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宙に浮いた兜 1

赤や黄色に染まる公園の木の上で、コタローは、のんびり寝そべっていました。

木の近くには、砂場があって、数人の子供が、山を作ったり、バケツにひたすら砂を入れてはこぼしたりして、遊んでいます。

そんな中、一人の男の子が、自慢げに友達に話をしていました。
「ボクの家は古くて小さいけど、屋根裏は広いんだよ。それに隣に二階建ての古い蔵があって、いろんなものがあって、探検すると面白いんだよ」
すると隣の子が、
「えー、ツトムくんちは、雨漏りするじゃん」と言いました。
「大丈夫だよ。この前パパが屋根登って直したから」

そんな話を聞いていたコタローは、木から飛び降りると、その子が一人になった時を見計らって、声をかけました。

「キミのおうち、面白そうだね。見せて!」
「だれ?」
男の子は、コタローを見て怪訝そうに尋ねました。
なぜなら、コタローは、周りの子供とは全く違っていたからです。

もう朝晩は寒いくらいの季節なのに、甚平に似た服を着て、伸び放題になった髪を、頭の後ろの高い位置で一つに結び、草履を履いている。
身体は自分よりもひと回り小さい。

「僕はコタロー。
隣の街から最近この街に来たばっかりだよ」
男の子は答えました。
「ボクは、ツトムだよ。おうち見たいの?
いいよ、一緒に行こう」
ツトムは、コタローを連れて家に帰りました。
ツトムの家は、かなり古い家で、あちこちがかなりボロボロでした。

「ママー、お友達連れてきたよ」
家の奥から、疲れた顔で出てきたママは、不思議そうに、ツトムの周りを見回した。
「どこに?」
「ここにいるじゃん」
ツトムがコタローを指差すと、ママは怯えたような顔をして、
「ツトム、何を言ってるの?変なこと言わないでちょうだい。
もし、本当にママに見えない子がいるなら、その子は連れてきちゃいけない子よ。
帰ってもらって‼️」
ツトムは、びっくりして、コタローを見ました。
コタローは確かにそこにいて、ニコニコして立っています。
ママを見ると、ママは怒っているのか、困っているのかわからないような顔をして、ツトムを見ていました。
ツトムは、どうしたらいいのかわからなくなって、いきなり泣き出してしまいました。
泣き出したツトムを見て、コタローはしょんぼりと家を出て行きました。

コタローが帰ろうとすると、隣にツトムの小さな古い家に似つかわしくない立派な蔵があることに気付きました。
見ると窓が空いています。
コタローは、開いていた窓から、そっと蔵に入ってみました。
蔵には古い農機具や、古い和ダンス。
大きな壺や、なにが入っているかわからない木の箱もたくさんありました。

なんだか楽しい所だな。居心地もいい。
コタローは、ここに住んでみたくなりました。

こうしてコタローは、勝手にツトムの家の蔵に住み始めました。

翌日コタローが、蔵の外で日向ぼっこしていると、ツトムが通りかかりました。
ツトムは、ちらっとコタローを見た気がしたけれど、何も見えなかったかのように通りすぎて行きました。
ツトムもボクが見えなくなってしまったのかな?
それならそれでいいや。

ツトムには、みよちゃんという、まだ小さい妹がいました。
その子は、コタローを見かけると、いつも嬉しそうに笑いました。
コタローは嬉しくて、誰にも見えない事をいいことに、たびたびツトム家に勝手に入ってきて、みよちゃんと一緒に遊びました。

ママは、パパが帰ってくると、みよちゃんが、最近よく笑うようになったのよ、と嬉しそうに話をしました。

しかしそのうち、みよちゃんが何かに対して、あーうーと話しかけたり、何もない方を指差したり、誰かと遊んでいるように笑って楽しそうにしているのが不思議にも思っていました。

しかし、ご機嫌でいてくれるし、小さい子のよくある一人遊びだと思って、気にしないことにしました。

コタローは、ツトムの家の床の間に置いてある飾り物の兜がとてもお気に入りでした。

これはツトムの初節句に、亡くなったおじいさんが買ってくれたもので、小さい子供が実際にかぶることができるようなものでした。

かっこいいなあ
被ってみたいなあ

コタローは、何度もその兜を被ろうとしたけれど、重くてカタカタと音を立てるだけで、被るどころか持ち上げることもできませんでした。

兜の横には、昔お婆さんが作ったという美しい手まりがありました。
なんて綺麗なんだろう…
コタローは、誰もいない時間や皆が寝てからやってきては、手まりをついたり転がしたりして一人で遊びました。

ある時ママが、何で手まりがこんなところに転がっているのかしら…
と言っていたこともあったけれど。


つづく

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