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宙に浮いた兜 3(終)

(これまでのお話は、最後に付けてあります)

ある日パパが、
「この家はもうボロボロだし、蔵も邪魔だから、全部壊して新しい家を建て替えることにしたよ」
と言いました。
ママは大喜びです。

ところがツトムは
「え…嫌だ。この家がいいよ」
と言いました。
「どうして? フローリングにベットの部屋が欲しいって言ってたのに」
「だってそしたらコタローがいなくなる」
お母さんはびっくりして言いました。
「何を言ってるの?
コタローって誰?」
ツトムは、下を向いたまま、黙ってしまいました。

その様子を屋根裏から見ていたコタローは、
夜ツトムの部屋に行きました。
「どうして見えないふりしたの?」
「お母さんが怖がるから」
「そうだったのか…
でもそれならそうと言ってくれたらよかったのに」
コタローは、ホッとした顔で笑った。

「おやつありがとう。
でもそろそろ僕はこの家を出なくちゃ」

「やっぱりお家壊したら出ていっちゃうんだよね。嫌だよ。出ていかないで‼︎」
ツトムは目にいっぱい涙を溜めて言いました。

「コタローは福の神なんでしょ?
学校で先生が読んでくれた絵本に出てきたよ。
コタローが来てから、ママは元気になるし、パパは会社の社長さんになったし、商店街の年末くじ引きなんて、今まで当たったことがないのに、初めて当たって、大型テレビもらえたし。
絶対福の神だよね!」

「福の神なんて言われたのは初めてだなー。
だからお供え?」
コタローは腹を抱えて笑いました。

「ボクは福の神なんかじゃないよ。
ただのコタローだよ。
ママが元気になったのも、パパが社長さんになったのも、パパやママが頑張ったからだよ。
ツトムだって、パパやママのお手伝いをよくして、頑張ってるし。
自分達で福を呼び寄せたんだよ!」

「でも、コタローがいないと寂しいよ。
もう見えないふりなんてしないから、ずっとここにいてよ」

それを聞いてコタローは

「ありがとう! でも、出ていくのは家を建て替えるからだけじゃないよ」
と言った。

「ツトムも、ツトムの家族も、もう大丈夫。
それにツトムは3日後は誕生日だよね。
7歳になったら、きっと僕のことなんて忘れて、お友達と楽しく遊べるようになるさ」

「コタローと遊びたいよ、嫌だよ…寂しいよ…」
ツトムは、とうとう泣き出しました。

「ツトムは泣き虫だなあ、あと少しだけど、一緒に遊ぼう」


翌日も、その次の日も、ツトムは学校から走って帰りました。
帰宅するとコタローが勉の部屋でニコニコ笑って待っていました。
2人は手まりを投げたり転がしたり、積み木でおうちや、公園を作ったりして遊びました。
今までずっとコタローと遊びたくて我慢していたことや、学校であったことなども、たくさんお喋りもしました。

そしてとうとう3日目、ツトムの誕生日です。

ツトムは、最後の挨拶が終わるか終わらないかのうちに全速力で学校を飛びだし、家に向かって走りました。
コタローは、その日もニコニコして、ツトムを待っていました。

ツトムは、床の間に飾ってある兜を手に取ると、
「これ、かぶりたかったんでしょう?」
と、コタローの頭に被らせました。

「どうして知ってるの?」

「だってよくこの部屋で手まりで遊んだり、兜を取ろうとしてたでしょう?
コタロー、片づけしないから、いつもボクが、兜の位置をちゃんと直したり、手まりを元の場所に片付けたりしてたんだぞ!
一回忘れてて、ママが不思議がってたけど。」

「そうだったんだ。ごめんごめん」

そう言いながらも、コタローは兜を被って大喜びで、ぴょんぴょん跳ねました。

「やったー!ありがとう!
やっと被れた‼︎  ツトムも被ってみなよ。」

ツトムも被ろうとしたけれど、兜はツトムにはちょっと小さかった。

みよちゃんが、こたおー こたおー
と嬉しそうに隣の部屋から叫び、ケラケラ笑っていた。
その声を聞いたママが、なんだろう?とやってきました。

そこには楽しそうに笑うツトムと、宙に浮いた兜がありました。

ママは、
あっ と思いましたが、子供たちがあまりに楽しそうなので、そのまま奥に戻っていきました。

二人はケラケラ笑いながら、チャンバラをしたり、ぐるぐる回りながら、最後の時間を過ごしました。

日が傾きかけた頃、コタローは、
「そろそろいくね」
そう言って、家を出ました。

みよちゃんは、まるで全てがわかっているみたいに、コタローに笑顔で手を振っていました。

家の前でコタローは、ツトムに尋ねました。「ツトムは、自分が生まれた時間知ってる?」
「わからない」
「ママに聞いてみるといいよ」
「うん」
ツトムは、頷いたけれど、コタローが、どうしてそんなことを言うのか、全くわかりませんでした。

ツトムは、田舎の一本道を、夕陽に向かって歩いていくコタローの姿を、目に涙を浮かべながら、見ていました。

その時広報のスピーカーから、4時半に流れる「夕焼け小焼け」が流れ始めました。
音楽が終わった時、遠ざかるコタローが振り返って叫びました。

「ツトム、お誕生日おめでとう!」

「ありがとう!バイバーイ!
またいつか、遊びにきてね!」

ツトムがそう叫んで、大きく手を振った時、手を張っていたコタローの姿が急ぼんやりして、気付くとふっと消えていました。

さよーならー
ツトムは後に残った真っ赤な夕焼けに向かって叫びました。

もう、涙はありませんでした。

コタロー
僕、頑張るよ…

ツトムは、家の中に駆け込むと、
夕食の支度をしているママに駆け寄り
「ママ、お手伝いするよ!」
と笑顔で言いました。

「今日はツトムの誕生日のお祝いよ」
ママはツトムが大好きな、とりの唐揚げを揚げています。

「ねえ、僕って何時に生まれたの?」
「夕方の4時35分よ、
あら、今さっき産まれたばかりね」
ママは、ツトムを見て微笑みました。

コタローは、最後にツトムに手を振った場所に立ち尽くしていました。

僕だってもっと遊びたかったよ…

終わり


第2話の途中で、ツトムか小学生になったことを、付け足ししました。

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