第26回参議院選挙 結果分析②(東北)~小沢王国の政変~

こんにちは。シリーズ2回目は野党王国が軒を連ねる東北を分析します。
東北6県は16年と19年の参院選は野党4勝2敗で野党が勝ち越していましたが、今回は野党2勝4敗という結果になり自民が勝ち越しました。
その理由について、各県ごとに分析していきます

青森県選挙区

2022年参議院選挙 青森県選挙区開票結果

自民が衆議院の議席と奇数年の参議院の議席を持つ保守王国の青森ですが、開票結果は上記の図のようになり、現職の田名部氏が大差で制しました。
その強さの理由はどこにあるのでしょうか?


2019年および2022年参議院選挙 青森県比例区開票結果

2019年と2022年の比例票を比べると、全体の投票数が10%も増えており、維新、諸派、自民の得票が大幅に伸びている事が分かります。
また、れいわ+社民+共産+国民+立憲の左派系野党の合計を見ると、19年から22年にかけて10%あまりの減少が見られます。

2022年参院選 青森県選挙区と県内比例得票の比較

比例区と選挙区の比較を見ると、田名部氏は野党支持層のみならず与党支持層にも食い込んでいることが分かります。これが田名部氏大勝の第一の理由であり田名部氏の父である田名部匡省がかつて自民党に所属し農水大臣を務めた地元の有力政治家であることが理由です。
また、もう一つの大きな理由としては南部と津軽の対立が挙げられます。

2022年参院選青森県選挙区 田名部氏と齊藤氏の得票率の差

南部と津軽の地域対立はよく知られているとおりですが、政治の世界においても対立は存在します。
今回の選挙では与野党の対立のみならず南部(田名部)と津軽(齊藤)という対立の構図があり、田名部氏が地盤の八戸市周辺で大幅にリードした一方、齊藤氏は地盤の津軽で地盤を固めきれず、その結果として与党支持層を取り込んだ田名部氏の大勝という形で終わりました。

岩手県選挙区

2022年参議院選挙 岩手県選挙区開票結果

1993年の55年体制崩壊以降、小沢一郎氏の支援する候補が勝ち続けている小沢王国の岩手ですが、開票結果は上記の図のようになり、小沢王国の崩壊という衝撃的な結果になりました。
崩壊の理由はどこにあるのでしょうか?

2019年および2022年参議院選挙 岩手県比例区開票結果

小沢王国崩壊の第一の理由としては左派系野党の票が溶けていることが挙げられます。
上記の2019年と2022年の比例得票比較を見てみると、19年当時小沢氏が所属していた国民民主党は小沢氏が立憲に移籍したことで得票を4万票余り減らしていますが、立憲はそのうち1.5万票余りしか得られていません。
れいわ+社民+共産+国民+立憲の合計を見ると、19年から22年にかけて16%もの減少が見られます。

2022年参院選 岩手県選挙区と県内比例得票の比較

さらに、比例区と選挙区の比較を見ると、広瀬氏は自公支持層と無党派層の一部を固め、木戸口氏は左派系野党支持者の票を固めるも維新支持層は固めることができず、無党派と維新の票は諸派・無所属候補に流れているのが分かります。

2019年参院選 岩手県選挙区と県内比例得票の比較

2019年も同じような傾向で、自民の平野氏は自公の支持層を固め無党派層の一部にも食い込みましたが、分厚い左派系野党の支持層を固めた無所属の横澤氏が当選しました。
岩手県内の左派系野党の衰退傾向は今後も続くのか、来年の岩手県知事選挙が注目されます。

宮城県選挙区

2022年参議院選挙 宮城県選挙区開票結果

宮城県選挙区では前回(19年)前々回(16年)と野党が二連勝している選挙区ですが、今回の選挙では9年ぶりに自民が議席を奪還しました。
その理由はどこにあるのでしょう?

2019年および2022年参議院選挙 宮城県比例区開票結果

2019年と2022年の比例票を比べると、維新の得票が大幅に伸びている事が分かります。これは維新が選挙区に候補を擁立したことで比例票が掘り起こされたためと推測されます。
自民は維新に比例票を取られ大きく比例得票を減らしている一方、立憲+国民は微減にとどまっています。
なお、れいわ+社民+共産+国民+立憲の左派系野党の合計を見ると、19年から22年にかけて13%あまりの減少が見られます。

2022年参院選 宮城県選挙区と県内比例得票の比較

選挙区の得票を分析してみると、自民の桜井氏が自公の比例得票を大きく超える得票をしている一方、立憲の小畑氏は立憲+共産+社民+れいわの比例得票とほぼ同数しか得票できず、維新支持層を平井氏が固めているので、桜井氏は無党派層や国民支持層を手堅く固めたと分かります。

2019年参院選 宮城県選挙区と県内比例得票の比較

2019年の得票を見ると、前回は石垣氏が国民や維新の支持層を手堅く固めて僅差で勝利したことが分かります。

この差がなぜ生じたのかを考えてみると、第一に桜井氏が国民支持層や無党派層の票を固めることができたのは、桜井氏がかつて民進党に所属しており、その時の個人票を引き継ぐことに成功したからであると推測されます。
また、維新の平井氏の出馬により、2019年に石垣氏に投票した無党派層の多くが平井氏に流れたとも推測されます。

宮城県選挙区は桜井氏が民進党から自民党に移籍した特殊例ではありますが、参議院一人区で自民vs立憲vs維新の三つ巴の争いになったとき何が起こるかというモデルケースとなったように思えます。

秋田県選挙区


2022年参議院選挙 秋田県選挙区開票結果

秋田県選挙区は前回(19年)野党が議席を獲得しましたが、今回は自民の石井氏が議席を守りました。

2019年および2022年参議院選挙 秋田県比例区開票結果

2019年と2022年の比例票を比べると、維新の得票が大幅に伸びている事が分かります。
立憲と国民は無党派層の比例票を維新に取られ大きく比例得票を減らしている一方、自民は微減にとどまっています。これは維新から元民主党議員で秋田地盤の松浦氏が出馬した影響と思われます。
れいわ+社民+共産+国民+立憲の左派系野党の合計を見ると、19年から22年にかけて実に30%あまりの大幅な減少が見られます。

2022年参院選 秋田県選挙区と県内比例得票の比較

一方で選挙区の得票と比例票を比較してみると、無所属で国民推薦の村岡氏が国民支持層を大きく上回って得票していることがわかります。
これは、村岡氏の父がかつて官房長官を務めた自民党議員の村岡兼造氏であり、保守層に強い地盤を持っているからです。
今回の秋田県選挙区の構図は石井氏vs村岡氏の保守分裂の様相が強く、無所属で立憲推薦の佐々氏はそこに埋没してしまった印象です。


2019年参院選 秋田県選挙区と県内比例得票の比較

なお、前回の参院選ではイージスアショアの問題により中泉氏は自公支持層を固めることができず、無党派層や与党支持層まで固めた寺田氏が当選しました。
19年、22年と特殊事例のため中々今後の予想は難しい選挙区ですが、東北の中では自民の比例得票率が高い地域であり、今後の情勢は自民候補が与党支持層を固めることができるかにかかっていると思われます。

山形県選挙区

2022年参議院選挙 山形県選挙開票結果

山形県選挙区では前回(19年)前々回(16年)に続き野党が三連勝している選挙区です。衆議院の3議席は自民党が独占しているにもかかわらず参議院では野党が強い理由はどこにあるのでしょう?

2019年および2022年参議院選挙 山形県比例区開票結果

2019年と2022年の比例票を比べると、ここも維新の得票が大幅に伸びている事が分かります。
今回、立憲が候補を立てず国民の舟山氏が出馬したこともあり国民が比例票を大きく伸ばす一方で、立憲は大きく得票を減らしています。
他にも共産や社民が大幅に得票を減らしており、れいわ+社民+共産+国民+立憲の左派系野党の合計を見ると、19年から22年にかけて15%あまりの減少が見られます。
左派系野党が得票を減らした他、公明も得票を減らし、その分が維新に移動している印象を受けます。

2019年参院選 山形県選挙区と県内比例得票の比較
2022年参院選 山形県選挙区と県内比例得票の比較

選挙区の得票と比例票を比較してみると、国民の舟山氏が無党派層や自公支持層に大きく食い込み、自民の大内氏が伸び悩んでいることが見て取れます。
比例票を見ると左派系野党は得票を減らしているものの、野党側は安定して無党派層や自公支持層から得票しています。なぜこのような結果になるのでしょうか?

その理由は、山形県の政財界特有の事情によるものです。山形ではかつて実業家の服部敬雄氏がメディアを中心に強大な権力を握り、山形県の政財界に絶大な影響力を持っており、服部天皇という別名が付くほどでした。この服部氏の影響力を引き継いだのが吉村一族であり、現在の山形県知事である吉村美栄子知事はその関係者です。
吉村氏が知事に初当選した2009年の知事選では、自民党は現職知事の齊藤氏を、野党は吉村氏を支持していましたが、吉村一族の影響力により自民党でも当時の参議院議員だった岸宏一氏などが吉村氏への支持に回りました。
知事選や参院選といった全県選挙では、県の政財界に権力を持つ吉村一族の影響が今なお残っているものと考えられます。

福島県選挙区


2022年参議院選挙 福島県選挙開票結果

福島県は前回と今回、東北地方では唯一の自民党が2連勝の選挙区です。
以下、結果を分析していきます。

2019年および2022年参議院選挙 福島県比例区開票結果

2019年と2022年の比例票を比べると、ここも維新の得票が大幅に伸びている他、自民が10%も得票を伸ばしていることが分かります。
れいわ+社民+共産+国民+立憲の左派系野党の合計を見ると、19年から22年にかけて16%の減少が見られます。
また、山形と同じように公明党の得票も減少している事が分かります。

2022年参院選 福島県選挙区と県内比例得票の比較

選挙区の得票と比例票を比較してみると、自民の星氏が自公支持層をほぼ固め、無所属立憲・国民・社民推薦の小野寺氏は無党派層にも支持を伸ばしている事が分かります。

2019年参院選 福島県選挙区と県内比例得票の比較

ちなみに、前回は自民の森氏が無党派層にまで支持を伸ばし、無所属で立憲・国民推薦の水野氏を大差で破りました。
今回、星氏は無党派層には伸び悩んだものの、左派系野党の不振もあり自公支持層が分厚さを増し、これを固めきった星氏が当選を果たしました。

比例票分析


2019年参院選比例区の与党(自公)と左派系野党(立共社れ国)の得票差
2022年参院選比例区の与党(自公)と左派系野党(立共社れ国)の得票差

3年前の比例得票と比較すると、北海道と同じく、新興勢力の台頭により左派系野党は自公に比して得票率を下げているのが良く分かります。
次回の衆院選への展望ですが、小沢王国と呼ばれる岩手3区域は左派系野党の得票減少が顕著であり、岩手3区では小沢氏が連敗する可能性も濃厚と言えそうです。
また、仙台都市圏など、次回衆院選に維新や参政が小選挙区への候補者擁立を積極的に行った場合、無党派層の票が流れて立憲が競り負ける選挙区が続出すると思われます。

過去3回の参院選の共産党得票(東北地方比例区)

さらに、特筆すべきは共産党の得票が激減していることです。
東北地方の選挙区では前回、前々回と共産党の候補者は選挙区に候補者を立てていませんでしたが、今回は秋田と山形に候補者を立てており、特に比例票が減る要素はないはずですが、可能性として考えられるのが自然減です。
東北地方は高齢化と人口減少が深刻であり、高齢化が進む共産党員が高齢になり、死亡したり寝たきりになったりで投票できなくなっているのかもしれません。
次回の衆院選で共産党が比例東北ブロックの1議席を守り切れるのかも注目です。


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