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美しい接続/おまえは『レヴュースタァライト』でキラめきを再生産する

お前には夢がある。目を落とすな。「でも……」でもではない。それは常にある。お前がどこでどう生まれようと、どう育って今どうしていようと全く関係ない。お前の瞳の奥、赤い血の通う体の中心には夢という光が必ずある。人によって違うとすれば、その光が強いか弱いか、いまキラめいているかどうか。つまり……『劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト 再生産総集編 ロンド・ロンド・ロンド』によって、キラめきを取り戻す前か後かだけだ。

あらすじ
『舞台少女』――それは未来の舞台女優を目指す、キラめきに溢れた少女たち。聖翔音楽学園99期生・九人の舞台少女は、同じ舞台を作る仲間として、同じスタァを目指すライバルとして、二つのオーディションに挑む。年度公演「スタァライト」の主役を巡る学園での競争、そして「トップスタァ」への道に繋がる決闘、地下秘密公演「レヴュー」での戦いに……。

劇場で歌を聴け

『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』は、舞台劇それもミュージカルを原作とする特異なアニメだ。何はともかく歌がめちゃくちゃに良く、劇場での鑑賞体験にはとてつもない価値がある。これはもう聴いてもらうしかないので、貼る。この時点で刺されたお前は以下の文章を読む必要が無い。今すぐ劇場に行け。

総集編の文字から生起する侮りは消し去って良い

確かに『劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト 再生産総集編 ロンド・ロンド・ロンド』(以下『ロンド・ロンド・ロンド』)は2018年に放送されたTVアニメシリーズ『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』の劇場公開用再編集作品であり、最初から一本の映画として制作された物語ではない。そして確かに、往々にしてこの手の作品は、シーンの取捨選択により筋道が分かりにくくなったり、良さが失われて味気なくなったり、時に全く破綻して「ファンのための名場面集」と化す危険すらある。あらゆる料理がそうであるように、素材があるからと言って簡単に作れるものではない。
『ロンド・ロンド・ロンド』でいえば本来約21分×12話=252分で描いた物語を半分以下の119分に縮めるのだから、懸念を抱く事自体は正当な反応だ。俺はお前の感情を完全に理解しており、そのうえでTVシリーズ未見でも問題ないと言っている。
必然的にハイスピードとなった展開は場面の再配置により破綻を回避し、時系列の(映画としての)最適化を実現した。追加された新規カットや新演出は外連味が強く、作品をエンターテインメントとしてよりグレードアップさせた。
『ロンド・ロンド・ロンド』は一本の映画として成立している。前情報無しでも楽しめる作品だと言い切れる。なぜなら俺自身、何も知らずに『ロンド・ロンド・ロンド』を観賞し、居ても立ってもいられずTVシリーズを一気に見て、この記事を書くに至ったからだ。

夢に突き進む物語が胸を打つ

九人の舞台少女には夢がある。トップスタァの座だ。九つの夢は重なり、合流し、衝突し――キラめく。ある者は友と定めた運命のため、ある者は自ら課した宿命のため、約束を果たすため、憧れに追いつくため……自分自身のために、そして大切な人のために。祈りがあり、願いがある。その眩しさが物語を推進する。なにしろ九人がたった一つの頂きを目指す119分だ。限られた時間でそれぞれの動機と生活、そして戦いを描き、さらに「レヴュー」のシステムに迫ろうというのだから、進行はかなり早い。それでも成立している。だからこそ力強く、胸を打つ。

美しい接続に目を見張る

総集編の成立はもちろん作り手の工夫に依るものだ。しかしそもそも作品が持っていた適正も大きいと俺は感じた。『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』という作品は、美しい。それは良い話だとか見ていて心地良いとかではなく、伏線や仕掛けの鮮やかさとも少し違う。接続するモチーフの美しさ、正円の如き調和の美しさだ。
ネタバレを避けて言及する事は難しいが……たとえば戯曲「スタァライト」の物語と本編の展開。たとえば、約束の地として度々登場する「東京タワー」、舞台「スタァライト」の大道具「星摘みの塔」、「レヴュー」に鎮座する塔。形を変えて幾度となく現れる「星」。いくつもの美しい接続が九つの物語に筋を通し、一篇の作品としての完成度を高めている。

地下劇場 超舞台装置 異種剣戟

この力強く美しい物語を彩るのが、ハチャメチャに楽しい設定だ。決闘の舞台は選ばれた生徒だけが入り口を見つけられる謎の地下劇場。そこでは舞台少女の感情に応えて舞台装置がダイナミックに駆動し、サーベル・長剣・レイピア・薙刀・洋弓・日本刀大小・メイス・ワイヤー付き短剣・ハルバードによる気合いの入った殺陣が繰り広げられる。
地下空間での異種格闘技といえば有史以来人類が愛して止まないものだが、これが武器を使うとなると、東西多様なアクション映画でもなかなか珍しくなる。対決する双方の特徴と見せ場を表現するには、尋常ならざる技術と工夫が必要になるからだ。レゴラスとギムリの対決は過不足なく想像する事も難しい。全人類が切望する異種剣戟、しかもそれを様々な組み合わせで観られるという点においても、この機会を逃す手はない。

続きがある

すでに告知されているのでここでも書くが、本作の続編として新作映画の公開が予定されている。舞台少女の物語は続く。その歌声をまた聞く事ができる。だからこそ、本作を知るには今が完璧なタイミングだ。

これまで書いてきた通り『ロンド・ロンド・ロンド』は一つの物語として成立している。円は完結している。しかし、それでいて、続きがある事に納得のいく理屈も描かれている。とてもじゃないが伝えきれない見事な筋立てだ。結ばれた円、そしてその筆の続き……何もかもが美しく、今も目の前でキラめいている。
続編の予告が流れ、明るくなっていく劇場で俺は深く頷いた。お前もそうしろ。良い映画を観るために。キラめきを再生産するために。

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