アール・ブリュットについて考えるために④:宮本忠雄「精神分裂症の世界」

 分裂病が統合失調症へと呼称変更されたのは、ひとえにそれが「治る」病であることとして時代的/社会的に画定されたからではないだろうか。「バラバラになっている・引き裂かれている」というような含意はそのどちらの呼び方にも認められるものの、「統合」という状態が単にむずかしくなっているだけだ、という意味合いをもたせる病名に変化したことは、つまりは「統合されている」=「治癒している」という状態が少なからず可能なことであり、そのような状態を目指すことができるものであるという希望を、病名そのものからして潜在的に持ちうるようになったということを指し示すものだろう。福祉的にいえば、「地域で暮らす」というキーワードが浮上していることと、統合失調症の治癒という状態は強くリンクしているだろう、ということである。そういう意味で、1966年に書かれたこの著作においては、決定的な「治癒」という状態は示されることがなく、現代都市に特有の、疎外論的な観点へのリンクを多く持つこととなる。
 とはいうものの、この本に古さは全くなく、病はこのように時代とともに変わるということを想起させてくれることも含めて、分裂病/統合失調症の基礎知識を得るにはもってこいだろう。LSDへの目配せ、芸術と分裂病の関連性についての記述も相当冴えわたっている。特に、真に「分裂病」であった芸術家はムンクぐらいのもので(というか、「真に」というにはムンクもちょっと怪しいぐらい)、セザンヌもピカソもダリも、単に「分裂気質」(か、そのパフォーマンス)にすぎないことを指摘する箇所などは、モダン・アートの本質的な部分を見事に言い当てているようで鳥肌ものだった。

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