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『ガールズラジオデイズ』が虚構の輪郭を溶かす

現実と虚構の境界が曖昧になる体験、日々ありますね。

川面に照り返す陽の光の精緻さを見て「うわグラ良いな」って思ったり、初めて訪れた街で前世の記憶のごとき土地勘を発揮したり、コミコンとかの面会イベントで俳優の現実存在に打ちのめされたり……生きていればいろいろあります。今後も積極的に認識を溶かしていきたい。本稿ではその強力な一助となるコンテンツ『ガールズラジオデイズ』の特異な実在感の話をします。

『ガールズラジオデイズ』とは:実在する5つのサービスエリアを舞台にラジオ番組が制作されたら、という設定でネット配信されるラジオ風ボイスドラマ(を主軸として展開される一連のコンテンツ)。YouTubeニコニコ動画で放送、加えて専用アプリでも過去アーカイブを視聴できる。公式略称は『ガルラジ』。


個人的に一番難易度が低いと思われる「チーム富士川」の放送。とはいえ30分超とまあまあ長いので、本当に再生する気なら公式サイトからフィーリングでチームを選んだ方がいいと思う。


現実認識は揺さぶられて溶ける

ここから筆者の認識を溶かしたポイント、上下への揺さぶりを記していく。入り組んだ構造を解き明かすことで見えてくるものがあるはずだ。

「↑」が現実への接近要素、「↓」が虚構に踏み止まる要素だ。今は分からなくていい。すぐに理解できる。

↑ 実在のサービスエリアから配信
『ガルラジ』は5つのサービスエリア――愛知県岡崎、静岡県富士川、山梨県双葉、石川県徳光、三重県御在所――から制作配信されている、という設定で制作配信されている。その全てが実在すること、そしてサービスエリアの持つ日常からの隔絶性が「見えないところでは実際そういうことがあってもおかしくない」という感覚を作り、設定を受け入れやすくする。

↓ MCは二次元のキャラクター
とはいえ、ラジオMCとして提示されているキャラクターの外見は先述の通りだ。明確に””そのもので、昨今流行の動画コンテンツのようにCGキャラが動いたりもしない。ここに実在性を見出すほど筆者は未来を生きてはいない。

↑ ラジオ
が、俺は考えを改めた。『ガルラジ』ラジオ配信を主軸としたコンテンツだ。お前はMCの顔写真をじーっと見つめながらラジオを聞くのか? まあそういう奴もいるだろうが俺は違う。ネットラジオは動画付きのものも多いが、それでも画面の鑑賞を主目的に視聴することはそうないはずだ。トークさえ聞こえればラジオは成立する。しかも往々にして生放送とは限らないのがラジオというもので、つまりラジオを聞いている最中においては、MCがリスナーと同次元・同時間に存在するかどうかは重要ではないと言える。

↓ ラジオ風ボイスドラマ
しかし『ガルラジ』はあくまでもラジオ風ボイスドラマであり、ラジオそのものではない。その相違は具体的に、『ガルラジ』においてMCの発する言葉は台本上の台詞に過ぎず、完全なフリートークは行われないという点に現れる。キャラクターの声を演じているのはプロなので「本物のラジオっぽい」雰囲気はあるが、偶然めいた会話の流れすら台本に従っているだけだと考えてしまうと、ラジオとして楽しむのは難しくなる。やはり虚構……。

↑ アドリブ……なのか?
諦めるのはまだ早い。『ガルラジ』が一般のボイスドラマと異なる大きなポイントとして、否応なく挟まるアドリブのような何かを挙げなくてはならない。
なぜそんな曖昧なものが生まれるのか? それは台本上存在しない相槌が入る台詞を噛んだり読み違えてもそのまま収録が続くという、ボイスドラマやアニメ作品では考えづらい、ラジオならではの演出があるからだ。とにかくちょっとやそっとのことでは撮り直さないので、演じる声優は流れが止まるたびに周囲と自身のリカバリーを行う必要に迫られる。この一瞬に出るアドリブ、キャラクターとしての言葉なのか、素が出ているのかという曖昧さが再び虚構の輪郭を溶かそうとする。しかもどうやら台本上の演技として噛むくだりがあるようにも聞こえるので、いよいよ何がアドリブなのかという線引きが難しい。
補足だが台本は各番組MCが作成していると番組内ではたびたび強調される。いや設定的に必要なのはわかるけど……それはどこまでということに……?

↑↓? 物語
再三述べた通り『ガルラジ』というコンテンツの主軸はラジオ配信だ。よって彼女たち自身の生活や物語に関しては、番組上で交わされる会話から流れて来る断片的な情報で知ることになる。この歯抜け具合は現実の人間関係と通じるものがある。リアリティだ。
なお専用アプリではTwitterめいたキャラクターたちの雑談を閲覧することができ、他媒体では小説とコミック、そして番組を紹介する地上波ラジオが展開されている。入りやすいところから入ろう。
ところで書き忘れていたが、『ガルラジ』を構成する5つの番組は人気次第の展開拡大と打ち切りの両方が予告されている。この手のヤラセでもガチでも誰も幸せにならない商法はこの世からなくなれと個人的に思っているが、ともかく各キャラクターはそのための人気獲得を目標に切磋琢磨している。
そう、キャラクターはこの設定を理解している。ここが境界線を溶かす肝だ。つまりキャラクターが認識している設定と、リスナーが認識している設定に重なっている部分とズレている部分があるという点だ。整理しよう。

キャラクター側の認識
舞台:5つのサービスエリアは実在し、そこでラジオ番組が制作されている
キャラクター:自分たちは当然存在し、ラジオの外にも生活がある
ラジオ:日本全国に向けてネット配信されている
台本:自分たちが書いている
アドリブ:時々挟む
物語:人気を獲得しなければ番組は打ち切りになる

どれが虚構でどれが現実か。並べてみれば一目瞭然だが、このズレと一致のコンビネーションこそが俺の脳を未だに揺さぶっている。なにしろ全ての要素は彼女たちがこの世界に実在しさえすれば真になりうるのだ。

↑↓?? 介入要素
ところで『ガルラジ』はラジオなのでお便りを送れる。当然、その内容はキャラクターの目に触れ、番組に反映、場合によっては紹介されることになる。本当にそうなのか? 送られてもいないメールをさも実在するかのように紹介するというのは一般的なラジオでも起こりうる、かつリスナーには真偽を知りようがない簡単安全な手法だ。番組への反映がそのまま物語の行く末を左右することになる『ガルラジ』において、むしろここに操作を一切加えないというのはかなり危険に思える。だからといって大規模な不正は勘弁してほしいし、許される時世でもない。どうするべきか……と悩むほど良心的なリスナーなら、おそらくお便りによる介入を選択する。手段があるだけマシと思うかもしれない。その感情は一般ラジオを愛するリスナーと何も変わらない。

↑↓??? アフターパート
『ガルラジ』はとにかく一筋縄では終わらない。30分超ある番組のうち、実際に(もはや実際ってなに?)キャラクターが喋るパートは20分強程度。残り時間では、キャラクターを演じる声優陣によるトークパートがシームレスで始まる。何も操作しなくても聞くのをやめない限り聞くことになる。こちらもおおまかな台本はあるようだが、素の人物(ラジオにおける素とは?)が出ているので普通にラジオかオーディオコメンタリーという雰囲気だ。
「夢は破られた」……が悪いことばかりでもない。本音や裏話というものは(実態はどうあれ(実態?))MCとリスナーのラジオ的共犯関係(内緒話感)を形成する装置として機能するからだ。いっそテレビアニメシリーズの最終回とかで番組終了後に流れる「長らくのご視聴ありがとうごさいました。また会おうね!」的なメッセージ、強制的な終わりまで想起され、筆者はかえって物語世界への感傷を掻き立てられた。
そして――まだだ。『ガルラジ』には専用アプリでのみ閲覧できる各番組終了後のアフターレポートとアフタートークが存在する。前者はキャラクターによる番組内容の振り返り文章、後者はキャストトークの続きであり、さらにそのアフターレポートも別に存在する。虚構と現実、対極の要素を並列に扱ってくるあたり、境界線を溶かすことによるキャラクター実在感の形成はやはり意図的なものに違いない……。


以上です

俺はこのように揺さぶられ、『ガルラジ』というコンテンツの大まかな構造……だと勝手に捉えたものを書くまでに至った。的外れかもしれないし、お前がコンテンツに触れた時には全く別の感想を抱くかもしれない。それでいい。

『ガルラジ』というコンテンツは今現在進行中のものだ。そして過去の放送から辿らなくとも最新回を楽しめるのがラジオというコンテンツだ。とりあえず聞いてみてほしい。以上だ。

『ガルラジ』を介してパラレルワールドの情報が流入しているのではないか? 俺は最近本気でそう考え、そう願ってすらいる。なにしろほぼ同じ運営が展開している幻想交流というコンテンツは……いや、この話は別の機会にしよう。ともかく俺の頭の中で彼女たちの実在感が大きくなりすぎていることは十分に伝わったはずだ。お前もそうなるかもしれない。『ガルラジ』を聴きさえすれば、お前も……

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小説を書きます。映画が好きです。

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