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あれは確かに恋だった
なんとも愛らしいハッシュタグである。これを使っているということは私もいわずもがなである。
くじらぐも、ちぃちゃんの影送り、スイミー、私とことりとすずと…
虎になった友人、指の癖が強い修道士、髪を引き抜く老婆
思いついたものだけでも大抵の中身を諳んじることができる程度には国語というものを好いていた。物語を読んだだけだと言うのに様々な人と出会ってきたように感ぜられるし登場人物達がとても身近な友人のように感ぜられる。
私は、そんな物語達に出会える国語というものがいっとう好きだった。勉強は苦手だったけれど国語は勉強しなくても点数が取れたしいつだって私の味方でいてくれた。
高校に入ってから目にした色々な大学の赤本の国語の問題は私の心を躍らせてくれたし、少しばかり立派な図書館に詰め込まれた小説や伝記は空想が好きな私をいつだって色んなところに連れていってくれた。
受験対策に重くずっしりとした黒本を開いて大好きな森鴎外の過去問があるページに顔を埋めてずっと息を吸い込んだ時の紙の香りがたまらなく好きだった。
これからもずっと紙をめくり幸せを胸に抱いて生きていくのだと疑っていなかった。
ところが、高校2年の秋、状況は一変した。
後に続く私の学費も考慮して国公立志望だった姉が突然私学に舵を切ったのだ
結果、姉は姉も好きだった古文を学べる学科に進んだ。二人分の学費の捻出が厳しい家庭事情も鑑みて私は興味も無かった国公立の経済学部に進むことになり
進学して数年、思い描いていたような学びが深められなかった事や姉との待遇の違いに徐々に精神の調子を壊した。
大好きだった本をめくる指が重く感じ、気づけばすっかり本を読めなくなっていた。文字を追おうとしてもを目が滑るばかりで中身が入ってこない、あれだけ頭に浮かんだ情景が浮かばない。
文字がうにょうにょと波打ってどこか違う所へ飛んでいってしまったかのようだった。捕まえようにも捕まえ方もわからずただ呆然と、意思の疎通の図れなくなった本と見つめ合うことしか出来なかった。
そこからは目まぐるしく転げ落ちるような日々を送り、本や紙の匂いに触れることなくすごすこととなりあの頃の自分と随分と距離が開いてしまった
あれから随分と時が経つが結果として今の私は文字が、自分の紡ぐ言葉達が愛おしくて大好きだ。
そしてその基礎を作ってくれた国語という学問も変わらず愛している、だからこそ少し、ほんの少しだか未練がましくも思ってしまうのだ。
私がもし一人っ子だったらと、姉があの時私学に行かなければと、私がもう少し努力していればと
私が唯一愛したこの言葉を、文学への探究心を殺して過去のものにしてしまう事はなかったのでは無いかと。
未だに、本を手に取ると少し涙が出る。
繰り返し解きすぎて答えを覚えてしまうほど大好きだった憧れの大学の赤本はもう開くことすらない。
たまらなく好きだった森鴎外の小説達はダンボールの奥底ですやすやと眠りについている。
国語への失恋の傷を忘れられない乙女のようだ
思い出せば胸がときめき、別れを自覚した時には胸が締め付けられるような思いだった。
きらきらとした楽しく幸せなあの思いはまさに恋心と言って遜色ないと思う。
今ここで恋心にとどめをさせたらと思うけれど、きっとボケてなんにも分からなくなった私が真っ先に手に取るのは大好きな森鴎外だと思うからとどめは刺さずに傷の癒えないまま老いて行こうと思う。
もしこれを読んだ若者がいたら自分の好きを妥協しないで欲しい。諦めたり妥協した先に待つのは胸を苛む長くて辛い後悔だけだ。
あなたの心に宿った国語への好きを大切にして、どうか諦めが着くまで真っ直ぐに向き合ってあげて欲しい。
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