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福島県の甲状腺検査に関するアンケート:実施するのは本当に「県民のため」ですか?

福島県の県民健康調査検討委員会において、現在福島県で子どもや若者を対象に実施されている甲状腺検査に関するアンケートを実施することが決定されました。その目的は、「甲状腺検査についての県民の意識を調査して、今後の検査のありかたや、県民に対する説明の仕方を考える上での参考にする」、とのことです。
 
検討委員会で示されたアンケートの案を提示します。

第47回「県民健康調査」検討委員会 資料2-2 甲状腺検査に関するアンケート調査票(案)

第47回「県民健康調査」検討委員会 資料2-2

 我々はこのアンケートについて2つの懸念を持っていますので皆様にお伝えしたいと思います。

1.福島県が県民に甲状腺検査について誤った情報を伝えてきた、という問題を放置して、アンケートを取ることに意味があるのでしょうか?

福島県が現在県民に対して配布している説明文書には、科学的に誤った記載がいくつもあります。これについては、何人もの専門家が訂正を求めてきましたが、県は一向に訂正しようとしませんでした。この事情については過去のNote「福島県の甲状腺検査について県の住民に対する『説明』の問題点」(https://note.com/mkoujyo2/n/n740dfe34d227 )にもまとめていますが、 簡単には次の内容です。

1) 県が主張している“メリット”はすべて誤りか、科学的根拠がないものです。

すなわち、甲状腺検査には証明しうるメリットはない、というのが正しいです。具体的には、早期診断がなんらかのメリットがある、とするエビデンスはありませんし、甲状腺検査自体が疫学調査として破綻していることが指摘されており、放射線の影響の有無に関する情報が得られる方法が確立しているわけではありませんので、疫学調査としても放射線の影響の有無はわかりません。

2) デメリットについて対策がとられているかのような記載がありますが、それでデメリットが解消できるかどうかについては、エビデンスがありません。

わかりやすく言うと、「検査による害はきちんと対策しているから起こらないよ。証拠は一切ないけど。」と書いているわけです。
 
アンケートでは、「メリットを知っていますか」「デメリットの対策が取られていることを知っていますか」「検査を受けると放射線の影響がわかる」との記載があります。このようなアンケートを配ってしまえば、住民は「甲状腺検査にはメリットがあり、デメリットの対策がなされており、検査を受ければ放射線の影響がわかる」、と誤解してしまうでしょう。アンケートで住民の理解度を調査する、ということですが、県が流布している甲状腺検査についての誤った認識を住民が“十分理解(誤解?)している”というような結果が出てしまえば、それは逆に非常に恐ろしいことではないでしょうか。

2.アンケートの結果、「今後も検査を受けたい」が多数であれば、検査による被害者に不利になる

 
私たちは、検査を主導してきた環境省、福島県、福島県立医大が、必ずしも“住民の利益”を第一にして行動していないのではないか、との疑念を持っています。福島の甲状腺検査が過剰診断の深刻な被害をもたらしていることは、すでに国際的には専門家のコンセンサスと言っていいかと思います。いくつかの国際機関が、福島の甲状腺検査のありかたを批判するような勧告を出している現状において、それでも検査を継続しようとしている、これらの検査主体はかなり追い込まれた状況になっているといっても良いでしょう。

また、過剰診断というのは非常にわかりにくい現象ですが、いずれ福島県民も何が自分たちに起こったのかに気づくでしょう。その場合、検査の被害者が検査主体を相手取って集団訴訟を起こす可能性もあるのではないでしょうか。それを見越してなのか、最近、福島県立医大等が、「検査が開始され、継続されたのは県民が希望したら仕方なかったのだ」「検査は任意です」という主張をしきりに繰り返しています。

アンケートで「今後も検査を受けますか」という問いがあります。
もしこの問いに多くの住民が「はい」と答えたらどうなるでしょうか(検査の害が正しく伝えられていない以上、おそらく多くの住民が「はい」と答えると予想します)。その場合、多くが検査を受けると言っていることを利用して検査をさらに継続することを正当化しようとしたり、裁判が起こった場合の責任回避に利用されたりしないでしょうか。すなわち、このアンケートは検査の害の責任を住民に押し付けるための策、とも見えてしまうのです。
 
これらの問題点が、県民健康調査検討委員会で議論されないことは非常に残念です。このアンケートのデータが県民にとって悪い形で利用されないことを祈るのみです。