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お庭の小さなアトラクション(リメイク)

あるあたたかい冬の日
ぼくは縁側に座り、庭を見ていた。
庭の木にはもうほとんど葉は残っていなかった。

ふいに小さな竜巻が起こり
木の下に散らばっていた木の葉が一斉に舞い上がった。

竜巻が収まると、ボクは不思議な声を聴いた。

この次は私が一番よ!
違うわ、私よ!
何言ってるの、私に決まってるわ!
早く来ないかしら
あ、来たわ

いち、にっ、さん!
再び木の葉たちが舞い上がった。
ボクが聞いたのは、木の葉たちの声だったのだ。

ボクは風に乗ってボクの方に飛んできた一枚の木の葉に手を差し伸べた。

ボクの手のひらに降りた木の葉は、
あなたも仲間に入らない?
とボクに話しかけた。

でも僕は風になんて乗れないよ。
とボクが言うと、
大丈夫よ。私に接吻してごらんなさい。
と言った。
ボクは言われるがままに、木の葉に接吻した。

するとボクの身体はみるみる小さくなった。
僕がびっくりしていると、
さあ、私に上にお乗りなさい。
と木の葉が言った。
ボクが木の葉の上に乗るや否や、三度目の竜巻が起こった。
ボクの身体は、木の葉と共にふわっと宙に浮きあがった。

うわぁ、波乗りみたいだ!
ボクは叫んだ。

ボクを乗せた木の葉は、風に乗ってクルクルまわりながら、数秒間浮かんでいた。

次の竜巻で、再びボクの身体は木の葉と共にふわっと舞い上がり、
他のどの葉よりも高く上がった。
やったあ!一番だぞ!
と叫んだ時、ボクは木の葉から落ちてしまった。

アッと思った時、ボクはほかの木の葉に助けられていた。
大丈夫ですか?
しっかりつかまってなきゃダメですよ。
木の葉はそう言った。

そしてボクはそのあと何度も何度も空へ舞い上がった。

冬の日は短く、やがて風は静かになり、辺り一面真っ赤な夕焼けに包まれた。
木の葉たちはもう空へは舞い上がれなかった。

ボクは地面に落ちた木の葉から降りると、明日も載せてくれる?と尋ねた。
すると木の葉たちは悲しそうに、

そうね、あなたが元の身体に戻った時に、私たちを決して踏まなかったら、これからもあなたは、私たちと共に空を舞えるわ。
でもそれは無理ね。
と言った。

踏まないよ、絶対にふまないよ!
また明日ね。
ボクはそう言って、木の葉に接吻した。

ボクの身体は、見る見るうちに大きくなった。
そして元の身体に戻った時、ボクの足の下には、数枚の木の葉が下敷きになっていた。

あっ

ボクは思わず声をあげ、その場から飛び退いたが、飛び退いた先でも、やはり足の下には数枚の木の葉を踏んでしまい、どうにもならなかった。

ごめんなさい。
ボクは木の葉たちに謝った。
しかし木の葉たちは、もう一言もしゃべらなかった。

次の日は雨だった。
あんなに楽しそうに空を舞っていた木の葉たちは、もう二度と飛べない姿になってしまった。


ボクは毎年冬になって、小さな竜巻の中で、木の葉たちが踊りながら空を舞っているのを見ると、あの日のことを思い出す。

今でも耳を澄ますと、木の葉たちの楽しげな声が聞こえる気がする。



これは、以前載せた、ある日出てきた高校生の時に書いたお話のリメイクです。

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