ドラッグ・パンク/変若水(おちみず)

丸一日分、三錠の食事を毎朝水で流し込むたびに、食費と医療費が一緒になると喜んでいたいつかの母を思い出す。実際、オチミズの普及で家計に余裕ができたのか、幼い私には分からなかったが。

母は28歳で世を去った。当時の平均寿命よりずいぶん早いそれは、オチミズの初期ロットに含まれていた発癌性物質が原因だった。大きな社会問題になったと記憶しているが、現代にその後遺症はない。社会学上、人間の適正寿命がほぼ40年とされて久しい。母の死は些細な不運でしかなかった。

家を出て職場に向かう途中で同期の同僚に会った。彼は秘密裏に出回っているという覚醒剤――目が覚め頭が冴える薬について熱っぽく語った。仰々しい名称には聞き覚えがあったが、どこで……いや、思い出した。この同僚は毎日、全く同じ話を新しい噂話として聞かせてくるのだった。

三十路前にしてボケるとは。もし私の頭が鈍っていたとしても、彼よりはマシだろう。 【続く】

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