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頭ひとつ半出た彼(妄想物語)
頭ひとつ抜けると言うと、
通常は技術や能力が人より抜きん出て優れている人のことを言う。
元々の語源は、言葉通り、
一人背が高い、
目立っている、
からきているようだ。
とはいえ誤解を防ぐために、ここでは
頭ひとつ出た
と言う表現を使うことにする。
つまり言葉の通り、彼は目立って身長が高い。
彼の場合は頭ひとつ半出ている。
とにかく背が高い。
175センチはあるだろうと思う男性の中でも、頭ひとつ半飛び出ている。
私が彼に注目したのは、実はその背の高さからだけではない。
彼のマスクが、耳に引っかかっている。
ちゃんと耳の根元までゴムが届かず、耳輪が、少し前側に折れ曲がる形で引っかかっているのです。
何かのはずみで、マスクが、
ぴょ~ん と前に飛んでいくのではないかと、私はいつもハラハラしながら眺めていた。
彼は、時々座っていることもある。
彼は座っていても、頭ひとつ半飛び出している。
近頃の若者の中には、立つと背が高いのに、座っているとそんなに高くない、という場合がある。
しかし彼は、頭一つ飛び出している。
しかし、まあ、それだけの身長だから、足が長くてもやはり座っても高くなるだろうけど…
私の注目は、どうしても、耳に引っかかったマスク。
どうしてそうなる?
頭が大きいのか…
しかも、上下に大きい。
よって高い身長が、更に高くなっている。
短髪の髪で、両方から真ん中に集めて、頂上でツンと立っている。
頭が大きいといえば、以前職場の人で、ヘルメットが入らずに、頭の上に乗っかっている人がいた。
本人は、切実にその苦労を私に語っていた。
特注品を頼まないといけないそうで、それまでの辛抱だと言っていました。
彼は、帽子も市販のものは入らなくて、大きいサイズのものが売っている店に行って買わなければならないんだと言っていました。
その彼も、背は高い方でした。
そんな苦労もあるんだな・・・
その彼は20代後半? 30代前半?
バレーボールの選手だったんじゃないか?
そんな風貌。
そしてまた、私のいつもの妄想が始まりました。
彼は、小学校から少年団でバレーボールを始めた。
中学校でめきめきと才能を伸ばし、高校は推薦で強豪校に入学した。
彼は春高バレー出場をかけて、日夜練習に励んだ。
県の決勝戦
彼のスパイクが、相手のブロックの隙間から、たたきつけられるように相手コートの中心に落ち、最後のセットはジュースに持ち込まれた。
行ける!
誰もがそう思ったが、その後立て続けにスパイクを撃ち込まれ、最後に彼のブロックに当たったボールは、彼の横に大きく飛び出し、コートの外に落ちた。
あと少しだったのに・・・
彼は、その後実業団に入る夢をあきらめて、会社に就職した。
今は、高校の時バレー部のマネージャーだった彼女と結婚して、穏やかに暮らしてる。
彼女はいう。
マスク、ゴムきつそうね。
手作りマスクつくろうか?
いや、あけみも(突然名前出てくる)仕事あるし、大変だろ。
マスクとれやしないから大丈夫だよ。
彼はすこぶる優しい性格。
バレーボールをやっていた時の、あのはげしいスパイクをする時とは別人のようだ。
練習中の激しい姿と普段のおっとりした優しい性格のギャップに、あけみはやられたらしい。
彼はあけみの手作り弁当を持って、毎日電車に揺られて、会社に向かう。
あけみは毎朝自分と彼の両方の弁当を作っている。
料理が苦手だと言っていたあけみだが、彼女の弁当作りの腕は、メキメキと上達している。
彼がお昼、そのお弁当を開くたびに、今の自分は幸せだと思っていた。
彼は地域のバレーボールチームに入った。
これからは楽しくバレーボールをやっていければいいな、と思っていた。
そんな彼を、いつからか電車で見かけなくなった。
転勤になったのか?
在宅ワークになったのか?
いや違う。
彼は、やはり地域のバレーボールクラブでは、満足できなかったのだ。
普通にプレーしていると、チームから浮いてしまう。
彼が前でアタックやブロックをすると試合にならないと言われて、後方でレシーブばかり。
サーブは取れないからアンダーでやってくれと言われる。
これでは、楽しいとは感じられない。
幸せなはずなのに、物足りない。
あの熱い日々が恋しい。
そして、彼は実業団のチームの試験にチャレンジして、見事合格した。
彼は言った。
いつか生まれてくる子供に、自分がバレーボールで輝いている姿を見て欲しい。
お父さんの、すごいサービスエースを、
相手コートに叩きつけられる、激しいスパイクを!
なかなかテレビでは放送されない実業団バレー。
でも、いつかどこかで、実業団バレーボールの試合を見て
あ! あの彼は!
と思う日が来るかもしれない。
勝手に妄想シリーズ、第二弾でした。
第一弾はこちら
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