武蔵坊弁慶 vs. 廃刀令

 あんた、仏像って見たことあるかい?
 愚問だって顔だね。けど違う。私が言っているのは、違う。あんたがいま思い出してるような、御堂の奥の奥に鎮座して信仰を集める生きた仏像じゃない。美術館で見るやつ、それも十二神将みたいな武神の像のことだ。
 笑える話さ。守護する信徒からも如来からも引き離されて、ただガラスの向こうに横並びにされて、列をなした愛好家どもにジロジロ眺められるだけの存在、武神なんてもう名ばかり。しかも何百年と経って飾られてるから、色も落ちて、持物なんかも欠けててね。想像できるかい? 剣とか鑓を持った姿勢で彫られた武神が、持物を取り上げられたらどう見えるか。
 これがまるで踊ってるみたいなポーズになるんだ。サタデーナイトフィーバーのトラボルタみたいな、決まりすぎて笑える感じ。……さすがにこの例えはないか。800年後の映画だ。忘れてくれ。
 別に展示が悪いって話じゃない。武器がないのだって社会が平和な証拠だ。ブッディストが今みたいに過激だったら美術館なんて、炎上どころか襲撃されてる。まさしくあんたみたいな悪僧に。
 いや、そういうタイプじゃなかったか。あんたあちこちで破門されたあげく、一人で勝手に頭剃ったらしいじゃないか。Wikipediaで見たよ。

「黙って聞いとったら、訳の分からんことをごちゃごちゃと」
 白い頭巾と甲冑で身を固めた僧兵は、眼前の女に薙刀を突き付けた。人通り絶えた橋の上、その刃と双眼が月明かりに白く光った。
「興醒めゆえ見逃したるかと思うたが……。その腰の銅剣、何や由緒ありそうやないか。俺が誰か知っちゅうなら、置いてけや」
「強欲だな、武蔵坊。天叢雲だぜ」
 その名に弁慶が目を細めた隙に、女はひらりと飛び、後ずさった。
「刀を捨てるのはあんたさ。明日、御所から廃刀令が出る。刀狩りから始めて、大和は平家が主導する"国"に生まれ変わる。心配するな。近代国家がどういうものかは研究してきた」 【続く】

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