【企画参加】 再会
「先にお飲み物お伺いしましょうか?」
いかにもバイトらしい若い女の子が、僕に向かって、言った。
僕は、彼女に、
君は、レモンサワーだよね。
というと、彼女は嬉しそうに頷いた。
レモンサワーひとつと、生ひとつ。
バイトの女の子は、怪訝そうに僕をみてから、戻っていった。
久しぶりだね。
去年の秋、彼女とは、些細なことで喧嘩して以来、1年以上連絡がとれなくなっていたのだけれど、さっきこの店の前でばったり出会った。
僕は、明日からお盆休みだけれど、何の予定もなく、珍しく一人で飲んで帰ろうと思っていたところだった。
彼女は、申し訳なさそうに言った。
ごめんなさい。
連絡もしなくて…
あの時は、私、あんなに怒ることなかった。
よくよく考えたら、あなたは、浮気なんてできる人じゃないのに、へんな嫉妬なんかして・・・
ずっと謝りたかった。
ごめんなさい。
あなたのもとに、戻りたかった。
ボクは言った。
戻ってきてほしかったよ。
でも、戻れなくなってしまったの。
これをあなたに届けて謝ろうとしていたのに。
彼女がテーブルの上に出した箱は、ぺちゃんこにつぶれ、自動車のタイヤの跡と、赤黒い血がついていた。
驚いた僕は、えっ? 血?怪我したんじゃないの?大丈夫?と尋ねた。
彼女は笑って、もう1年も前のことだから大丈夫よ、
と笑った。
開けてみて。
箱を開けると、中にはネックレスが入っていた。
ありがとう。
いや、ボクの方も、意地を張って自分から連絡しなくてごめん。
でも、3ヶ月ぐらいしたころ一度電話したんだ。
でも、この電話は現在使われておりませんって・・・相当怒っているんだと思ってた。
その頃はもう、あなたに会うことはできないと思って、解約してしまっていたから・・・
そんな・・・
今日、あなたがこの場所に来てくれてよかった。
彼女はそっと窓の外をみるように促した。
ボクは、促されるままに、店から見える通りを眺めた。
店の少し先のガードレールの脇に、白い花束が置いてある。
誰かここでなくなったのだろうか・・・
そう思って、彼女の方を見ると、そこに彼女はいなかった。
テーブルの上には、彼女が飲んでいたはずのレモンサワーが、手つかずのままおいてあり、
そこに、あのつぶれた箱はなく、
ネックレスだけが置かれていた。
その時店員がやってきた。
お連れ様は、まだのようですが・・・
「ご注文はいかがなさいますか?」
以上954文字でした。
これは、福島太郎さんが参加していた、
「たいら@ショートショート」さんの企画に、私も参加してみようと思って作ったお話です。
その募集はコチラ
「先にお飲み物お伺いしましょうか?」
で始まり
「ご注文はいかがなさいますか?」
で終わる、100~1000文字程度のものとのこと。
お話を書く練習にもなるかと思い、考えてみましたが、ちょっと怪談っぽくなってしまいました。
どうしても思いを伝えたかった彼女が、伝えることができたということで、ハッピーエンドでよかったかしら・・・?
太郎さんがこの企画に参加されたお話はこちら
この時の定員さんの心の中を想像すると、クスッと笑ってしまいます。
(平静を保ちつつ、相当焦っていたはず)
この企画、いろんなお話ができそうですね。
皆様もいかがですか?
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