06. Focus on Positive(ポジティブなことに焦点を当てる)
人生もアップダウンがあるように、Airbnbでのジャーニーもまさにジェットコースターであった。
Airbnbの日本上陸当時(2014年から2015年)は、メディアも画期的なC2Cビジネスとして注目したが、反対勢力からの反発も生じるようになる。
海外では「Airbnbを禁止する」というようなセンセーショナルなヘッドライン(見出し)も出てくる。新しいことを始めると軋轢が生まれるもので、イノベーションが起こるときには必ず反発がある。日本でも、注目を集めるほど、他業界からの反発が強まった時期であった。
ある日、目黒の貸オフィスに、とある業界団体から公開質問状が届いた。入社間もない広報担当だった私は、社内弁護士や公共政策担当とともに対応に当たった。正直、みんな新人であり新しい経験であった。
「THE CULTURE CODE(最強チームをつくる方法)」にも書かれているように、最強のチームは一つのゴールに向かい、お互いを対等に支え合う。全く経験のない私は広報担当者としてできることを模索した。
規制緩和に前向きなベテランの記者を調べ、アポを取り、話を聞いてもらい、どのような対応をするべきか率直に相談。広報担当者が記者に対応を相談するのは本来ありえないかもしれないが、このビジネスを日本で広めたい、軋轢にも屈してはならないという思いが先行した。人のパッションは人に伝わる、これも広報担当者として心がけていることである。
サンフランシスコの同僚や上司などとも相談しながら、広報のゴールとしては、日本での規制緩和を後押しするようなメッセージを信頼のおける第三者から出してもらうという方向に落ち着いた。
もちろん、記事を書くか、書かないか、Airbnbに対して好意的な記事となるかは、最終的にはジャーナリストや専門家の判断となる。先行する海外での規制緩和の事例や、生きがいとしてAirbnbでゲストを迎え入れているホストさんの事例を紹介したり、いかにAirbnbが日本の観光の未来や空き家対策、ひいては個人の生きがいにも繋がる可能性を秘めたプラットフォームであるかを説明をした。
日本経済の後押しのためにシェアリングエコノミーがいかに有効か、イノベーションを後押しする政策が求められるという主旨の記事が出た時は、オフィスの同僚たち、シンガポール、サンフランシスコの同僚たちと嬉しい結果を共有した日を今でも鮮明に覚えている。
それでも、規制緩和との戦いは続く。黒船、闇民泊などセンセーショナルな見出しをつける媒体もあった。とある記者からは、「日本には、旅館業法があり、赤信号というルールがある、なぜAirbnbは守らず、横断歩道を渡るのか?」とお叱りを受けた。
Airbnbとしては、「『旅館業法』は、昭和23年(1948年)に制定された法律で、そもそもインターネットの時代のビジネスを想定していない。新たなホームシェアリングのビジネスにあった公平で公正な法整備を期待してる」というメッセージを繰り返した。
広報チームは、公共政策チームと協力しながら、何度もプレス向けの勉強会を開いたり、先進的なルール作りをしている海外諸国の事例(オランダやイギリス)などの事例を現地で取材してもらったり、日本にもたらす経済効果の調査を発表したりと、あらゆる側面から、ポジティブな情報提供を試みた。
忘れもしない2018年6月15日には、日本で初めて住宅宿泊事業法(民泊新法)が施行され、晴れて、民泊(ホームシェアリングビジネス)が日本で合法的にできるようになった。こんな短期間で新しいビジネスに関する法律が日本でも可能になったことは、個人的には奇跡だと思う。日本代表を筆頭に、公共政策、リーガル、マーケティング、コミュニティ、カスタマーチームなど日本チームを含め、チームが一丸となって、同じゴールを目指した成果であった。
個人的にどんな軋轢や非難にも屈せず、毎日立ち上がれたのは、外圧は強くても、Airbnbのオフィスに行けば、スタッフのみんなが優しく迎え入れてくれたまさに帰る場所、まさにホームがあったからだ。そしてどんなマイナスなニュースや出来事が起きても、ポジティブな方向に焦点を当てる。それに尽きる。
最後に、広報として、Airbnb広報から学んだことの一つであるが、ナラティブは、自分たちで作るということである。
もちろん、最終的にはジャーナリストや第三者、有識者が記事を書くか、書かないかは決めるわけであるが、Airbnb広報チームは、書きたくなるようなナラティブや客観的事実、他国の事例、社会風潮などナラティブ、ストーリーを作るのに長けている。
最初は、そんな自分たちでトレンドなんて作れるの?と疑心暗鬼ではあったが、世の中ごとをするための、様々なストーリー展開を繰り返して、トレンドを発信し続ける。メディアも次は何が起きるのか?次のトレンドは?を追い求めていることを忘れてはならない。そして常に、基礎にあるのは、そのブランド、製品は何のために存在するのか?それを軸に、トレンドをどう発信するかを考えてみることが第一歩となる。