若手研究者の窮状(序)と、金ダライ

先日、理数系の博士課程の先輩(男性)と、若手研究者の貧困について話していたときのことだ。
「学振(DC1)の条件は本当に酷い。地方出身で東京で一人暮らしをしている学生にとっては、特に酷すぎる。実家が金持ちじゃないと無理だよね。」
という話題だった。

学振(博士課程学生向けの給付型奨学金のようなもの、月20万支給。後述の通り本当に条件はヒドイのだが、これ以外ほぼ選択肢がないので皆必死こいて応募書類を書く。「10回以上推敲すれば採択率アップ!」とか「絶対に通る、学振の書き方」みたいな、"就活ビジネス"ならぬ"学振ビジネス"が横行する始末である。)
をはじめとする博士課程学生の不遇と改善策の提案については別マガジンで扱おうと思っているが、簡単に触れると:

① 社会保険未加入(雇用はしていないからという理由らしい)
② 雇用されていないから社会保険にも入れてもらえないが、所得税はなぜか課税対象(天引き前で240万円から10万円納税)
③ 学費26万(国立でこれ)。半額免除にはなるものの、"収入"が240万あるので、全額免除にはならない。
国民健康保険料が年間14万5000円。
年間で"使えるお金" は240万 ー (10万 + 26万 + 14.5万)=189.5万円のうち、家賃電気水道光熱費で9万円×12カ月=108万円。住民税とかもかかります。
年間で、食費やスマホ代、トイレットペーパーやティッシュペーパー、歯ブラシ、風呂トイレの掃除溶剤とか洗濯洗剤、食器用洗剤、歯磨き粉などの生活必需品を買うのに使える金額は、多くて月々 80万 ÷ 12 = 6.6万円だ。
③ そこになんと追い打ちの『副業禁止』!
…金持ちと実家暮らしは問題ないだろうけどさ。一人暮らしの身からすると「死ね」以外のメッセージを受け取るほうが難しい。

雇用はしていないから社会保険にも入れないが、副業禁止は命じる。
すごい精神性ですよね。これがほんとの学術振興かぁ(皮肉が止まらない)。

まあ普通に違法なので、誰か訴えれば勝てるんだと思う。私は訴訟の前にまず「博士課程学生以上は社会保険に入れろ」というメッセージを諸方面に触れこんでいるので、もしいい情報や応援してくれそうな人がいればご連絡下さい。

そういうわけで、高い教育を受け、ようやく学術研究に取り組むレベルまで到達した希少な大学院生たちが、「治験をしないと生活費が足りない」とか「学費を払うために治験に行かざるを得ない」というのは大げさどころか切実すぎる現実なんですよ。
で、これが起きているのは「薄給・副業禁止・社会保険にすら入れない」ことが招いた、ごく当然の結果でしかない。こんな状況に耐えてまで研究者を目指す人がいなくなるのは当たり前で、経済的な理由で研究の道を辞めていく、優秀な人たち、研究したかった人たち、を何人も見ました。
ある大学院生は、似た境遇の後輩にそのライフハックを教えていたし、それくらいしか生きていくやり方はないと思う。むしろ他に方法があるなら是非教えて下さい。

言うまでもないけど、治験をやりたくてやる人なんていない。
お金に困ってないのに、9日間とか病院に拘束されて、食べ物を貰ってしまう可能性を潰すために人との面会も許されず、薬の効果と安全性を確認するために我が身に投薬され、最終日に15分おきに採血されたい人なんているんですか?
(※ 治験は「生体ボランティア」なので副業ではないし、所得税も非課税。)

(いまの学振で余裕だと言ってる人っていうのは、親がお金持ちなの。
家族と東京近郊に住んでいて、食費がかからなくて、水道光熱費も親が払ってくれて。一人暮らしだとしたら、実家から莫大な仕送りをしてもらえて。だってそれ以外無理だもん。
その結果として、日本の研究者の属性は「多様性」どころか、バックグランドが何となく似ていて、つまり経済的に不自由なく育ってきた高学歴富裕層で、リベラルぶってるけど無意識のうちにすごく保守な、男性、ばっかりになっている。このことについては別で書くけど、研究者みんなして保守とかほんと一番意味ない。)

話は脱線したが、この話をしていたときにだ。
「私も治験でもあればいいけど(良くないけど)、女って治験募集がほとんどないんですよね。月経周期があるからノイズクリーニングが難しいみたいで、男の募集ばかりなんですよ。まぁ、それは仕方ないかもしれない」
と私が言った。まさか、このあと頭上から金ダライが降ってくるとは思いもせず。

何て返ってきたと思いますか?

「まぁ、女の子には風俗があるからね!」

ですよ。  ??????(言語野バグった)

非常に自然と言われたので、論理がわからず一瞬こっちも煙に巻かれた。
そのあと
「そうか、implicitな女性差別が彼にこの発言をさせたのだ」
と理解した。
(ああ…発言者はじめ世間の大半がこれを理解するのにいったい何年かかるのだろう…)と気が遠くなるのはn度目のデジャブだった。

改善を求めて諸方面に訴えにいくにあたり、諸経費がなかなかバカになりません。頂いたサポートは、公益貢献費として大切に使います。ご支援感謝します。