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【小説】カシオレ

それは何気ない、ただのサークルの飲み会の一幕だった。

「え?お前このゲームやってんの?キャラ何使ってんの?ランクは?」

先輩は、矢継ぎ早に質問していた。隣の、隣の、向かいの席。私の視線やふてくされた顔に、気づくか気づかないかくらいの距離。先輩の向かいにいる、先輩と同期のミカさんは「えー」とか言いつつ楽しそうに答えている。

私もそのゲーム、やっとけばよかった。てゆーか教えてくれてもいいじゃん、先輩。私を家にあげたとき、ゲームなんて一切しないくせに。

目の前においてあるカシオレが、溶けた氷と混ざって、汗をかいている。

「なんか頼む?」

隣から急に聞こえた男の人の声に、思わず肩が飛び上がった。メニューも見てないから、カシオレでいいです、と同期の男子に伝えた。

「敬語とかうける。お前酔っ払ってんの?そんな酒弱かったっけ?」

げらげら笑いながらでっかい声で言うもんだから、隣の隣の向かいの席まで届いちゃうじゃない。ほら、先輩こっち見た。

「はぁ?うるさいなあ。ちょっとトイレ行くから、どいて、ほら。」

先輩を気にしてる私も、ミカさんに嫉妬する私も、同期に強がる私も、いたたまれない。少し、この熱気でむせ返るような空気から離れたい。新鮮な空気を吸いたい。トイレと言いつつ、店の外に出た。もしかしたら、先輩がタバコ吸いにくるかもしれないから。

空気は寒くて澄んでいた。飲み屋街じゃなければ、もっと暗くて星も見えただろうに。私はこのままでいいのだろうか。もっと美人で、もっとゲームができて、もっと魅力的だったら、先輩は私を選んでくれただろうか。きっと私がドラマの主人公だったら、ここで都合よく先輩がタバコ吸いにきて、よう、とか言って、なんかいい感じになったりして、なんだかんだあって、恋人になるんだろうな。

どうせ先輩は私をフォローしには来ない。だって彼女じゃないから。でも飲み会が終わったらきっと、うちで飲み直そう、とかLINEが来て、私は飛びついて行ってしまうんだ。

カシオレなんかで酔えるわけない。冴えた頭でひとしきり思いを巡らせて、一回深呼吸をして、戻ったらめいいっぱい隣の同期の男と楽しく話してやろう。たとえ誰かさんが気づかなくても。




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