見出し画像

タコとタコ

勝男はタコ上げが大好きだった。
この日も、お正月にお父さんに作ってもらったタコを、嬉しそうに上げていた。
ところが、途中でタコの糸がプツリと切れて、勝男のタコは、遠くに飛んでいってしまった。
勝男はタコが飛んでいってしまった方向を寂しそうに見つめた。

一方、タコは嬉しそうに空を飛んでいた。
タコは1度でいいから、自由に空を飛んでみたかったのだ。
そして前の晩ネズミに頼んで、糸の途中を少しだけかじってもらっていたのだった。
自由になったタコはとても幸せだった。
見たこともない景色や高い山、広い空、大きな海

しかし、急に風向きが変わり、タコはまっさかさまに落ちてしまった。

落ちたところは海だった。
変な魚がいるぞ、エイみたいだ。
と魚たちが集まってきた。
すると、エイやってきて、
こんなやつ俺の仲間じゃないぞと言った。

タコは言った。
僕はエイじゃない。タコだ。
魚たちは笑った。
こんなおかしなタコはいるもんか!
足が2本しかないし、体だって曲がらないじゃないか。
タコは、魚たちにつつかれたりしながら、海の上を漂っていた。

しばらくすると、自分のことをタコだという変な奴がいる、という噂を聞きつけて、タコ🐙がやってきた。
僕知ってるよ。君は空を飛ぶタコだろう。
いいな。自由に空を飛べて。僕は年中暗い海の中さ。
すると、タコは行った。
でも、君はいつでも自由に行きたいところに動けるじゃないか。
僕は誰かの手助けがないと、空に飛ぶことができないし、いつでも紐で繋がれたままだ。

そこに、何にでも興味を示すイルカがやってきた。
そこの変な四角いものは、何なんだい?
タコだよ。
僕と同じタコだけど、タコはタコでも空を飛ぶタコなんだ。
とタコ🐙が答えた。

泳げるのかい?

泳げないよ

それなら引っ張ってあげよう。

そう言って、イルカはタコから伸びていた紐を咥えて泳ぎ出した。

タコは、水面を滑るように進んだ。
そしてイルカがジャンプした瞬間、タコは空に舞い上がった。
イルカから糸がすっと離れ、タコはそのまま空を飛んでいけると思ったが、濡れてふやけた身体では、空を飛び続けることができずに、再び水面に落ちて、砕けてしまった。

タコはその時、嬉しそうに空を飛ぶ自分を眺めていた勝男くんの姿を思い出した。
勝男君はきっと淋しがっているだろうな、
あんなに大切にしてくれていたのに。
あんなに、何度も空を飛ばしてくれたのに。
タコは後悔した。
やっぱり僕を喜んで上げてくれる人がいたから、僕は何も心配しないで、気持ちよく空を飛べていたんだなあ。
勝男くんごめんね。
タコは、そう呟くと、海の底に沈んでいった。

一方タコ🐙は少しの間でも空を飛ぶ凧を見て、とても羨ましくなった。
僕も一度でいいから、空を飛んでみたいな。

その時、漁師がやってきて、海に浮かんで空を見ていたタコを捕まえた。
しまった!油断した!

タコは、てっきりすぐに食べられるのかと思った。
しかし、タコは身体を無理やり広げられて、天日に干された。
干された身体は、ペっちゃんこで、ひらひらだった。
ある日強い風が吹いて、干されていたタコが空高く飛ばされた。
タコ(凧)くん、僕も空を飛んだよ!
ほんの少しの間だったけど、不思議な感覚だったよ。
夢が叶ったんだ!


そこにお母さんと男の子が通りかかった。
あれ?タコが落ちているよ。
どこから飛んできたのかしら…
今晩のお父さんのつまみになりそうね。
お母さんは、タコをぱんぱんと払って、持っていたカゴに入れた。

その夜、タコは軽くあぶられて、お父さんの酒のつまみになった。
美味しそうにタコを食べるお父さんの横で、男の子が、僕にもちょうだい!と言った。
もちろんいいよ、勝男が見つけたタコだからな。

お母さんが
タコ(凧)を無くしちゃったけど、代わりにこっちのタコ🐙を拾うなんて、面白いわね。
と言って笑った。
勝男くんも、美味しそうにタコを食べながら、
ほんとだね。
だけどお父さん、また新しいタコ作ってね。
と言った。


後日お父さんが作ってくれたタコに、勝男は、大きなタコ🐙の絵を描いた。
タコのタコは、前のタコ以上に、空高く飛んだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?