フィリピンのスラム街|マルコス夫人と国連のプロジェクト

僕はいつも原点に立ち戻って考える癖がある。営々と人類が構築してきた建築の概念を平気で捨てて、建築とは何かをいつも考えているし、これまでもずっと考えてきた。そもそも、概念とは意味なのだから時代とともにどんどん変わっていく。それぞれの時代に応じて生活の意味が変わっていけば建築の意味も形も変わっていく。それが現代では技術の進化もそれに影響を受けて生活そのものも大きく変わる。人々が夢中になることも変わるし、日常生活が恐ろしいほどに変わってもくる。テレビどころか電話さえない時代の生活を食べものが豊かになった現代の生活から考えると食事の意味も住宅の意味もすっかり変わっている。栄養を考えて食べていたあの時代と違って、今では太らないようにと栄養を考えている。そして、美味しいことが一番大切になった。食事だけではない、生活のすべてが喜びのためになった。自動車もエンターテイメントのためになった。衣服も寒さのためではなくお洒落というエンターテイメントだ。

こんな時代からこのプロジェクトの意味を考えてみると面白い発見がいろいろある。
このプロジェクトは当時フィリピンの大統領だったマルコスの、その夫人が国連と組んでフィリピンのスラム街を開発しようというプロジェクトなのだ。国際コンペが開催されて、僕は当時日大芸術学部の講師をしていたので学生たちを誘ってこのコンペに応募することになった。スラム街を現地調査してプロジェクトに取り組んだ。海岸に流れ着いた木材や捨てられたドアや選挙のための看板を利用して建てられた建物は意外に清潔である。
海岸の白砂に海からの風を受けてさっぱりとした清潔な家が廃材をつかって村を形成している。誰でも入れる安全なところではない。独自な運営がされていてバランガイという組織が犯罪者を廃材でできた刑務所に閉じ込めたりしている。小さな実験都市のような組織なのだ。

27歳〜39歳(1964〜1976)/原点と挑戦の時代

「セルフメイド」。それを僕たちは設計の基本姿勢としている。セメントさえ政府から支給してもらえば自分たちで家が作れる。資金援助だと返済しなくてはならないがそれができない。そこで自分たちで糞尿の浄化設備をつくり、雨水を浄化して飲水にするそんな装置も自分たちで作ろうという計画なのだ。そこにあるもので道具や家を作るという発想は原始時代からやってきたことである。当時はそこにあるものが流れ着いた廃材だっただけのことである。「ブリコラージュ」という概念がある。レヴィ・ストロースが提出した概念なのだが、そこにあるものをそっと組み立ててつくることを言っている。設計をして部品をつくって計画道りに製造する建築や装置などのような組織とは違って、そこにあるものを頭において構想するのである。設計というより編集というべき創作の姿勢である。

現代からみるとこの発想はまさにブリコラージュなのだ。物と物が緊密につながってはいない。再び、解体して再構築することもできる廃材なのだ。同時に、このプロジェクトの発想は「リサイクル」である。基本構造体はコンクリートブロックなのだが、内装はこの廃材が使われる。自分で自分の家を作る、という発想自体も未来の建築のあり方を示唆している。スラムのために発想した計画が実は未来の建築や都市のあり方の提案になっているのだ。原点に立ち戻って考えることがもたらしたのだろう。

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《黒川 雅之》
愛知県名古屋市生まれの建築家・プロダクトデザイナー。
早稲田大学理工科大学院修士課程卒業、博士課程修了。
卒業後、黒川雅之建築設計事務所を設立。
建築設計から工業化建築、プロダクトデザイン、インテリアデザインと広い領域を総合的に考える立場を一貫してとり続け、現在は日本と中国を拠点に活動する。
日本のデザイン企業のリーダーが集う交流と研究の場 物学研究会 主宰。

〈主な受賞歴〉1976年インテリアデザイン協会賞。1979年GOMシリーズがニューヨーク近代美術館永久コレクションに選定。1986年毎日デザイン賞。他、グッドデザイン賞、IFFT賞など多数。

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