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TOKYOアートレジャー

~「アートウィーク東京」でギャラリー巡りを満喫~

毎年恒例となったイベント「アートウィーク東京」で、秋のアートレジャーを満喫した。
普段は行きにくい場所のギャラリーにも無料バスで回れて、新たな発見も多いギャラリー巡りとなった。

アートファン垂涎のイベント

2023年11月に開催された「アートウィーク東京 2023」に参加した。
専用の無料バスに乗って、東京都内の 51の美術館とギャラリーを見て回れるという内容で、毎年恒例となったアートファンのイベントだ。

開催期間は2023年11月2日(木)から5日(日)までの4日間。
5つのコースを15分間隔でバスが周遊し、美術館やギャラリーそばの停留所で自由に乗り降りできる。
駅からちょっと離れたギャラリーに行けたり、敷居の高いギャラリーにも気軽に入れたりと、普段とは違ったギャラリー巡りを体験できた。

作品だけでなくギャラリーの個性も体感できて、収穫の多い秋の週末となった。
特に印象に残ったギャラリーを紹介したい。

15分間隔でバスが巡回

広い空間に和の雰囲気も演出「カイカイキキギャラリー」

村上隆で有名な「カイカイキキギャラリー」は、港区元麻布という大使館が集積する閑静な一角にあった。
外の階段からビルの地下へ降りていくと、ギャラリーの白い空間が広がった。
開催されていたのは、ナカザワショーコの個展「Harmony」だ。

私はサブカル風の作品は苦手なのだが、壁一面の大作に圧倒され、固定概念が吹き飛んだ。
これほど大きな作品にもかかわらず構成がしっかりしていてブレがない。

ナカザワショーコの大作

丁寧な描写と構成力

しかも近くで見ると、丁寧なタッチで描かれていて厚みがある。
最初に真ん中の少女の顔に目を引かれ、次第に周囲に描かれたキャラクターへと引き込まれ、そしてスポットライトのような光線や東京タワーなどの景色へと次々に視点が移動して飽きさせない。

グラフィックデザイナーの経験を持つ作家ならではの、構成力のある作品だと感じた。

ギャラリーの奥には畳敷きの広いスペースがあり、茶室のように釜が切ってあるように見えた。この空間は、日本人は落ち着き、外国人は日本文化を感じるといった純和風の演出となっている。

和室のような空間に展示

その場所にあるからこその個性的なギャラリー「無人島プロダクション」

「無人島プロダクション」は墨田区という下町にあり、木造の段ボール工場をリノベーションしたという特長のあるギャラリーだ。

ほどんどのギャラリーが「ホワイトキューブ」と呼ばれる無機質な白壁の空間に作品を展示しているが、それとは対照的な木造の空間に展示している。

木造の段ボール工場を活用したギャラリー「無人島プロダクション」

ギャラリーで旅愁と郷愁を実感

ここで開かれていたのは、ベテランの女性作家、風間サチコの「ニュー松島」と題した個展だ。
木版画のように削って作られた作品は、木製の梁と床との間に展示されていて、一体となっているようにも感じた。

天井からの照明で、作品の白い部分と、灰色のコンクリート壁が浮かび上がったモノクロの空間も印象的だった。
個展のタイトルにある観光地「松島」への旅愁と、木造の旧段ボール工場への郷愁を感じさせる、このギャラリーならではの展示内容であった。

作品により旅愁を、空間により郷愁を感じる

住宅街の中にひっそりと佇む「MISA SHIN GALLERY(ミサ シン ギャラリー)」

私の好きな作家、彦坂尚嘉の個展「PWP: Practice by Wood Painting」が開かれていると知って、「ミサシンギャラリー」を訪ねた。

大通りにあって気軽に立ち寄るといったギャラリーではなく、坂の多い住宅街の細い路地にあるため、目的を持って訪ねるキャラリーである。

彦坂尚嘉の立体作品

なかなか出会えない作品に遭遇

キャラリーのドアを開けて驚いた。
と言うのも、展示されていたのは絵画などの平面作品ではなく、木製の立体作品に彩色を施した「Wood Painting」という作品群であったからだ。

彦坂氏のこうした作品をまとまって目にすることは珍しく、作家と長いお付き合いのあるギャラリーなのだろうと思った。

大きくてシンプルな形の木片を組み合わせた作品は、木彫のように細かく作り込むのではなく、彩色も最小限に抑えられていて、素材の持つ個性をそのまま生かした「もの派」のようでもある。木の温かみを感じると同時に、重厚感や存在感を放つ作品だった。

おそらくアートウィーク東京のバスがなければ、私はこのギャラリーには来られなかったであろう。とても充実したひとときを過ごすことができた。


木片を組み合わせた作品が並ぶ

様々なものが重なり合うギャラリー「タグチファインアート」

地下のギャラリーへと続く入口のドアを開け、無機質な白壁の階段を緊張感しながら降りていくと、お香の穏やかなかおりが出迎えてくれて、気持ちが和んだ。

そして展示室に入った瞬間、やさしく鮮やかなピンク色を放つ作品が目に飛び込んだ。
しかし作品に近付いてみると、ピンク色だけではなく様々な色が複雑に重なってできあがった作品であることに気が付いた。
キム・テクサンの個展「淡」の作品だ。

地下の展示室に降りて行くと、鮮やかな作品が迎えてくれる

時の経過も重なり合う

この作品の制作方法は、まず長方形のプールにカンバスを浸し、アクリル絵の具を溶かした水を注ぐ。すると水は蒸発し絵の具が痕跡を残す。
絵の具の色を変えながらその工程を繰り返すことで、様々な色がカンバスに重層的に定着し作品ができあがっていく。
重なっているのは色だけではなく、時間の経過も織り込んでいて、見る者の思索も深まっていく。

地下室の展示室には天井に剥き出しになった水道管かあり、そこから水の流れる音がわずかに聞こえてきた。
意図しない水の演出は作品の制作過程とも重なり、鑑賞する側も、視覚、聴覚、そしてお香によって嗅覚までも刺激される重層的なものとなった。

色と時間が重なり合う作品

作品鑑賞に加え、ギャラリー鑑賞も!

「アートウィーク東京」開催中は、いずれの美術館やギャラリーとも一段と力の入った企画展を開催しているため、普段にも増して充実した展示内容を楽しむことができた。

加えて、今回は作品に留まらず、ギャラリーの個性も楽しめる絶好の機会となった。
それぞれのギャラリーの立地や建物などの環境を知ることができ、そこでは作家や作品と出会い、オーナーや来場者とふれあうなど、広がりと深みのあるギャラリー巡りを楽しめた。

どのようなギャラリーが、どのような作家や作品を扱っているのかを肌で感じることで、より深いアート鑑賞となった。
これを機会に、まだ行ったことのないキャラリーも探索してみたい。


最後までお読みいただきまして、本当にありがとうございました。 ほかの記事もよろしくお願いいたします。