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「アートと共に、生きなさい」

SNSを見ないようにしてから、もう2ヵ月が経つ。今でも全然、開こうという気にはならない。読みたい本は山ほどあるし、なぜだか今のわたしは、勝手に流れてくる娯楽よりも、自分で選んで、手に取ったものを、自分のペースでじっくり楽しむことができる読書の方が、よっぽど楽しいと感じるようなのだ。
一冊の本を読んでも、誰もが同じ景色を見ているとは限らない、その読者に託されている部分が大きい読書が、とても好きだ。
読んでいた小説に出てきた本が気になって、次はその本を手に取り…というように、読めば読むほど、どんどん違う本を発見していく。一生のうちに読む本がなくなった!なんてことはありえないという、無限に広がる選択肢には、やはり安心感がある。
見たこともない世界や時代を見せてくれる本は素晴らしい。身体的な移動が厳しい今の世の中だけど、本でたくさんの出会いと経験を得ることができるから、さほど旅が恋しいとも思わない。本の持つ力は、不思議だ。

小さい頃の記憶で、実はあまりはっきり覚えているものが少ないのだけれど、好きだった本は今でもしっかり覚えている。
観た映画は忘れてしまうけれど、読んだ本は覚えている。小学校低学年の頃は、図書館で「魔女のルルー」シリーズと、「わかったさん」シリーズに出会い、夢中で読んだ。あらゆる伝記も大好きで、特に『アンネの日記』『ヘレン・ケラー』『マザー・テレサ』なんかは何度読んだことか。
今でも小説を読む時は女性作家ばかりだし、伝記ものも女性ばかりだ。ハリーポッターのような、魔法の世界が大好きだし、とはいえファンタジーや推理小説などというよりは、日常にスポットライトを当てた小説を好む。
なんというか、小学生の頃とあまり選ぶ本が変わらないのだ。

本には何度も救われてきた。全身からパワーがみなぎるような、すごい言葉に出会ったときの衝撃に代わるものは、未だに見つけられていない。
心を鷲掴みにされる、とは、こういうことを言うのだと実感する瞬間は、本を読んだときにしかまだ経験していない。
考え方や生き方を徹底的に変えたと言える一冊だってあるし、何度も何度も読んでいる詩集だってある。日本語でも英語でも、ずっと大切にしたいと思う本がある。
わたしはそれらに出会えたことがとても嬉しいし、これからも一緒にその言葉たちと生きていきたいと思っている。

大学生の頃、お世話になったフランス人の教授が、最後の授業でわたしたちに言った、「アートと共に生きなさい」という言葉を、わたしはずっと大切にしている。
どれだけ異なる暮らしをしても、文学や絵画、演劇などの芸術を愛して生きていくというこの軸は、いくつになっても変わりたくないと思っている。

先日、一緒に暮らす彼が、「将来、一緒に絵本を描きたいね。」と言った。
わたしも漠然と、将来は自分の本を出したいと考えていたし、絵本を一緒に彼とつくることは完璧なアイディアに思えた。
イラストを描くことが得意な彼と、文章を書くことが好きなわたし。
二人の力を合わせれば、英語と日本語とインドネシア語で、誰の翻訳も介さずに、書くことができる。彼が提案した絵本で表現したいことの数々は、わたしが子どものうちに知りたかったこと、そして多くの人に伝えたいと思っていたことと、とても似ていた。だから、本当に素敵な絵本が何冊かできる気がした。
わたしは、こういう直感というものにしたがって生きてきた。
今回も、きっと楽しい方向に進む気がする。
今は、その時に向けて、一歩一歩着実に、力をつけていくのだ。

本からもらった喜びや希望を、いつかわたしが、誰かに届けることができたら。それほど嬉しいことは、ないのだと思う。

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